有名すぎる書体“Futura”(フツラ)の正体
ビジネスに使えるデザインの話
ビジネスにデザインの知識はけっこう使えます。苦手な人も多いから1つ知るだけでもその分アドバンテージになることもあります。noteは毎日午前7時に更新しています。
人気すぎるFutura(フツラ)という書体
いままでいくつかの記事で事あるごとに紹介してきたFutura(フツラ)という書体があります。どれくらい人気なのか、ちょっとみていきましょう。
ロゴに使われるFutura
ルイ・ヴィトン
ルイ・ヴィトンはロゴにウェブサイトにもFuturaをベースとした書体を使っています。詳しくは『ルイ・ヴィトンはどんな書体を使っているのか?』。
シュプリーム
Supreme(シュプリーム)は1994年、ニューヨークでジェームズ・ジョビア(James Jebbia)氏によりスケーターのためのショップとしてスタートしたブランドです。下にFuturaのファミリーが“Heavy Oblique(太くて斜めになった)”であるものを示します。※書体には太さや斜めになっているかどうかの種類がいくつかあります。それを「ファミリー」と言います。
オメガ(Omega)
1848年創業のスイスのラグジュアリー腕時計ブランド、オメガもロゴにFutura(のMedium)を使っています。
その他にも、ドミノ・ピザ、レッドブル、ドルチェ&ガッバーナ、ペイパル、ジレット、フェデックス、カルバン・クラインなどのロゴにFuturaは使われています。業種も価格帯もバラバラですね。
映画に使われるFutura
Futuraは、映画界でも超絶人気の書体です。
『トップガン』(1986, 2022)
『トップガン』(新旧両方)のクレジットにFuturaは使われています。
『シン・エヴァンゲリオン 劇場版』(2021)
『007 No Time To Die』(2021)
『2001年宇宙の旅』(1968)
1986年に公開されたスタンリー・キューブリック監督のSF映画『2001年宇宙の旅』にもFuturaはふんだんに使われています。
いかがでしょう?「人気すぎる」と表現しても過言ではないでしょう。至るところにFuturaは存在しています。現在でもさまざまな場面でFuturaは登場し続けています。ではFuturaはなぜこれほどまでに人気なのでしょうか? そのまえにちょっとだけFuturaという書体とは誰がいつデザインしたのか、みてみましょう。
Futuraはいつ誰がデザインしたのか?
Futuraをデザインしたのはドイツの書体デザイナー、パウル・レナー(Paul Renner)氏。同じくドイツの著名な書体デザイナーでりブックデザイナーのヤン・チヒョルト氏とも交友がありました。この書体が生まれたのは1927年。建築などでは、モダニズム建築が台頭しはじめ、デザインにおいては、バウハウスという学校が短いながらも重要な役割を果たしていた時代です。バウハウスは1919年に開校し、美術と工業を総合しようと教育と啓蒙を試みていました。しかしナチスが政権を取り、その影響でバウハウスは1933年には閉校してします。
2つの大戦に挟まれるなかで、工業や産業という手段と生活を取り巻く文字や家具、建築などの生産物をどうより良くしていくか、という模索がなされていた時代です。書体においては、幾何学的な直線や円を使って普遍的に美しいものが作れないかという模索がされていました。そんななかで生まれた書体が、Jakob ErbarのErbar(1922)に始まり、次いでのルドルフ・コッホ(Rudolf Koch)氏によるKabel(1927)やバウハウスのハーバート・バイヤー氏によるUniversal Alphabet(ユニバーサル・アルファベット)でした。
そんななかでパウル・レナー氏は、Futuraを一見幾何学的にみえるものの文字の字形やプロポーションをローマの碑文をベースにしてデザインしました。細かいところをよく調節し、無機質な幾何学的な文字に見えて、その本質は古来より使われ続けてきたアルファベットを彷彿させる骨格を持った書体になりました。その結果、Futuraは、「新しくて且つ歴史があり、無機質に見えて有機的」という相反する性格を同時に持つ書体になりました。これが人気の秘密になりました。
Futuraの魅力の理由
Futuraは、このようにして、流行に流されないで普遍的に使い続けられるものを目指していた時代に生まれました。そして幾何学を切り口にしながらも「それだけでは割り切れなさそうだ」というバランスが注入されてデザインされました。どうも美しいもの、普遍的な人気を得るものとは、理屈では割り切れないもののようです。歴史と未来、幾何学的ラインと有機的なバランスという相反する要素を併せ持つ書体としてFuturaは完成し、その相反するものを併せ持つことがFuturaの魅力のひとつとなりました。ルイ・ヴィトンやドルチェ&ガッバーナなどファッションブランドがFuturaを好むのは、ファッションブランドは歴史と新しさという相反するものを合わせ持つことを求められる存在だからです。「歴史があるのに新しい」、「革新的な部分と保守的な部分を絶妙を相持つ」、そのニュアンスをバッチリ伝えるのがFuturaというわけです。
映画においては、扱うテーマが日常から離れて壮大なものであることが多い。宇宙、洗練されたスパイ戦、SFなどの内容は、ただ未来的なだけではなく、同時に「厳かさ」や「壮大さ」もイメージのなかに含まれます。壮大さを伝えるには主観ではなく客観的なニュアンスが求められます。Futuraは、無機質さも壮大さ(ローマの碑文がベース)も未来っぽさ(幾何学的)も持っている書体です。映画のタイトルやポスターに使うにはうってつけの書体というわけです。
さらに人気があるものというのは、多くの人の目にも、同じ人の目には何度もされされ続けます。その結果、好感度と信頼度を獲得します。これは認知心理学的なもので、たとえば単純接触効果というものがあり、これは接する機会が多くなると好感を持ち始めるというもの。ただしこの効果は限定的です。言いたいのは、この傾向だけでなく、人は慣れ親しんだものを好み、信頼する傾向を持っているということです。
その結果、人気のあるものはさらに人気になるというわけです。
単純接触効果については別アカウントでこちらに詳しく書きました。
まとめ
Futura(フツラ)がどんな書体なのか、という出自だけでは、実はその人気を説明しきれない部分があります。Futuraの小文字の「p」をちょっと拡大したものを見てみましょう。
よくみると線の太さは一様でありませんし、正円も使っていません。単純に見えて単純じゃない。幾何学的に見えて幾何学的じゃない部分がある。新しいように見えて、古い部分もある。まるで人間のように相克するものを持っています。「矛盾している」とさえ言えます。この割り切れなさが、人気の本質かもしれません。
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参照
https://theschedio.com/famous-logos-futura/
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