しげた

好きなほめ言葉は「粗削りだが、光るものを感じる」です。

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マガジン

  • 君は短歌を詠まない

    ミスター短歌ボーイが、作った短歌を言い訳していくためのマガジンです。感想や改稿案などやんわりとお待ちしております。

最近の記事

『俺が風鈴とドライヤーを戦わせてる間に友人が結婚した』

「ぼくさ、結婚したんだよね」 と言われて思わず時刻を確認する。午前4時である。こいつも俺も、夜が明けてもなにもすることのない身の上であるから、思ったより進んでいる時計に驚くことはない。 かといって驚くような話でもない。ああこいつもか、と思っただけだった。淡々とキルを取り、ゲーム終了を待ってコントローラーを置く。たっぷりと伸びをしてから「そりゃめでたいな」とマイクに向かって発してみる。 「ちょっとはびっくりするかと思ったのに」 「そんなことでエイムがずれると思ったら大間違い

    • サヨナラバス発車の妨げになりますので離れてお見送りください

      50歳を過ぎてバスで移動しなければいけない男は悲しい。 それが夜行であれば猶更である。夜行バスの切符とはおおむね若者のあり余る時間とそのまだ頑強な腰骨だといっていい。私とてまだ若かりし頃はそれなりに世話になったものだが、今や陸路を往くことすら珍しい。 時刻は午後5時を過ぎたところ。なんとか明日の朝までに帰りつかねばならない私を、荒天による飛行機の欠航が片田舎のバスターミナルへと追いやっているのである。めくれあがったコンクリートが砂利のようになっていて、時折、革靴とこすれて

      • 我は風紀委員長、明日この世界を粛清する

        こんにちは、風紀委員長をしている者です。自主的に近所の風紀を取り締まっています。 昨日、家の近所を歩いていると、著しく風紀を乱す設置物を発見しました。 1000円ガチャです。 煌々たる明かり、巨大テプラによる喧伝……1000円ガチャで間違いありません。ドン・キホーテの領事館ともいうべき設置物がこの街の商店街にとうとう出現したようなのです。コインパーキングの精算機の横という、財布を出すシーンを見計らってにゅうっと顔を出し、千円札を掠めていく。そんな狙いなのでしょうか。

        • 遅刻決定焦燥漏精譚

          五月、俺はダイエットのため走り詰めだった。約二〇〇キロの距離を走った。月末、酷使された膝を動かすとギシギシと軋んだ。 五月三十一日、夕飯を終えた俺は友人と近所の銭湯に行った。普段はサウナと水風呂も利用するのだがどうにも面倒で、湯を借りるだけ借りてそそくさと出た。帰りがけ、友人から蛍でも見に行かないかと誘われたが、膝が痛むし、何より眠気が襲い来ていた。断りを入れて家に戻り、ベッドに潜り込む。おおよそ22時くらいのことである。 俺はこの4月から働き始めた新入社員だった。研修期

        『俺が風鈴とドライヤーを戦わせてる間に友人が結婚した』

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        • 君は短歌を詠まない
          2本

        記事

          転生後14日間隔離法度

           歴史好きとはすなわち、たられば好きである。私はどうしても織田信長の開く幕府というものが見たいと思い、本能寺十日前の時代に転生することに決めた。新しい物好きの信長のことだ、警戒はされるだろうがこの時代の手土産などを引っ提げていけば謁見できる可能性は高い。なんとか信長に明智の裏切りを進言しなければ。  私は当時の日本語を完璧に習得して転生に挑んだ。…… …… 「信長様、また転生者が」 「言わんでもわかっておるわ、あの異様な光は何度見ても慣れん」 「あと四半刻ほどでこの時代へ

          転生後14日間隔離法度

          直角を失くした男

           自宅の便座に腰かけてあてどなく視線をさまよわせていると、狭い空間ですからどうしても目の前の扉にぶつかります。私はすこし開けた扉(地震が起こると開かなくなるという話を聞いてから習慣になりました)の上部の小窓をぼんやりと眺めていました。すると突然、気づいたのです。   どう見ても扉のカドが直角ではない。あと、扉開けすぎ。   さらに言えばそれを受け止めるはずの枠(?)はこれまた別の角度を形成していて、ぴったりと合うはずがないことは明白。しかしこれまで扉は正しく収まっていて、

          直角を失くした男

          空港の金属探知機で出てきたらおもしろいもの

          たとえば、 ……………  彼が空港の保安検査員として働き始めたことにはさしたる理由がなかった。生活上の必要以上の理由がないのだからさしたる理由はないということに間違いなかった。配属された直後、彼の先輩にあたる人物は図表を指し示しながら彼に向かって講義した。 「ナイフとかピストルは没収だ」 「当然ですね」 「あとはベルトとか下着なんかも引っかかる恐れがある」 「聞いたことはあります」 「文房具とか化粧ポーチとかいろんな原因があるけどな、まあやってるうちに慣れる」 「はい」

          空港の金属探知機で出てきたらおもしろいもの

          2021年1月11日の言い訳 題「成人」

          今日も短歌を作りました。 第一首:人に成る前天使とも呼ばれたが思い返せば獣であったテーマを熟語でもらった時にまず最初にしてしまうことは読み下しです。これは癖になっていて、今回の場合「成人」→「人に成る」と読めた瞬間にじゃあ20歳になる前は人じゃなくて何なんだ、というところから作歌することを決めました。 人に成る前子供とも呼ばれたが思い返せば獣であった 「天使」でなく「子供」という案もありました。自らを振り返って「獣だったなあ」というのがあり下の句は早々に決めたのですが、

          2021年1月11日の言い訳 題「成人」

          君は短歌を詠まない

          短歌なんか詠まないと思うけれど2021年になってミスター短歌ボーイというツイッターアカウントを始めました。友人から前日にお題をもらって1日2首、 ①お題を単語そのまま詠み込んだ歌 ②お題の単語を使わずに詠む歌 を作っていこうという年頭の目標の記録として運用しています。 ①について、1月3日のお題「当たらないと分かっているのに淡い期待で毎年宝くじを買ってしまう」で31文字を超えたので早くも崩壊しました。いい友人を持ったものです。 ちなみに「ミスター短歌ボーイ」という名前をく

          君は短歌を詠まない

          『忍者と極道』を、どうか読んでください

          突然ですがクイズから始まります。タイトルでは下手に出ておいていきなり試すようなマネをして申し訳ありません。でも、大切なことなんです。 こちらのセリフ、なんと読むでしょう? これは当然、 こうですね。続いては3問出題します。 廃止されたセンター試験に代わる大学入学共通テストでこれが出題されたら阿鼻叫喚間違いなしですね。これはやっぱり、 こうですよね。最後は応用編、英語です。 ルビにルビが振られてるところをこのマンガで初めて見ました。 『忍者と極道』とは先日「Web

          『忍者と極道』を、どうか読んでください

          文学的赤ちゃんプレイの快感~『破局』の地の文がすごい~

          先日、芥川賞を受賞した二作のうちの一作『破局』を読みました。 とても面白かったです。その感想を書くのですが、どうしても内容に触れてしまう部分があります。しかし私はこの小説の魅力はそんなことでは損なわれないと思うので、読むかどうか迷っている方は読んでいただければ幸いです。 作者の遠野遥さんも受賞のコメントで話していましたが、感想をのぞいてみると主人公の陽介に対して「サイコパス」「共感できない」といった意見が多くあるそうです。私も一読して「哲学的ゾンビ(ここでは原義から離れて

          文学的赤ちゃんプレイの快感~『破局』の地の文がすごい~

          のぞみ号で短歌を披露したい

          趣味で短歌を作っています。 私がいまハマっているのは「ただ31文字(くらい)である」というだけで、情動や感興が少ないような短歌です。少し前に話題になった『偶然短歌』に少しだけ人間味をまぶしたようなもの、あるいは発見を一巡りして述べたようなものがマイブームです。 ↑こういったそのまんまだね~みたいな短歌とか ↑こういうメタっぽい短歌を作って遊んでいます。パソコンに創英角ポップ体がなかったのでこれは教科書体です。すみません。 しかし、作ったものはEvernoteに書き付け

          のぞみ号で短歌を披露したい

          ぼくはブラック・マジシャンではないとわかった日

           電車に乗る。切符をなくさないようにしなくてはいけない。そんなとき、どこに仕舞うかといえばスマホケースの中、正確に言えばスマホの背中とケースの間である。私はあらゆるものをその狭間に入れ込んできた。非常用千円札やICカード、アクセサリーやロッカーキーのような固形物まで、合成樹脂の柔軟が許す限りは何でも入れた。「もろとも」という感じがよかった。スマホをなくしたらすべて失う、という危機感がよかった。すぐに取り出せる手近もよかった。そして当然、その中身は入れ替わりが激しかった。  

          ぼくはブラック・マジシャンではないとわかった日