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【小説】あと14日で新型コロナウイルスは終わります。

~再会~

前回の電話から2日後の午後2時頃、⚫⚫さんから⚫⚫クリニックへ再び電話がかかってきた。

前回の失敗から、看護師と受付スタッフは、固定電話の親機のディスプレイに表示されている電話番号をメモした。

「⚫⚫さん、みんな心配しているから、もう一度、うちで妊婦健診してみないかな? お産先は、それが終わってからゆっくり話し合いましょう?」

⚫⚫さんといつも話してる看護師が、今回もあえてタメ口を使ってフレンドリー作戦に出た。

そうしながらも、⚫⚫さんは一体どこから電話をかけているのだろうと思った。

今、聞くべきか。もう少し時間をかけた方がいいか。

焦って早く聞きすぎて、警戒されて電話を切られては元も子もなかったが、時間をかけ過ぎて電話代がなくなって切れてしまったら、前回と同じことの繰り返しになるだろう。

そのときだ!
「本日、午前10時頃、⚪⚪3丁目付近の自宅を出たまま、行方不明になっている▲▲さんを捜しています。年齢は、88歳、身長150㎝。お心あたりの方は……」
電話口から、高齢者を捜す専用車のアナウンスが聴こえた。

看護師はすかさず、メモ紙に、
「⚪⚪3丁目どこ?」
と書いて、看護師の近くいるスタッフたちに聞いた。

それを見ていた一人が、
「ここから車で5分くらい。」
と走り書きした。

それを見た看護師が、
「⚫⚫さんって、今、良く眠れている? 妊娠中にすごく眠たくなる人がいるでしょ? 横になって疲れはとれてる? 」
と聞いて、今、どこにいるのか。どんなところに泊まっているのか。遠回しに探りを入れた。

⚫⚫さんは、
「よく眠れないけれど、横になってる。」
と答えた。

いよいよ、
「最近、どこに泊まっている?」
と核心をついた質問をすると、⚫⚫さんは言いよどんでしまった。

看護師は話題を変えて、
「今日は、当院に妊婦健診に来られないかな? みんな待っているから。」
と聞いてみた。

少し話をしていると、お金が切れたのか、またしても唐突に電話が切れた。

すぐに、表示されていた番号に電話をかけたが、今度は何度かけても誰も出なかった。

看護師たちは、すぐに院長と保健センターに連絡をした。

「ここから、車で5分の距離にいるんですよね? 捜しに行ってはダメでしょうか。」

スタッフからそんな声も挙がったが、そこまでする権限や義務は、クリニックにはなかったし、捜しに行ったことによって、スタッフが何かの事件や事故に巻き込まれないとも限らない。

「今回も保健センターの判断に委ねよう。こちらは、『健診に来るように』『待ってる』と本人に呼び掛けているのだから、これから来るかもしれない。」

何だか落ち着かないまま、午後の診察が始まった。

午後4時半、ピリピリした空気の中、外線が鳴った。受付スタッフが電話をとると、
「なんだー、⬜⬜さん? びっくりしちゃったー。どうしたの?」
端で聞いていたスタッフも⬜⬜さんの名前を聞いて、思わずズッコケそうになった。いつも、昼休憩中、おもしろ話を聞かせてくれるパートの看護助手だった。

「あのねぇ、私、あえて捜しに行ったんじゃないのよ。ここ、帰り道だから。そしたら、⚪⚪3丁目の公園に横になってるのか、倒れているのか分からない女性がいたから、『大丈夫ですか』って声かけたら、⚫⚫さんだったの!どうしたらいい?」

「すぐ看護師に代わるから!」
受付スタッフが看護師に子機を渡した。

「⚫⚫さんはどんな感じなの?」
看護師が心配して聞くと、

「倒れていたんじゃなくて、横になってる感じ。どうしましょう?」
と看護助手は言った。

「ちょっと待って!院長に確認してくる。」
看護師が急いで、院長に確認した。

「院長がね、開院している時間までに来たら、健診を診るって。ちょっと⚫⚫さんに電話を代わってもらっていいかな?」

「もしもし。」

⚫⚫さんの声は、2時間半前より、元気がない気がした。看護師は、⚫⚫さんの体調を確認すると、⚫⚫さんから、
「今から健診に行く。」
という言葉を引き出すことに成功した。

午後5時25分、今日は来ないんじゃないかと諦めかけていたところ、受付スタッフが少し大きな声で看護師に伝えた。

「⚫⚫さんの姿が駐輪場あたりに見えます。」

思わず、受付スタッフも看護師も走り出し、玄関を出て駐輪場に向かおうとした。

「来ちゃダメーー!来ないでーー!みんな止まってーー!」

見ると、⚫⚫さんの横には看護助手の⬜⬜さんが自転車をひいていた。心配して、公園からずっと付き添っていたのだ。

「彼女、すごく熱がある!咳も!鼻水も!」

そこで、みんなは走るのをやめてピタッと止まった。

“新型コロナウイルス”

その場にいたみんなの脳裏には、同じ単語が浮かんだ。

新型コロナウイルスが終わるまで、
あと14日。

これは、フィクションです。

 ◆自殺を防止するために厚生労働省のホームページで紹介している主な悩み相談窓口

 ▼いのちの電話 0570・783・556(午前10時~午後10時)、0120・783・556(午後4時~同9時、毎月10日は午前8時~翌日午前8時)

 ▼こころの健康相談統一ダイヤル 0570・064・556(対応の曜日・時間は都道府県により異なる)

 ▼よりそいホットライン 0120・279・338(24時間対応) 岩手、宮城、福島各県からは0120・279・226(24時間対応)

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椎良麻喜|物書き(グルテンフリー/小説/エッセイ/写真)
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