【小説】あと32日で新型コロナウイルスは終わります。
~8ヶ月振りの再会~
それからアキナはほぼ毎日ネットカフェに行ったが、表向き、いつもの平穏なネットカフェに見えた。
「すみません。ここ数日、不審者は来ていませんか?」
何度か警察官も訪ねてきて来ていた。ということは、財布が消えた謎はまだ解明されていない。つまり、あの財布を盗まれたと主張している男の狂言ではなかったことになる。
「すみません。本日、面接を受けに来たものです。」
何度かそんな人が訪ねて来ていた。ということは、スタッフが誰か辞めたんだろうか。それとも、クビになったのだろうか。アキナはボーッとそんなことを考えていた。
それからさらに数日経ったある日、アキナがまたネットカフェに行くと、
「アキナさん!!」
アキナを呼ぶ人がいた。驚いてアキナは振り返った。
「田中さん!!」
アキナも思わず声を挙げた。
そこには、田中のおばあちゃんがいた。田中のおばあちゃんとは、緊急事態宣言前に会ったのが最後だった。
「田中さん!無事だったんですね!!」
「アキナさん、それはこっちのセリフだよ⁉」
二人とも思わず大声を挙げた後、スタッフと他のお客さんの視線に気づいて慌てて口をつぐんだ。
「あちらでしゃべりましょう。」
アキナは、一畳ほどの広さの通話室に案内した。
そこに誰もいないことを確認して、二人で中に入った。
「田中さん、ご無事で良かったです。」
「こっちはみんな無事だよ。みんなあなたのことを心配していたんだよ? 緊急事態宣言が出る少し前に、誰にも何にも言わずに突然姿を消すんだもの。」
アキナはそこで深呼吸をした。
「すいません。実は、わたし、看護師なんです。そのときも今も医療機関に勤めているから、感染症には人一倍過敏になっていたので、早めにホテルに行きました。」
アキナは、当時、全くの未知のウイルスから逃げたという表現は、どうしてもできなかった。
「何となくね。何となく、あなたはそうなんじゃないかって思っていたよ。毎朝定時にネットカフェを出て行って、毎晩同じ時間くらいに帰ってくるから、なにかきちんとした定職に就いているんじゃないかって。」
見ると、田中のおばあちゃんは泣いていた。
新型コロナウイルスが終わるまで、
あと32日。
これは、フィクションです。
◆自殺を防止するために厚生労働省のホームページで紹介している主な悩み相談窓口
▼いのちの電話 0570・783・556(午前10時~午後10時)、0120・783・556(午後4時~同9時、毎月10日は午前8時~翌日午前8時)
▼こころの健康相談統一ダイヤル 0570・064・556(対応の曜日・時間は都道府県により異なる)
▼よりそいホットライン 0120・279・338(24時間対応) 岩手、宮城、福島各県からは0120・279・226(24時間対応)
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