映画『THE FIRST SLAM DUNK』のロゴ書体と「L」が切れている理由
ビジネスに使えるデザインの話
ビジネスにデザインの知識はけっこう使えます。苦手な人も多いから1つ知るだけでもその分アドバンテージになることもあります。noteは毎日午前7時に更新しています。
映画『THE FIRSTSLAM DUNK』
未だに鎌倉の江ノ電が通る踏切には、国内外の観光客が集まってきます。ここは、アニメ『スラムダンク』のオープニングに登場した場所なんですが、江ノ電が通過するシーンを多くのファンたちが写真に収めようと待ち構えています。ちなみにわたしのジョギングコースです。
『スラムダンク』とは週刊少年ジャンプに連載されいた漫画で、連載が終了後も根強い人気を保ち続け、作者の井上雄彦氏が脚本・監督を担当し、2022年12月に公開された映画は、非常に高い評価を得ています。
今回は、この映画のタイトルロゴに使われた書体とロゴの「L」の部分が切れている理由を解説してきます。
書体は“Railroad Gothic”
映画『THE FIRSTSLAM DUNK』のロゴに使わている欧文書体は、Railroad Gothic(レイルロードゴシック)。
この書体は、1906年にAmerican Type Founders Company(ATF)より発売されました。この時代、工業が急速に発展し、広告が台頭し始めていました。セリフ(文字の端にある鱗のようなもの)が無い「サンセリフ」(日本で言うところのゴシック体)が生まれたのもこの頃です。近い時代の書体には、Franklin Gothic(フランクリン・ゴシック)という書体があります。
これらの書体の特徴は、大胆で少し荒削りなところ。目立つことが目的の書体でもありました。Franklin Gothic(フランクリン・ゴシック)同様にRailroad Gothicもとても人気がありました。文字幅が狭く、いくぶん「急ぐ」「速い」というニュアンスがあります。“Railroad”(鉄道)と名前に付いてますが、鉄道用に創られた書体というわけではないようです。
この書体が持つニュアンスは以下のようなものと言えるでしょう:
20世紀初頭のアメリカ
工業
速い(スピード)
粗い
男性的
力強い
ちなみにこの書体は、大文字しかありません。見出し用に開発されたためです。
なぜ映画『THE FIRSTSLAM DUNK』に使われたのか
前述したとおり、この書体は「速い」「男性的」「力強い」というニュアンスがあります。バスケットボールというスポーツのニュアンスが合致するニュアンスでしょう。文字は互いに近づけるほど「速い」「急ぐ」「スピード」というニュアンスを持ちます。そこでロゴにする際にできるだけ文字間を詰めていき、コンテンツが持つ緊張感を伝えよとしたとします。そして文字を組んでみて、感じる「違和感」は「L」と「A」の間に空くスペースです。詰めると以下のようにLとAがくっつき、こんどはくっついていることに違和感を感じてしまいます。
そこでロゴのデザイナーは、Lの最後のストローク(文字の端っこ)をAの斜めのストロークに沿って削ることにしたのでしょう。
これで斜めにカットされたLに今度は違和感が生まれますが、それは意図したデザインとして見えるはずです。違和感をアクセントと解釈することができるレベルに精度が上がったとも言えます。晴れて、男性的で、荒削りで、スピード感がある書体でロゴを組み、且つぎゅっと凝縮された緊張感も持たせることが出来ています。
欧文書体の小文字は文字間をあけてはいけないのだけれど…
ロゴではTHE FIRSTの部分が文字間がSLAM DUNKに両端を合わせるためにかなり開いています。これを小文字でやってしまうと欧文書体としては強い違和感が生じてしまうのですが、大文字なら違和感が生じないんです。なぜなら小文字は急いで書くために生まれた書体で、ニュアンスとしては筆記体に近い。筆記が出自なのにそれを離して使うのは気持ちが悪いわけです。しかし大文字は石に彫って使われていたので文字が離れていても気持ち悪くないです。
まとめ
欧文書体を使って「荒削り」「スピード感」「力強い」「男性的」というニュアンスをロゴできっちり表現されています。見ていていとても楽しいロゴでした。
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