それは怪物〜『〆切本』(左右社編集部 編/左右社)
就職か進学か、進路が決まらずとりあえずの保険で論文を複数掛け持ちして書いていたある年の春、ふと鏡を見たら箪笥の裏側から出て来た10円玉みたいな顔色の自分と目が合った。
その数日前、原稿用紙の前で頬杖をついたら(論文の内のひとつは手書き提出指定だったのである、今じゃありえないけど)手の平に毛が当たる感触があった。宝毛が生えてきたんだと思った。良い論文が書けている吉報だと信じて、その毛を抜かずにおいた。
よく見たらちぢれた太ましい髭だった。睡眠時間が不安定だったのでホルモンが男性