アンティークコインの世界 | 古代コインのカウンターマーク
表題の通り、今回はカウンターマークが打たれた古代コインを紹介する。カウンターマークとは、新たなコインを発行する余裕がない混乱期及び緊急時に行われる手段のひとつで、既に流通している他国のコインに自国の刻印を打って利用したり、自国のコインの額面を変更して再使用した。カウンターマークの歴史は古く、その源流は古代にまで遡る。今回はパンフィリア地方のシデで発行され、ペルガモン王国でカウンターマークが打たれたものを紹介する。
カウンターマーク入りの稀少な古代コイン。矢筒を表したカウンターマークは、ペルガモン王国内の都市ペルガモン、エフェソス、トラレス、サルディス、シンナダ、アパメイア、ラオディケイア、ストラトニケイア、アドラミテウム、セールで流通した。本貨は「AΔΠA」の刻印があることからアドラミテウムで流通していたものであることが分かる。
発行都市シデは小アジアのパンフィリア地方に位置し、現トルコにあたる。シデは古くからザクロの名産地として有名であり、それゆえ、ザクロをコインのモティーフに用いた。ザクロは実が数多く成ることから古代ギリシアでは豊穣の象徴として扱われ、縁起の良い果物として好まれた。
シデの守護神は武神アテナであり、彼らが発行したコインにはアテナの肖像が描かれた。アテナと言えば、勝利の女神ニケがセットであり、それゆえ、裏側にはニケの全身像が表されている。また、このニケはシデで発行されたことにちなみ、シデニケの愛称で呼ばれている。著名な発掘品のサモトラケのニケと同構図と推測されており、損壊が激しいサモトラケのニケ像の原型が想像できる意味でも興味深い一枚である。
ニケがアテナとセットで描かれる理由は、ギリシア神話に起因する。神族と巨人族間で地球の統治権を巡った大戦争が起こった際、ニケは巨人族であるにもかかわらず、神族に味方した。その後、神族が勝利し、神族の長ゼウスはニケを評価し、自分の愛娘アテナの従者としてのポジションを与えた。考古学的にはニケはアテナが見せる側面のひとつで同一の神だったが、次第にそれらの属性が分離して別々の女神として認識・描写されるようになっていった。
ニケが持つ葉冠は椰子でできており、椰子は古代ギリシアでは勝利の象徴とされた。椰子はギリシアコインでは、頻繁に登場するモティーフのひとつである。
本貨には複数の財務官の名が確認されている。以下、現在確認されている財務官のイニシャル一覧。
AP(アル)
ΔEINO(デイノ)
ΔH(デ)
ΔHM(デム)
ΔIOΔ(ディオド)
ΣTH(ステ)
XPY(クル)
以上、今回はカウンターマークが施された古代コインを紹介した。カウンターマーク入りのコインはコレクターの間で非常に人気が高く、高額で取引される傾向にある。その源流は遥か遠く、まだ貨幣が登場して間もない古代にまで遡る。カウンターマークの源流を物語る一枚として、今回紹介を行った。
Shelk 🦋
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