アウレリウス_アルガエウス山

アンティークコインの世界 〜山を描いたマルクス・アウレリウスの属州貨〜

図柄表:マルクス・アウレリウス
図柄裏:アルガエウス山
発行地:ローマ帝国、カッパドキア属州、カエサレア
発行年:161〜166年
銘文表:AYTOKR ANTWNEINOC CEB(最高軍司令官、アントニヌス、皇帝)
銘文裏:YPATOC Γ(執政官3回経験者)
額面:2ドラクマ
材質:銀
直径:21mm
重量:6.56g
分類:GIC 1661

カッパドキア属州の都市カエサリアで発行された2ドラクマ銀貨。カッパドキアは現在のトルコ中部に位置する。表面には当時のローマ皇帝マルクス・アウレリウスが表されている。

アウレリウスは五賢帝の一人として知られる人物で、哲人皇帝の名でも知られる。彼はギリシアのストア派に傾倒する哲学者で、若き頃からギリシア哲学者を真似して床でざこ寝するなど、その傾倒ぶりは徹底したものだった。だが、周囲からは健康面に悪いので、ざこ寝は止められたと言われている。

アウレリウスは養父アントニヌス・ピウスの後継者としてローマ帝国の安定に尽くしたが、諸外国からの侵入と戦争にひどく苦しんだ。結果、最期は現在のウィーン近郊の陣営の中で病死した。戦場の寒さがなおさら病を悪化させていたと考えられる。アウレリウスは直系の息子コンモドゥスを皇帝に指名したが、コンモドゥスは皇帝としての器が全くない人物で、帝国は彼の統治下によって衰退の道を辿ることになる。

裏面にはアルガエウス山の姿が描かれている。アルガエウスとはラテン語の呼び名で、現在ではエルジェス山と呼称されている。このアルガエウスとは、ギリシア神話に登場する100個の眼を持つ巨人アルゴスの名に由来している。標高3916mという富士山級の巨大な山だからだろう。古代ギリシアの著述家ストラボンがこの山について記録を残しており、常に雪に覆われた山で、登頂からは地中海と黒海がのぞめると記している。

アルガエウス山はトルコ中部の都市カイセリ近郊に位置している。火山ではあるが、2000年前からその活動は止まっている。ちなみに、五賢帝のハドリアヌスがアルガエウス山を手に載せた女神の銅貨を発行している。これは彼が晩年の136年にカッパドキアを巡視した際に記念で発行されたもので、女神の周囲には「CAPPADOCIA」というラテン文字が刻印されている。その他、軍人皇帝時代のゴルディアヌス3世のコインにもこのアルガエウス山の姿が描写されている。当時は神聖な山として崇拝の対象とされていた。

本貨の額面である2ドラクマとは、ドラクマ銀貨2枚分の価値に相当する。ドラクマはアレクサンドロス大王の時代の兵士の日給であったから、2ドラクマというとそれなりの金額だったと推測される。また、属州で流通していたコインは大抵の場合、銀の品位が低いが、本貨はかなり質が良い。

銘文は表面に「AYTOKR ANTWNEINOC CEB」と記されている。これはローマ本土で発行されていたコインのラテン銘文をギリシア語に置き換えたもので、ラテン文字による原文は「IMPERATOR ANTONINVS AVGVSTVS」だった。日本語に訳すなら「最高軍司令官、アントニヌス、皇帝(尊厳なる者)」といった感じになる。同様に裏面の銘文は「YPATOC Γ」で、これはラテン銘文の「CONSVL III」に相当する。「執政官3回経験者」の意で、ローマコインに記される典型的な銘文のひとつである。


*掲載コインは筆者私物を撮影


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