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【小説】あと30日で新型コロナウイルスは終わります。

~高齢者は高齢者らしくするべき?田中のおばあちゃんが教えてくれたこと~

「店長とちょっと話してくる。」

そう言うと、田中のおばあちゃんは通話室を出て行った。

ここで、田中のおばあちゃんの話をしたいと思う。アキナがそこのネットカフェを利用するようになってしばらくすると、毎晩、泊まりに来ているおばあちゃんがいることに気づいた。

アキナは当初そのことに対して気にも留めていなかった。というよりは気にしないようにしていた。それというのも、高齢者がネットカフェを利用するのは珍しいことではなかったからだ。

✅家族と喧嘩して家出してきた
✅住む家を失った

という深刻なものから、

✅インターネットを利用してみたい
✅好きな映画やテレビを観たい
✅一度ネットカフェを利用してみたかった

など様々だ。

それに、アキナが他人から詮索されたくないように、他の人も他人から詮索されたくないはずだからだ。

でも、毎晩毎晩泊まりに来ているおばあちゃんを見て、アキナは思いきって声をかけた。場合によっては、“福祉”に繋ごうと考えていたのだ。

だが、その心配は杞憂なものだったとすぐにわかった。

田中のおばあちゃんが家を出たきっかけこそ、息子さんのお嫁さんと折り合いが悪かったことが原因だったが、新しく住む場所に関して、当初いくつかの選択肢があった。

✔アパートを借りて一人暮らしをする

✔高齢者用の施設に入る

✔シェアハウスに入る

【アパートを借りて一人暮らしをする】

治安の不安があり一人暮らしはしたくなかった。かと言って、オートロック付きや管理人がいる高級マンションを借りられるほどお金に余裕はなかった。

【高齢者用の施設に入る】

いくつか見学に行ったが、高齢者を子ども扱いする施設だったり、高齢者が自立している施設は高額だったりして断念した。

【シェアハウスに入る】

シェアハウスにいくつか申し込んでみたが、すべて断られた。

田中のおばあちゃんは、病院いらずなくらいどこも悪くなく元気だ。それでも、高齢者を受け入れてくれるシェアハウスはなかった。

「シェアハウスで死なれたら、後がいろいろ大変なんだろよ。仕方ない。ハハハハ。」

田中のおばあちゃんは元気よく笑った。最後にたどり着いた先がネットカフェだったというわけだ。

ナイト料金を使うと、
1泊1500円×30日間=45000円

体がしんどい日は一日中寝ていることもあるから、1ヶ月で5万円を超えていたが、年金の支給だけでも十分やっていくことができた。住民票は息子さんの住所にしてあるそうだ。

「ここはスタッフさんが24時間いるし、テレビもインターネットも独り占めできるし、シャワーとトイレが付いていて、ドリンクと朝食が食べ放題、たまにマッサージチェアも利用して、ほんとうに幸せだね。」

田中のおばあちゃんは、シルバー割だけじゃなく、アプリを利用したりして割り引き料金を上手く使いこなしていた。

「私たちの世代は、年金を払ったよりも多く貰えて、医療費も1割負担で済んで、だから、極力福祉や介護には頼らず生きていくだけじゃなく、こうやって、お金はすべて民間で使い切らないとね。若い世代に繋いでいかないと。」

田中のおばあちゃんはそう言って、微笑んだ。今の若い世代に申し訳ないと思っているのかどうか分からないが、田中のおばあちゃんが使った後のシャワールームに入ると、スタッフが清掃した後よりも綺麗になっていることがあった。トイレの洗面所まわりが綺麗なのも、きっと彼女が掃除していてくれるからに違いない。

店長や副店長もそのことに気づいていて、彼女にお礼を言ったり、新入りのアルバイトに注意することがあったが、彼女は、スタッフに偉ぶることは決してしなかった。彼女からは悲壮感というものは全くなく、家を出て自由を謳歌しているようだった。最近は、完全防音個室でオンラインライブも楽しむこともあるそうだ。

「すいませ~ん。」

受付の方から聞き覚えのある声がした。警察官だった。

「監視カメラを見せてもらいますね。」

「ええ、見て欲しいものがあるんです。」

店長の声は少し緊張していた。

新型コロナウイルスが終わるまで、
あと30日。

これは、フィクションです。

 ◆自殺を防止するために厚生労働省のホームページで紹介している主な悩み相談窓口

 ▼いのちの電話 0570・783・556(午前10時~午後10時)、0120・783・556(午後4時~同9時、毎月10日は午前8時~翌日午前8時)

 ▼こころの健康相談統一ダイヤル 0570・064・556(対応の曜日・時間は都道府県により異なる)

▼よりそいホットライン 0120・279・338(24時間対応) 岩手、宮城、福島各県からは0120・279・226(24時間対応)

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