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【小説】あと11日で新型コロナウイルスは終わります。

~早く救急搬送したいのに~

⚫⚫クリニックでは、大きく分けて、産科用と婦人科用に紹介先一覧表を作ってあった。

さらに、新型コロナウイルスが流行すると、感染対策が徹底されている病院を絞りこみ、紹介先病院にも連絡をいれ、救急の受け入れ体制の関係を万全にしていた。

「A総合病院。」

院長は、一覧表のいちばん上に載っている病院を指定し、紹介状のいちばん上にもその名を書いた。

院長が紹介状に症状を書いている間、看護師が、カルテや母子手帳から、今までの検査結果をすぐにfax送信できるように準備した。

紹介状が出来上がると、看護師はすぐにA総合病院の医療連携室に電話した

「⚫⚫クリニックの看護師⬛⬛です。そちらに搬送したい妊婦がいます。名前は、⚫⚫ ⚫⚫。生年月日は⚫年⚫月⚫日、⚫歳。妊娠⚫週、PROM(プロム/前期破水)疑い、PIH(ピーアイエイチ/妊娠高血圧症候群/以前は“妊娠中毒症”と呼ばれていた)疑い、NRFS(エヌアールエフエス/胎児機能不全)疑い、KT37.8(体温37.8℃)、……」

看護師は必要事項をすべて伝えると、受け入れ先の返事を待つため、一旦電話を切り、紹介状と今までの検査結果をA総合病院の医療連携室宛てにfaxした。

その間も、院長と別の看護師が⚫⚫さんと胎児が急変しないかどうか注意深く観察した。

A総合病院からの返事は恐ろしく長く感じた。実際は、5分くらいだろうか。

トゥル

「はい、 ⚫⚫クリニックです。」

1コールも鳴り終わらないうちに看護師が出た。

「はい、院長に変わります。院長、A総合病院の医療連携室です。」

「はい、⚫⚫クリニック院長……」

院長とA総合病院の医療連携室のスタッフが何回か言葉を交わした後、院長が電話を切ると同時に、

「B総合病院。」

と看護師に伝えた。A総合病院は救急の妊婦が他にもいたため断られたのだ。断られたからと言って、落ち込んだり動揺している時間はない。看護師は、B総合病院の医療連携室に電話をかけた。

「⚫⚫クリニックの看護師⬛⬛です。そちらに搬送したい妊婦がいます。名前は……」

その間、院長はB総合病院宛てに紹介状を書き直した。その様子を別の看護師が見ながら、

(やっぱり、院長にはパソコン操作を覚えて貰うか。それとも、院長が言ったことをスタッフが代わりにパソコンで打つようにするか。どちらにせよ、パソコンなら医療機関名以外はコピペして、医療機関名だけ打てばいいだけなのに!)

今回のことがすべて終わったら、本気で提案しようと心に誓った。

電話をしている看護師は、先ほどA総合病院の医療連携室と同じ内容をB総合病院の医療連携室に伝えて、同じように、B総合病院用の紹介状と検査結果をfaxした。

B総合病院の返事は、焦りからくる思い込みでも何でもなく、15分以上経っても折り返しの電話がなく、院長も看護師も苛立ちを隠せなくなってきていた。

「先生!血圧151/110、脈拍……」

普段は落ち着いているベテラン看護師が大声を出した。

「点滴の用意!酸素も!」

院長も立ち上がった。

トゥル

「はい、⚫⚫クリニックです。院長に変わります。院長、B総合病院⬛⬛先生です。」

院長は素早く受話器を取ると、⬛⬛先生と早口でやり取りを始めた。普段は冷静沈着で温厚と評判の院長が時折声を荒げて、⬛⬛先生を怒鳴り付けた。電話を切ると、

「搬送先が決まった。」

院長はそう言ったが安心はまだできない。B総合病院に⚫⚫さんが到着する前に急変するかもしれないからだ。

「点滴と酸素も持っていく。準備して。私も救急車に乗る。看護師も一人乗って。」

院長はすでに覚悟を決めているようだった。

トゥル

「はい、⚫⚫クリニックです。はい、そうです。COVID-19疑いの妊婦です。はい、わかりました。正面玄関からお願いします。」

看護師は電話を切ると、院長や他の看護師に伝えた。

「あと10分で救急車が正面玄関に到着します。」

そのとき、⚫⚫さんがうめき声を挙げた。

新型コロナウイルスが終わるまで、
あと11日。

これは、フィクションです。

 ◆自殺を防止するために厚生労働省のホームページで紹介している主な悩み相談窓口

 ▼いのちの電話 0570・783・556(午前10時~午後10時)、0120・783・556(午後4時~同9時、毎月10日は午前8時~翌日午前8時)

 ▼こころの健康相談統一ダイヤル 0570・064・556(対応の曜日・時間は都道府県により異なる)

 ▼よりそいホットライン 0120・279・338(24時間対応) 岩手、宮城、福島各県からは0120・279・226(24時間対応)

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