【小説】あと13日で新型コロナウイルスは終わります。
~新型コロナウイルスの疑いがある妊婦さんを対応していると……~
「ごめんなさーーい。ここのクリニックに到着する寸前に⚫⚫さんの熱に気づいて、クリニックに電話しようと思っていたら、みんなが飛び出してきたから。」
看護助手は今にも泣きそうな顔をしていた。
「大丈夫よ。付き添ってくれてありがとう。院長に確認するから、二人は他の人が通らない場所に移動して、そこで待機していて。」
看護師は院内に入ると、⚫⚫さんのカルテを持って院長に相談した。
「看護師が一人、“コロナ感染症セット”(防護服、キャップ、N95マスク、防護マスク、フェイスシールド、シューズキャップ、ディスポ、防護グローブ)で検温や血圧測定をしてくること。その間、残っている患者さんを⚫⚫さんたちに近づかせずに帰宅させて、残りのスタッフ全員で清潔ルートと不潔ルートの確保を。検温や血圧測定した看護師は、こちらの合図があるまで中に入らないこと。」
お産施設のない産婦人科クリニックであったが、
✔新型コロナウイルスの疑いのある患者さんがすでに院内に入ってしまったとき
✔妊婦さんの同居家族に新型コロナウイルス患者が出たとき
✔妊婦さんの同僚に新型コロナウイルス患者が出たとき
の対応マニュアルは作ってあって、毎月、勉強会を開き、患者さんたちに見えないところにマニュアルを貼り出し、必要な医療品も一通り揃えてあった。
実際、今まで3回この対応をしたことがあったが、該当していたすべての患者さんは、後日陰性であることが判明していた。
(注) 来院する前に、新型コロナウイルスの感染が疑われる場合には、クリニックで対応できないため、感染症対策を行っている総合病院に行ってもらっていた。
*
「私が⚫⚫さんたちの対応をします!」
看護師が一人志願した。
「ええ、いいの? 何か悪いよ。いつもやってもらっているし。」
子どもがいる看護師が止めに入った。志願した看護師がイライラしながら、
「何、今、そんなこと言ってるのよ⁉ あなたが感染したら、家にいる子どもはどうするのよ? 今更議論してる時間もないし、子どもがいない私が行くわ!」
と強く言って、コロナ感染症セットの袋を勢いよく開けた。
彼女が着替えている間、事務スタッフと受付スタッフは、残っていた患者さん二人の会計を済ませると、その二人を安全なルートを使って帰宅させた。
それが終わると、事務スタッフと受付スタッフがマニュアルに従って、養生テープを貼りながら、清潔ルートと不潔ルートを作った。
⚫⚫さんたちの対応をする看護師以外の看護師は、診察室のベッドや内診台などにシートをかぶせていった。
院長もコロナ感染セットを開けて、白衣の上着を脱ぐと、防護服を着た。
「検温と血圧測定に行きます!」
防護が完璧なのを他の看護師に確認してもらった後、その看護師は、⚫⚫さんたちの元へ向かった。その間、残りの看護師も防護服を着始めたが、事務や受付スタッフは一人の事務を残して帰宅準備を始めた。
もし、⚫⚫さんが新型コロナウイルスにかかっていれば、全員が防護服を着なければならなかったが、⚫⚫クリニックにはそんな数の防護服の予算がなかったからだ。
*
「⚫⚫さん、公園からずっと歩いてきたの? 体調はどう?」
「熱っぽいです。」
「ちょっとおでこを出して測るわね。」
37.8℃
(高い……けど、こんな寒空の中、寝ていたせいで風邪をひいただけかもしれない。)
「血圧も測るから、腕を出して。」
その間、看護助手が⚫⚫さんの荷物を預かったり、補助し続けた。
上が145、下が102
(何でこんなに高いんだろう。⚫⚫さんって、元は高血圧ではなかったはずなのに。)
看護師は、クリニックから持ち出したPHSで院内の看護師に数値を報告した。
離れた場所には、事務と受付スタッフが帰っていくのが見えた。
「寒かったからかなぁ。おしっこ、漏らしちゃったかもしれない。」
⚫⚫さんの言葉に、看護師と看護助手は思わず目を合わせた。
“破水⁉”
「破水の疑いもあり。チェックプロムが必要かもしれません。」
看護師はPHS越しに院内の看護師にそう告げると、院内の看護師が息をのむのがきこえた。
新型コロナウイルスが終わるまで、
あと13日。
これは、フィクションです。
◆自殺を防止するために厚生労働省のホームページで紹介している主な悩み相談窓口
▼いのちの電話 0570・783・556(午前10時~午後10時)、0120・783・556(午後4時~同9時、毎月10日は午前8時~翌日午前8時)
▼こころの健康相談統一ダイヤル 0570・064・556(対応の曜日・時間は都道府県により異なる)
▼よりそいホットライン 0120・279・338(24時間対応) 岩手、宮城、福島各県からは0120・279・226(24時間対応)
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