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2冊目の原田マハ 〜本日は、お日柄もよく〜

まさか家の本棚に隠れていたとは知らず、偶然に奥の方からこの小説を見つけた。キネマの神様が面白かったので、noteやAmazonの書評を見たところ、けっこう皆さんの評価が高く、期待たっぷりで読み始めたが、どんどん引き込まれていった。言葉の持つ力はまさに自分でも思っていたことであり、どうやって感動的なスピーチをするかのか大半はうなずくことができた。


この物語を読んで、すぐに思い出したのは3年前の長男の結婚式だ。やはり両家を代表する最後の挨拶は私にその役割がまわってきた。式の2週間前からスピーチの内容を考えたが、いっこうに浮かんでこない。ネットで検索したりYouTubeを見たりしたが、ピンとくるものが中々ない。受験や就職でけっこう親泣かせの子だったが(もちろん本人も苦労し努力した)、家庭を持つという門出には何か良き言葉を贈ってあげたいなあ、と思っていた。月並みでない言葉が良いと思っていたが、逆に月並みな言葉しか頭に浮かんでこない。

困ったなぁと思いながら、検索で出てきたのが、「亭主関白」という月並みな言葉だった。亭主が家で威張っていることを言う。何でも亭主が主導権を握り、家族の言うことを聞かない。独裁政権みたいなものだ。しかし関白という言葉を検索するとちょっと意味が違う。成人の天皇を補佐する役職であり、あくまで決裁者は天皇なのである。ここで頭にハッと浮かんだのが亭主関白ではなく「亭主は関白」という言葉だった!よし、これを息子夫婦に贈ろう!

そう! 家庭での天皇は妻なのだ。家の決裁権は妻が持つ。旦那は補佐役だ。しっかりと家事を手伝い子育ても積極的にかかわる。これが上手くいく家庭のコツだ!
それは全て私の実体験に基づいている! スピーチの構成上この贈る言葉は重要なポイントとなるので後半に持ってくることにした。

感動をよぶスピーチもよいが、私はできれば笑いを取るスピーチをしたかった。たぶん新婦の両親への感謝の言葉が列席のお客様の涙を誘う挨拶になるはずと思ったからだ。では私はできるだけ明るく、笑いを取る作戦で行こう! というのも過去に聞いてきた両家を代表する最後の挨拶は、皆さんにお礼を言い、まだまだ若い2人のご指導を頼むという決まり文句の定型フォームが多かった。ここは趣向を変えて、楽しいスピーチとし、若い2人の花向けにしたかった。笑いを取れば皆が耳を傾けてくれ、話の流れへ引き込むことができる。聞きいってくれる。そこで最後に贈る言葉を添えるのだ。

スタートで笑いを取ることは重要だ。その後の展開に弾みがつく。手帳に「亭主は関白」初め、メインのフレーズを箇条書き(要点を記入するのみで文章にはしない。どうせ忘れるので、その要点を反復するのと前後の文脈を頭の中で反芻した。私にはそれが合っている)にして式が始まってから、チラチラと手帳を見て本番に備えた。
しかし、スタートのフレーズは式が始まるまで明確にイメージできていなかった。スタートはどうしようか、ありふれたもので仕方ないか(「ただいまご紹介いただきました□□□です。本日は大変お忙しい中、~~~」という決まり文句」)、と妥協気味だったが、長男の友人たちの挨拶が酒席での話題が多かったのを聞いていて思い付いた。よし、これにしよう!

「皆さんから楽しいエピソードをいただいた酔っ払いの息子の父親である酔っ払いではない□□□です(当時すでにお酒の量は減らしていたので嘘ではない)。でも昔は酔っ払いでした」。笑笑笑、、、。上手いこと笑いを取れた。これでペースをつかみリズム良くスピーチを進めることができた。

長男の高校受験では、事前の模試において第一希望の私立はボーダーラインを十分超える点数を取っていたにもかかわらず落ちてしまった。その影響を引きずり他校もほぼ全滅、とても受からないと思っていたある私立の特進コースのみ何故か奇跡的に合格。理由はラッキーだったのか隠れた実力が出たのか(たぶんそれはないが)分からないが、とにかく土壇場で何とか踏みとどまった。しかし高校時代の成績は本人の実力通り低迷してしまった。

さて、その3年後の大学受験。経済的に浪人は厳禁していたので、最初から3科目受験の私立に絞っていた。高3の後半からは別人のように勉強していた。毎日塾通いしている姿など、過去の怠け者の様相は全くない。学校や塾の先生に相談しながら、本人は第1志望から第5位まで決めた。第1志望が決まると本人も必死にそれを目指して本当に別人のように勉強していた。目標を決めたら更に獅子奮闘の勉強、けっこうやれるじゃん!そして受験に臨んだ。しかし結果は惨敗、何校も受けて、受かったのは箱根駅伝でしかその名を聞かない大学、それも奇妙な名の学部のみで他は全落ち。もう諦めて一部学費を納めた。ところが3月下旬のある日郵便ポストに某マーチの一角の大学から封書が到着、勘のいい家内はすぐに補欠の合格通知と悟った!家族全員で「この世の奇跡が起きた!」と涙して喜んだ!このように本番に弱く、最後に逆転勝ちと常に親をハラハラさせて来た息子、最後に幸運を呼び込むような、ある意味親孝行の息子と言えるのかもしれない。しかし、この結婚は失敗続きの逆転という過去とは違い、7年間の付き合いという用意周到な準備と作戦により結婚に持ち込んだ。これまた別人の動きだった。息子のエピソードは、笑いを誘った。良い流れでスピーチが進んだ。しかししゃべりすぎて時間が大きく経過してしまった。近くの席に座っていた娘から巻きが入り、急ぎ最後に贈る言葉「亭主は関白」へ進んだ。

披露宴終了後に若い夫婦と一列に並んで列席いただいたお客様を見送った。「本当に素晴らしいスピーチでした」「今日は本当におめでとうございます。スピーチも本当に良かったです。感動しました」。出口で何名かのお客様から嬉しい言葉をいただいた。これは予想外の反応で私自身、驚き隠せなかった。自分は何とか受けようと必死に話したが、それが素晴らしいとか、感動したとかいう評価になった。お褒めの言葉をいただくことはやはり嬉しいものだ。

その後もたびたび長男からも「親父のあの時のスピーチは良かったって、いまだに会社の同僚に言われるよ。ほら、あのフレーズ、亭主は関白!」
そうか、やはり構成が良かったのか。笑いで引きこんで、飽きさせず耳をかた向けさせ、最後に一番言いたいことを伝える。

「本日は、お日柄も良く」の冒頭に出てくるスピーチの10箇条がある。自分のあの時のスピーチは何箇条当てはまったか?自分なりに評価してみると、
1.スピーチの目指すところを明確にする。
2.エピソード、具体例を盛り込んだ原稿
3.力を抜き心静かに平常心で臨む。
5.トップバッターを避ける。
7.前を向き会場全体を見渡して語りかける。
8.言葉はゆっくり、声は腹から出す。
10.最後まで決して泣かない。

7つ当てはまったというのがとりあえずの自己評価で自画自賛といったところ。

さあ、今度はいつスピーチできるかな?娘の結婚式での両家の代表は新郎側に譲らなければならないし、誰かの仲人の話も来そうにない。どこかで演説もできないし、まさかお葬式の弔辞で受け狙いは良くない。機会がほぼ無いと分かると、一層どこかでスピーチしたくなってきた。いやスピーチの内容を考えてみたくなった。言葉は人の心動かす。数々の歴史の中にそれは残っている。本当に魔力だ。そしてこの物語を書いた原田マハという作家も魔力の持ち主だ。さて、次はどの原田マハを読もうか?

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