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【小説】あと8日で新型コロナウイルスは終わります。

~緊急帝王切開~

救急車がB総合病院の夜間救急搬送口に着き、車のドアが開くと、防護服に身を包んだB総合病院の医師と看護師が待ち構えていた。

B総合病院の医師と救急隊員と⚫⚫クリニックの院長が申し送りを行い、すぐに緊急帝王切開が始まった。

「我々は帰りますが、お二人はどうされますか。もし、今お帰りになるなら、我々の救急車で⚫⚫クリニックへ送って行きますが。」

救急隊員の一人が、⚫⚫クリニックの院長と看護師に声を掛けてきた。

「私はオペが終わるまで残るので、君は救急車で先に帰りなさい。」

そう言われた看護師は、

「わかりました。先に失礼します。」

と言って院長に頭を下げると、

「宜しくお願いします。」

と救急隊員にお願いした。



救急車に乗って少しすると、気持ちが落ち着いてきたのか、防護服とN95マスクの中が汗でじっとりと熱がこもっているのに気づき、気持ちが悪くなってきた。

(防護服を毎日着ている救急隊員も医療機関のスタッフも、常にこんなサウナ状態なのか。秋でもこんなに暑いのだから、真夏はほんとうに地獄だったろう。)

⚫⚫クリニックに着くと、救急隊とはお互いに、

「お疲れ様です。」

と言って別れた。

(どこからどうやって入ろうか。)

防護服に身を包んだ看護師はしばし考えた。PHSをクリニックから持ち出していないので、院内に連絡するのは不可能だった。下手に院内に入れば、折角、殺菌・滅菌消毒した清潔ルートを不潔にしてしまう。それだけではなく、防護服を脱いでるスタッフとバッタリと出くわせば、そのスタッフの感染リスクが高まる。

ピンポーン♪

一か八かで、スタッフ用のドアのインターフォンを鳴らし、それと同時にドアから数メートル後ろに飛びのいた。いきなりドアが開いて、防護服を脱いだスタッフが出てくるかもしれないからだ。

「はーい!」

インターフォンから声がしたので、離れた位置のまま話し始めた。

「戻りました。わたし、どうしたらいいですか。」

「正面玄関に廻ってください。中に入ったら、そのまま真っ直ぐ廊下を歩いて、ゴミ箱の前まで行ってください。そこで防護服などを脱いでください。」

言われた通り、廊下の途中に置いてある医療廃棄物入れに防護服などを脱いで捨てた。

残っていたスタッフは、看護助手の⬜⬜さん以外は順番にシャワーを浴びて全身を洗っていた。

総合病院に行った看護師もシャワーを浴びて出てくると、⚫⚫さんの申し送りをした。

「ところで、看護助手の⬜⬜さんはどうするのか、明日は普通に開院して診察するのか、院長は何か言っていましたか。」

「とても、そんなことを聞ける雰囲気でなかったので、聞かずに帰ってきてしまいました。私はこのまま院内に泊まるつもりなので、明日、開院するにしても、休院するにしても、みんなにLINEをします。」

「わかりました。」

みんな一斉に返事をした。

「わたしはどうしたら、いいんでしょう?」

看護助手の⬜⬜さんが3メートル離れた控え室の中に入れてあるPHSから、おずおずと聞いてきた。

「院長の判断を待つことになりますが、もし、⚫⚫さんが新型コロナウイルス陽性となった場合、このまま家に帰ってしまったら、⬜⬜さんのご家族が危ないので、PCR検査の検査結果が出るまで控え室から一歩も出ないことが賢明でしょう。」

「⬜⬜さんの食事はどうしますか。」

別の看護師が聞いてきた。

「今晩はわたしがコンビニで調達してきて、差し入れします。」

「トイレはどうしたらいいんでしょう? わたしが使う度に、他のスタッフが防護服を着て清掃するのですか。」

⚫⚫クリニックはお産施設のない医療機関なので、トイレの数が限られていた。

「防護服は今回でかなり使ってしまって在庫が少ないし、お金もかかるので……、⬜⬜さん、ほんとうに悪いんだけど、検査結果が出るまで、“おまる”か“使い捨ての簡易トイレ”を使ってくれますか。」

「……、わかりました。仕方ないんですものね、ほんとうに。」

⬜⬜さんは絶句した後、そう答えた。



B総合病院では、緊急帝王切開から45分経過していた。

オギャー、オギャー、オギャー。

赤ちゃんが声が、廊下で待つ⚫⚫クリニックの院長まで届いた。

赤ちゃんは、感染症対策が施されたクベース(保育器)に入れられ、別室に移動していった。

オペ室から執刀医が出てきて、⚫⚫クリニックの院長に申し送りをした。

「手術は成功しました。⚫⚫さんはまだ麻酔が効いています。PCRの検査結果が出るのは……」



院長は執刀医にお礼を言うと、看護師に防護服を脱ぎ捨てていい場所を確認した。

院長がB総合病院を出ると、ヒューと秋風が吹きつけてきた。

「寒いっ!」

思わず身を縮めた。防護服の下は、Yシャツとスラックスだけなのだから寒いのは当然だ。

タクシー乗り場から、タクシーに乗って、

「▲▲町の⚫⚫クリニックまで頼む。」

と言うと、季節はずれの格好をした初老の男性が、夜に産婦人科クリニックを指定したため、タクシー運転手は怪訝な顔をした。

新型コロナウイルスが終わるまで、
あと8日。

これは、フィクションです。実際の医療現場とは異なります。

◆自殺を防止するために厚生労働省のホームページで紹介している主な悩み相談窓口

 ▼いのちの電話 0570・783・556(午前10時~午後10時)、0120・783・556(午後4時~同9時、毎月10日は午前8時~翌日午前8時)

 ▼こころの健康相談統一ダイヤル 0570・064・556(対応の曜日・時間は都道府県により異なる)

 ▼よりそいホットライン 0120・279・338(24時間対応) 岩手、宮城、福島各県からは0120・279・226(24時間対応)

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