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『忍者と極道』を、どうか読んでください

突然ですがクイズから始まります。タイトルでは下手に出ておいていきなり試すようなマネをして申し訳ありません。でも、大切なことなんです。

こちらのセリフ、なんと読むでしょう?

これは当然、

こうですね。続いては3問出題します。

廃止されたセンター試験に代わる大学入学共通テストでこれが出題されたら阿鼻叫喚間違いなしですね。これはやっぱり、

こうですよね。最後は応用編、英語です。

ルビにルビが振られてるところをこのマンガで初めて見ました。

『忍者と極道』とは

先日「Webマンガ総選挙」で第9位にランクインした人気マンガなのでお前に言われずとも読んどるわいという方もいると思います。首と血飛沫飛び散るマンガですが、醜怪なグロはありません。

あらすじは以下のようになっています。

トラウマから笑えない少年・忍者<しのは>、表向きはエリート会社員ながら裏では組を牛耳る極道<きわみ>。そんな2人が出会った時、300年にわたる忍者<ニンジャ>と極道<ゴクドウ>の殺し合いの炎が熱く燃え盛る!孤独を抱えた漢達による、情熱と哀切に彩られた命のやり取り。決めようか…忍者と極道、どちらが生きるかくたばるか!!(公式サイトより引用)

ざっくりいうと、忍者と極道が生き残りをかけて異能バトルを繰り広げるマンガです。

どんな異能かというと、忍者は火を出したり、凍らせたり、電撃を出したりできます。忍者ですから当然ですね。

じゃあ極道はどうすんだといえば当然、麻薬(ヤク)です。

極道も人なのでさすがに火を出したりはできませんが、一度キメると、辺りを吹き飛ばす大爆発に生身で耐えたり、音速を超える忍者の徒手を見極め、受け止めたり出来るようになります。麻薬(ヤク)ですから当然ですね

これだけだと普通のバトルマンガに見えるのですが、これがまあ面白い。マンガがなぜ面白いのか、言葉で説明するのは非常に難しいのですが伝わるように努力するのでぜひお読みください。

①終りが目視(み)えている、示唆的なストーリー

作中の主な登場人物は16人。それぞれ”帝都八忍”と”破壊の八極道”の各陣営8人ずつで、どっちかが死滅(くたば)ったら終わりです。そこに向かって一気に物語は進んでいくので”推し”とかぬるいこと言っている暇もない。ページ開いて次のコマで好きな登場人物の首が繋がってたら僥倖と思いましょう。

そうはいってもさすがに主人公はいます。それが多仲忍者(たなかしのは)と輝村極道(きむらきわみ)です。

すごい発想です。忍者陣営の主人公に忍者(しのは)、極道陣営の主人公に極道(きわみ)なんてつけてたら混乱してしょうがない。『MAJOR』の主人公に「茂野 野球(のぼる)」なんて名付けたらどうなるか……。相当な胆力がないとできない御業です。

と思ってたら、連載初期『しのはときわみ』だったのが改題されて『にんじゃとごくどう』になりました。当たり前ですが、二人の名前自体は変わりません。

さて、ここから物語の根幹に触れていくのですが、この作品には欠かせない要素として「作中作」があります。読んで字のごとく作品の中に挿入された作品のことで、『クレヨンしんちゃん』における『アクション仮面』みたいなものです。

『忍者と極道』においてそれは『プリンセス』シリーズのことを指します。これは作中世界における『プリキュア』だと思ってください。「忍者(しのは)」と「極道(きわみ)」は二人とも極度の「プリオタ」。偶然知り合った二人は15年以上に渡るプリンセスシリーズを語り合う仲間として友情を育んでいきます。

忍者と極道、殺し合う運命とも知らずに――。

まあこういうわけなんですが、ここから更に展開は面白くなります。というのもプリンセスシリーズ、この二人が語りすぎて大体内容がわかってきちゃうんですね。二人が特に愛する『F(フラッシュ)☆プリンセス!』の内容を要約するとどうもこんな風らしい。

孤独から生まれ人々を襲う怪物「サビシーナ」を倒すため悪に立ち向かうプリンセス、その正体はいたって普通の女の子、主人公のアブちゃん!ひとたび日常に帰ればお友達のセツちゃんと一緒に楽しく過ごしている。ところがこのセツちゃん、実はサビシーナを守る敵幹部の一人"ヒース様"だった!そんなことはいざ知らず友情を深め合う二人……友情、そして世界の平和やいかに……!

つまりこういうことになります。

物語が入れ子構造になっていて、暴力・殺しなんでもござれな忍者と極道が女児向けアニメを語り合う、通常ならギャグとして消費されるシーンがこの先の予告としても機能していて緊張感を失わせない。ストーリー展開が早いうえに示唆に富んでるとあって1話の重みも凄まじい。それが圧倒的面白さを支えています。

「『F(フラッシュ)☆プリンセス』の最後にアブちゃんとヒース様は共闘した……?てことは……忍者(しのは)と極道(きわみ)も”そう”なるの……?絶対無理だと思いますけど、ほんとに……?だとすると共通の敵って……ッウワーーーーーーーーー」

みたいな先々の妄想も大いに捗ります。

②ヤンキー漫画とラノベのハイブリッド・ルビ遣い

冒頭からわけのわからないルビ遣いばかりしていますが、これはすべて作中で使用されている表現です。『湘南純愛組!』の「暴走天使(ミッドナイトエンジェル)」の響きを愛し、『とある魔術の禁書目録(インデックス)』にハマって「一方通行(アクセラレータ)」と「打ち止め(ラストオーダー)」のSSを書いてはネットに投稿していた私は、この漢字法則の乱れが好きで好きでたまらない。

あらゆる主要人物たちがこんなルビ使いをしていますが、ここでは私が特に好きな元”暴走師団 聖華天”初代総長、現”破壊の八極道”、”暴走族神(ゾクガミ)”殺島飛露鬼(やじまひろき)さんを紹介します。

ダブルクォーテーション多すぎない?

のっけからこれです、痺れるなあ。

90年代、10万の兵を束ね帝都高(テトコー)を暴走し尽くした不良界の神性(カリスマ)は当然、一人称が神(オレ)になります。ちなみに今年で39歳です。斎藤工さんと同い年なので、実写化の際はぜひお願いしたいですね。

ここで久々の漢字クイズです。殺島飛露鬼さんは作中で「おしえてやろう」と発するのですが、どういう漢字を書くでしょうか。ヒントは一人称が神(オレ)だということです。

答えはこちら。

この一貫性

しかし我らが暴走族神はただの傲慢な神ではありません、人を救済(すく)い、また誰からも慕われるからこそ神となったのです。彼は暴走師団 聖華天に君臨する神であると同時に、極道(きわみ)率いる”破壊の八極道”の一員でもあります。そこでの彼は一人の人懐っこい不良として活写されています。

二重唱(ニケツ)……2020年、こんな状況じゃなければ確実に流行語大賞を獲得していた器です。ちなみにこのあと、『フラッシュ☆プリンセス!』のヒース様のキャラソン「孤独の唄」を5ページに渡って歌います。こんなのテニプリの最終回以来初めてなんじゃないか。

しかしこのシーン、キャラ崩壊などでは決してなく、彼が神を名乗りながら誰よりも人間臭くて、不良としてのルーツを大事にする男であることの証明として機能しているのが恐ろしいところ。

正直、殺島飛露鬼さんについて誰かと語り合いたいがためにこれを書いているという節が多分にあります。彼が主役の「第三章 情愛大暴葬」までの一気読み、

③宗教画みたいな絵のうまさ

もうこれは見てもらうほかなく、読んでください本当にお願いしますしか言うことがないので困っています。脳みそにAirDropが実装されたら常時送信にするのに……。

私はもう第3話で度肝を抜かれました。コミックDAYSアプリならそこまで待たずに読めたはずですので本当にお願いします。

いったい何が凄いのか?

正直よくわからないのですが、ただ「上手い」「迫力がある」だけではない切り取りの妙と描き方をされているのが魅力です。殺島飛露鬼さんの戦闘シーンなどあの天才的なコマ割りで有名な「『遊☆戯☆王』バトルシティ編でオシリスの天空竜がブラックマジシャンガールに召雷弾を放つシーン」に匹敵するコマ割りが登場します。コマの跨ぎ方とかもセンスが凄いんですよね、やっぱ硝煙・紫煙くゆるマンガだけあってその辺も映えるというか……。

その中でも私が一枚絵として完成度が高すぎると思うシーンがこちらです。

ルーベンスの「マルスとレア・シルヴィア」?

違いました。“仁義の大侠”夢澤恒星でした。あまり多く語るのもあれなんですが、この夢澤恒星さんも本当にいいキャラクターで、決してカタギには手を掛けず(当たり前なのですが作中だと本当にレアです)、舎弟からの信頼も篤い漢。趣味はEテレの理系番組を観ることです。

ここまで私が極道ばかり紹介してきたせいでもしかしたら極道側に立って読み始めてしまう人もいるかもしれないので注釈ですが、極道サイドの皆さん、本当に頭がおかしいです。いい人風の夢澤恒星さんも下のように言っています。

なので忍者は勧善懲悪・正義のヒーローとしてカッコいいのですが、使命を帯びて闘う彼らと対照的に、自らの信条や自由を賭けて闘う極道もまた同様にカッコいい。

そして忘れてはいけないのが極道は麻薬(ヤク)で強化されているだけで、忍者と相対せば肉体的に弱者であり、かつ逸れ者である彼らは社会的にも弱者だという点。この点が極道をただ残忍で真っ黒な敵、に収まらせないグラデーションと深みをもたらしています。

まあ私は殺島飛露鬼さんに暴走族神コールをしたいだけの信者なのですが……。

まとめ

偏った紹介をしてきましたが、読んでいただけますでしょうか?というかここまで読んでいただいたなら、もうそのまま『忍者と極道』まで読めるのではないでしょうか?どうなんですか?

これを書き始めたのは第39話がきっかけなのですが、第39話は紛れもなく神回でした。Webマンガらしいパロディといい展開といい、あの超常バトルサスペンス『忍者と極道』が完全に『こち亀』になっている……と思いきや急転直下の展開……アツすぎる……一人で胸の内に仕舞うにはあまりに……。

紙の方の単行本(2020/11/18時点で3巻まで)もあるのですが、それはそれで買うとして、やはりwebで読むのがおすすめです。単行本で読んでも、続きが気になりすぎてほぼ100%その場で課金してしまいます……。

というわけで以下のバナーからどうぞ。ここまで読んでいただいて、

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