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母の作る空間


陽が落ち、室内の照明をつけると影がたくさん生まれる。

朝はシンプルなのに、夜になるとゆらゆらと揺れる影。

まるで心を落ち着けるようにと、揺れる影。



私は子供の時から何度この影を見て夜を過ごしてきたのだろう。


この影の下でする夜更かしも、晩酌も、映画鑑賞も、時には涙で眠れない夜も、何十・何百と越えてきた。

改めて実家に帰りここで夜を過ごすと、当時の色々な感情が蘇る。眠りに上手く入れない時は必ずこの影の下にきて時間が過ぎるのを待っていた。そんな記憶と感情。


〜〜〜


母は私が子供の頃から時間を見つけては頻繁にインテリを変えていた。

好きなテレビ番組は「建物探訪」。

こだわりのものをDIYし雑誌に特集をされたこともある。


小さい頃はそんな母を見て、そんなに頻繁に空間を変える必要ないのに、とどこか冷ややかな目で見ていた気がするが、大人になってから少しその行動の意味を理解できるようになった。



自宅の空間を変えることで、心を整える事ができる、という事だ。



マインドが落ちているときに、自分の気に入っている空間に戻るのと、適当な空間に戻ることでは回復が違う。たくさんの癒しに囲まれて、好きに囲まれて、どんなに不機嫌な自身でも少しだけ機嫌を直す事が出来る。



そんな当たり前のことに気がつかなかったのは、小さい頃から快適が当たり前の実家で暮らしていたからだ。母の時間がインテリアに割かれる事が嫌だったのに、作る空間は大好きだった。



それは今も変わらず。


エアプランツや、トリのモビール、ガラスを天井から吊るし、オレンジの光で現れる影を見ていたら、とてつもなく心が落ち着く。安心感がある。母の暖かさを感じる。


母は私の前で、ドラマと映画以外で泣いている姿を見せた事がない。でも25年間涙を流していないなんてそんなことはありえない。だって母は確かに強いけど、私に遺伝子を残しているからきっと私と同じで本当は弱い人なのだ。


母だって1人の女性なのだ。


私が寝た後、この部屋で1人多くを考えていたのかもしれない。そう思うと心がひどく傷んだ。


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60歳目前の母を、たくさん愛していきたい。


もっとたくさん実家に帰ってきて、この部屋でゆっくり2人で過ごしたい。



そうして弱さを支え合っていきたい。


今までもらってきた暖かさを、これからは返していかなければならない。



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