見出し画像

ルイ・ヴィトンはどんな書体を使っているのか?

ビジネスに使えるデザインの話

ビジネスにデザインの知識はけっこう使えます。苦手な人も多いから1つ知るだけでもその分アドバンテージになることもあります。noteは毎日午前7時に更新しています


ブランドと書体

ブランドはその思想や哲学、ニュアンスを伝えるために書体を上手に使っています。その好例をブランドごとに紹介していきます。


ルイ・ヴィトンどんなブランド?

シャンゼリゼ通りのルイ・ヴィトンビルディング
By Hkorich - Own work, CC BY-SA 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=110037625

ルイ・ヴィトン(Louis Vuitton)は、フランスのマルティエ(Malletier、スーツケース職人)であるルイ・ヴィトン(Louis Vuitton、1821–1892)が創始したファッションブランド。1987年に、フランスの投資家ベルナール・アルノー氏が「高級ブランドのグループを作る」という考えを持ち、モエ・ヘネシーのCEOアラン・シュヴァリエ、ルイ・ヴィトンの社長アンリ・ラカミエと協力してLVMHを設立し、以降、ルイ・ヴィトンはLVMHのなかでの中核的なブランドとして存続してきています。

LVMHのロゴ
Quelle konvertiert von Marsupilami - http://www.lvmh.com/comfi/pdf_gbr/Rapport_semestriel2007.pdf, colors from http://www.lvmh.com/comfi/pdf_gbr/LVMH2007Financialdocuments.pdf, パブリック・ドメイン, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=10392943による

By Jérémy Barande / Ecole polytechnique Université Paris-Saclay, CC BY-SA 2.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=57236367

LVMH傘下のブランド

フランス、パリのLVMHグローバル本部
UHF - 投稿者自身による著作物, CC 表示-継承 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=24701008による

ベルナール・アルノー氏の構想から始まった「高級ブランドグループの創造」は、1987年、ルイ・ヴィトンとモエ・ヘネシー(シャンパンのモエ・エ・シャンドン、コニャックのヘネシーを販売していた会社)が合併し、LVMHとして始まりました。以来、着々と傘下のブランドを増やし、2022年現在は、70ブランド以上。

傘下のブランド例

高級ブランドの世界には背後に大きな帝国が存在していることがよく分かります。

LOUIS VUITTON (ルイ・ヴィトン)
Dior / Christian Dior (ディオール/クリスチャン・ディオール)
GIVENCHY (ジバンシー)
FENDI (フェンディ)
LOEWE (ロエベ)
CELINE (セリーヌ)
EMILIO PUCCI (エミリオ・プッチ)
KENZO (ケンゾー)
BERLUTI (ベルルッティ)
Donna Karan (ダナ・キャラン)
MARC JACOBS (マーク・ジェイコブス)
TAG HEUER (タグ・ホイヤー)
FRED (フレッド)
HUBLOT(ウブロ)
ZENITH (ゼニス)
BVLGARI(ブルガリ)
Tiffany & Co. (ティファニー)
Moet & Chandon (モエ・エ・シャンドン)
Dom Pérignon (ドン・ペリニヨン)
Krug (クリュッグ)
Ruinart (ルイナール)
Veuve Clicquot Ponsardin (ヴーヴ・クリコ)
Hennessy (ヘネシー)
BELVEDERE VODKA (ベルヴェデール)
Glenmorangie (グレンモーレンジ)
Ardbeg(アードベッグ)
CHANDON (シャンドン)
Château d'Yquem (シャトー ディケム)
RIMOWA (リモワ)
Pinarello (ピナレロ)

ルイ・ヴィトンの歴史

ルイ・ヴィトン氏(1821-1892)
By Unknown author - Zoot Online, Public Domain, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=15058944

ルイ・ヴィトンが評価されるようになったのは、創始者であるルイが亡くなった後からでした。

1854年 ヴィトン社はまず「グリ・トリアノン・キャンバス」(Gris Trianon) というトランク工場として創始されましたた。このトランクは灰色のキャンバス地で覆われており、とても軽量なものであった。1854年、ルイはエミリー(Emilie Clemence Pariaux)と結婚、同年、世界初となる旅行用鞄の専門店をパリに創業。

1860年 需要に押されて規模を拡大。

1867年 パリ万国博覧会で銅メダルを獲得。これにより世界的な評判を得、1869年にはエジプト総督のイスマーイール・パシャが、1877年にはロシアのニコライ皇太子(後のニコライ2世)がそれぞれ、1セットのトランクを発注。また、当時世界的に力を持っていたスペイン国王アルフォンソ12世からもトランクの注文を受ける。

1892年 ルイ氏は自宅で息を引き取り、息子のジョルジュ氏が会社の全権を握る。ジョルジュ氏はルイ・ヴィトン社を世界的な企業へと押し上げていきました。

1896年 模倣品が出回ってきたことから、ヴィトン社はそのトレードマークとなる布地を新たに発表。モノグラム・ラインと呼ばれることになるその模様は、様々なシンボルと共にルイ・ヴィトンを示す「LV」というマークが描かれたもの。


ルイ・ヴィトンのモノグラム
By Louis Vuitton Malletier SAS - louisvuitton.com, CC BY-SA 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=121788111

このモノグラムは、万国博覧会で目にした日本の家紋に触発されてデザインされたものでした。

1898年当時のルイ・ヴィトンの鞄の広告
By Villanova University Digital Library - Flickr: Advertisement for Louis Vuitton, Public Domain, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=16925102

1904年 ジョルジュ氏はセントルイス万国博覧会において議長を務めました。

1914年 パリのシャンゼリゼ通りに世界最大のトラベル・グッズ専門店をオープン。

以降、世界的な規模で店舗を展開し、1987年にLVMHが誕生し、現在に至ります。


ルイ・ヴィトンのロゴ

ルイ・ヴィトンのロゴ
By Louis Vuitton Malletier SAS - louisvuitton.com, CC BY-SA 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=121788110

このロゴに使われている書体は、Futura(フツラ)という書体です。

書体Futura(1927)
By Sherbyte - Own work, Public Domain, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=11577652

ドイツのパウル・レンナー氏が1927年にデザインした書体です。めちゃくちゃに世界的に人気な書体で街を歩けば、映画を観れば、レコードを漁れば、出会う書体です。

たとえば、ドルチェ&ガッバーナ、フェデックス、ナイキ、ジレット、レッドブル、オメガのロゴもFuturaをベースにしたものです。

オメガのロゴにもFuturaが使われています
By Omega - http://www.omegawatches.com/, Public Domain, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=9489313

Futuraがかくも人気な理由のひとつは「人気になったから」。認知度の高さが使用頻度を高めたところは多分にありました。ではそもそもなぜ人気になったのか、それは「使い勝手の良さと品の良さ」です。Futuraは、ローマの碑文をベースにしたサンセリフ体です。サンセリフ体とは日本でいうところの「ゴシック体」です。碑文をベースにしているため、厳かで、本物らしく、そして美しい。

パルテノンに彫られた碑文
Image source: Rome in the Footsteps of an XVIIIth Century Traveller

サンセリフ体であることで、未来的な(古いままではない)印象を持っています。そして少し冷たい(幾何学的な造形なため)。多くのブランドや企業は、歴史と先進性を同居させたいという矛盾した動機を持っていることが多くあります。Futuraは文字一つで、その印象を持っているとても使い勝手の良い書体なんです。映画では現在でも超人気の書体です。

映画『Gravity』の宣伝イメージ
Image sourcde: Den of Geek

ルイ・ヴィトンのロゴの小さな秘密


ルイ・ヴィトンのロゴBy Louis Vuitton Malletier SAS - louisvuitton.com, CC BY-SA 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=121788110

ルイ・ヴィトンのロゴは、Futuraを文字の間を開き気味にして使っています。そうすることによって元になっているローマの碑文にある厳かさが際立って全面に出てきています。同じFuturaを使っていても文字を詰めに詰めまくったドルチェ&ガッバーナと印象が大きく異なります。

ドルチェ&ガッバーナのロゴBy SVG conversion by Lokomotive74 - http://de.wikipedia.org/wiki/Datei:Dolce_%26_Gabbana.svg; http://www.brandsoftheworld.com/node/22879, Public Domain, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=10192324


ルイ・ヴィトンは、文章には何の書体を使っているのか?

ルイ・ヴィトンのウェブサイト
Image source: Louis vuitton

ルイ・ヴィトンはウェブサイトなどでは、Futuraをベースにした(微調整した)Louis Vuittonという名のオリジナル書体を使っています。

これはFuturaのMeidumという太さ
ウェブサイトで使われているオリジナル書体とほとんど同じ。

パクリではなく、許諾を取るか依頼して制作した書体のはずです。Louis Vuittonの書体情報はけっこう調べてもほとんど見つからないで推測ですが。


何を読み取れるのか?

ルイ・ヴィトンは、ファッショニスタではなくても、多くの人がその名をしる高級ブランドです。誰もが知るブランドというのは記号としてどこでも通じる強さを持っています。一方で、ルイ・ヴィトンはブランドのとしての哲学などはわかりにくい(すくなくともわたしには)。ルイ・ヴィトンは巨大で有名すぎるために「ルイ・ヴィトンであることがルイ・ヴィトンたらしめる」ブランドです。モノグラムなどのレガシーは、モチーフとして使い回され続け、それでいて常にとても新しい。新しくあり続けることが、歴史あるルイ・ヴィトンの姿勢のようです。であるならば、デザインされて100年ちかく経っているのに未だに「古臭さ」がまったくないFuturaという書体を首尾一貫して使うことは、非常にルイ・ヴィトンらしいといえます。ルイ・ヴィトンが使うからFuturaもまたルイ・ヴィトンらしく見える、かのように。

認知度が高いことは、強力な資産である」ということをルイ・ヴィトンというブランドとFuturaの使い方から思い知らされます。しかし同時に少しもとどまることなく、新しいものを取り入れていく姿勢もまたすごい。2018年からルイ・ヴィトンのクリエイティブディレクターに就任していたヴァージル・アブローVirgil Abloh)氏が2021年に癌で41歳という若さで死去しています。

ヴァージル・アブロー(Virgil Abloh)
Myles Kalus Anak Jihem - 投稿者自身による著作物, CC 表示-継承 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=77664252による

アブロー氏が残したものとこれからのルイ・ヴィトンの両方を見つめていけば、ルイ・ヴィトンのみならず、「歴史を背負いながら変わり続ける」とはどういうことか、を現在進行形で学べる気がします。


まとめ

ルイ・ヴィトンは、書体とロゴの関係を扱ううえで、すぐに例として扱われるブランドです。しかし思想やブランドそのものと書体の関係まではあまり扱われません。Futuraという普遍的に存在している書体がルイ・ヴィトンのなかではどんな表情を見せているのか、店舗での表示などでたしかめてみるのも楽しいかもしれません。


関連記事


参照



よろしければサポートをお願いします。サポート頂いた金額は、書籍購入や研究に利用させていただきます。