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【小説】あと12日で新型コロナウイルスは終わります。

~破水か。それとも、……。~

看護師と看護助手と⚫⚫さんの3人はいつでも院内に入れる準備が整い、あとは院内からの指示を待つばかりであった。

「『破水してるかもしれないから、チェックプロムの用意』だって。」

「ええっ⁉」

一部の看護師と事務スタッフの一人は、コロナ感染症セット( 防護服、キャップ、N95マスク、防護マスク、フェイスシールド、シューズキャップ、ディスポ、防護グローブ )を装着しながら、院長の指示を聞いた。

「まず、チェックプロム(破水検査)。陽性(破水)なら、すぐに総合病院に連絡して救急搬送。陰性(未破水)なら、診察。全員の準備が整ったら、⚫⚫さんを院内に入れる。」

事務スタッフは着替えながら、清潔ルートへ消えて行った。彼女は、もちろん診察には立ち合わないが、お会計の説明や清掃などのため、残ってもらっていた。

ピピピピピ

院外の看護師からのPHSが鳴った。

「羊水か失禁かわからないものが、また出てきています。少し血が混ざっているかもしれません。」

院外の看護師の声が先ほどよりも緊迫さを帯びているのが伝わった。着替え終わっていない看護師はあと一人だけであった。みんなの視線に気づいたその看護師は、

「私、行きます!」

と突然言い出し、そのままの中途半端な姿で外に行こうとしたため、他のスタッフが慌てて彼女を押さえつけた。彼女は元々責任感が人一倍強く、感染覚悟で対応しようとしたのだ。

「あなたにも家族がいるでしょ⁉」

「早く着替えて!」

他のスタッフの呼び掛けに彼女も冷静さを取り戻し、再び大急ぎで残りのコロナ感染症セットを身につけた。

「全員、装着完了。」

PHSで外の看護師に連絡すると、⚫⚫さんを両脇から抱えるようにして、その看護師と看護助手が入ってきた。

⚫⚫さんと看護師が診察室に入ると、完全装備した事務スタッフが看護助手に声をかけた。

「お疲れ様です。しばらく不潔ルートに待機になります。診察が終わってから院長に確認するけど、家の家族は大丈夫ですか。」

「家に連絡してもいいかな?」

「不潔ルートの隅で会話するなら大丈夫だと思います。」

看護助手は重たい足取りで移動した。

(わたし、新型コロナウイルスに感染しちゃったかもしれない……)



「チェックプロム(破水検査)。」

院長がそう言うと、看護師が検査キットを渡した。検査結果が出るまで、少し時間がかかるので、その間、血圧測定をした。

「上が148、下が109。」

(先ほどより上がっている。)

院長は前回までのカルテをチラッと見た。

チェックプロムの結果は、“うっすら陽性(破水?)”であった。

「エコー(超音波画像診断)。」

看護師が⚫⚫さんを診察室のベッドに寝かせた。

「ノンスト(ノンストレステスト/NST/胎児well-being検査)の用意。」

看護師がノンストを移動し、電源をコンセントに差し込むとスイッチを押した

ドクン、ドクン、……

用紙に印字された波形は一定ではなかった。

「⚫⚫さん、血圧が高いし、破水している可能性が高い。赤ちゃんの心拍や心音も落ちている。うちはお産の施設がないから、設備がしっかり整っている大きな病院に搬送します。いいですね?」

⚫⚫さんは、小さく頷いた。

横で聞いていた看護師がFAX用の紹介状を院長に渡すと、院長は⚫⚫さんの症状を書き始め、それと同時進行で、看護師が搬送先病院一覧表を持ち出して、電話の子機に手を伸ばした。

新型コロナウイルスが終わるまで、
あと12日。

これは、フィクションです。

 ◆自殺を防止するために厚生労働省のホームページで紹介している主な悩み相談窓口

 ▼いのちの電話 0570・783・556(午前10時~午後10時)、0120・783・556(午後4時~同9時、毎月10日は午前8時~翌日午前8時)

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 ▼よりそいホットライン 0120・279・338(24時間対応) 岩手、宮城、福島各県からは0120・279・226(24時間対応)

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