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【小説】あと9日で新型コロナウイルスは終わります。

~搬送は間に合うのか⁉
医療機関、コロナで赤字の実態~

「アプレゾリン(注射20mg)!」

「はい!」

「アプレゾリン(注射20mg)!」

「はい!」

「アプレゾリン(注射20mg)!」

……

院長は、使用した注射の本数がすでに保険適用分を超えているのがわかっていた。

(救急車の中で産ませるわけにはいかない!持ちこたえてくれ!)

⚫⚫さんは、帝王切開によるお産でないと母子ともに危険なため、下(産道)から赤ちゃんが出てきてはならないのだ。



「本人請求って、どれくらいになりそう?」

⚫⚫クリニックの殺菌・滅菌消毒をしながら、看護師が一人だけ残っていた医療事務スタッフに聞いた。

「再診料とエコー代と救急搬送代とコロナ加算、3割負担だと本人負担は数千円。救急車の中で、点滴や注射や酸素を使っていたとしても、1万円はいかないでしょうね。」

医療事務スタッフは感情を交えずに答えた。

「はあ⁉⁉⁉ 安いと数千円⁉ 高くかかっても1万円弱⁉ 時間外(加算)は? ノンスト代は? シート代は? 殺菌・滅菌代は? コロナ感染症キット×人数分は?」

看護師が怒りとも呆れとも言えない声を発している中、医療事務スタッフはたんたんと説明した。

「時間内に院内に入って診察を開始しているので、時間外加算は算定不可。ノンストはエコーとの同日算定不可です。ちなみに、エコーをやってるときは外来管理加算も算定不可。シート代・殺菌・滅菌代・感染症キット代はコロナ加算に含まれいて、別に請求できません。」

「嘘でしょ⁉」

「全国の医療機関で、ボーナスが大幅にカットされているのはこういうことが一因です。こんなことがうちみたいなちいさなクリニックで続けば、赤字・倒産ですよ。」

「いやーーー⁉」

「もっとショックなことを言っても言いですか。」

「えっ⁉ 何⁉」

「ホテル代もネットカフェ代も払えずに公園に野宿していた⚫⚫さんが、国保(国民健康保険)代を払っていたとは思えません。おそらく無保険でしょうね。」

「えっ⁉ ってことは⁉」

「うちから保険者には一切請求はできず、本人が100%負担することになりますが、まあ、本人は払えないでしょうね。たぶん、うちには1円足りとも入ってきませんよ。

「ギャーーー!!」

「通して下さい!!端に寄って下さい!!どけてください!!どきなさい!!青い車どきない!!どいてーーー!!」

救急救命士は叫んでいた。片側3車線の国道は、帰りのラッシュと重なってガッチガチに固まっていたのだ。

「(静脈用)マグネゾール(20mg)」

これが最後の注射だった。これ以上は、母胎に悪影響が出てしまう。

(間に合ってくれ!!)

救急車が渋滞を抜けて、ようやく右折すると、B総合病院が見えてきた。

新型コロナウイルスが終わるまで、
あと9日。

これは、フィクションです。

(注意)注射の用法・用量・使用順序は、実際の医療現場と異なります。

 ◆自殺を防止するために厚生労働省のホームページで紹介している主な悩み相談窓口

 ▼いのちの電話 0570・783・556(午前10時~午後10時)、0120・783・556(午後4時~同9時、毎月10日は午前8時~翌日午前8時)

 ▼こころの健康相談統一ダイヤル 0570・064・556(対応の曜日・時間は都道府県により異なる)

 ▼よりそいホットライン 0120・279・338(24時間対応) 岩手、宮城、福島各県からは0120・279・226(24時間対応)

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