【小説】ドブネズミみたいに(2)
翌日、ドラッグストアで『ネズミホイホイ』を捜した。
ネズミホイホイは、ゴキブリホイホイとクモの巣捕りの隣にあった。
(嫌われものの退治コーナーだな)
ネズミホイホイ1箱を買い物カゴに入れた。
(ん?)
ネズミホイホイの隣には『ネズミ避けスプレー』が置いてある。
(ネズミを捕まえるよりも何よりも、そもそもネズミが部屋に入ってこなければ、いいわけだ)
ネズミ避けスプレー1缶もカゴに入れた。
レジに向かうと、レジには自分と同年代と思われる男性店員が一人いた。
「この女の家、ネズミが出るんだ! 汚ねぇ!!」
男性店員の未来の心の声が聴こえた気がした。商品を全部棚に戻して、アロマの香りの柔軟剤やハーブが入ったシャンプーを買おうかとも思ったが
(この男とわたしに恋愛がはじまるわけじゃないし!)
と我に返り
(それよりも何よりも、一刻も早くネズミに出ていってほしい!)
買い物カゴを勢いよくレジ台の上に乗せた。
ピッ、ピッ
男性店員は、表情一つ変えることなく、抑揚のない声でレジ袋の有無を確認し、機械的に会計を行った。
(あー、やだやだ、自意識過剰……)
ドラッグストアをあとにした。
アパートに帰ると、買い物袋からネズミホイホイとネズミ避けスプレーを取り出した。
ネズミは部屋の角をよく走るらしい。注意書きを守り、部屋の隅に置いた。
つぎに、ネズミ避けスプレーの注意書きを読んだ。
妊婦や乳幼児がいる場所では使用しないでください。
「フフフ」
幸か不幸か、自分は妊娠もしていなければ、妊娠している可能性もまったくなかった。子どももいない。
ペット・観葉植物にかからないようにしてください。
「ハハハ」
乾いた笑い声が響いた。アパートの部屋には、ペットも飼っていなければ、観葉植物もまったくなかった。
大理石や御影石にはかけないでください。
「いやいや、まさか」
ネズミ避けスプレーは、どうやらお金持ちの家では使えないらしい。
「おやっ?」
臭いに慣れたネズミや感受性の乏しいネズミには効果が出にくい場合があります。
感受性が乏しいネズミ!!
ネズミ避けスプレーに、まさか『感受性』という単語が書かれているとは思わなかった。ネズミにも感受性があったとは、スプレー缶をまじまじと見入ってしまった。
その晩は取りあえず様子見ということで、ネズミホイホイだけを部屋にセットして、ネズミ避けスプレーは使わないことにした。
パチッ
電気を消して、ロフトの布団に入った。
ガサゴソガサ
しばらくすると、ロフトの下の居間から、例の音が聴こえてきた。
(つづく)
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