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5本もない(Ⅰ)

 不動産屋の休日は、昔から水曜日と決まっていました。なので、不動産屋勤めだと、火曜水曜か、水曜木曜がお休みでした。裁判所は「お役所」なので、土日祝日はお休み。私の休みが土日祝日だったら、本人訴訟など考えもしなかったでしょう。
本人訴訟をやると決めた私は、次の休日は大手の本屋を回りました。「裁判のやり方」を書いてある本を探しに、まずは紀伊国屋新宿本店から。
…ない!裁判に関連するような実用書は全くありませんでした。有隣堂など、専門書を多く扱っている本屋も何店舗か探しにいったのですが、ないのです。訴訟の流れとか手続きの用語とか、その解説とかを書いてある本は2冊見つかったのですが、専門用語が並ぶ、いかにも「弁護士用」の理論の本です。何が何だかサッパリわかりません。私が必要とするのは、裁判をするための「必要書類」とその「書式」だけです。弁護士になりたい訳ではなく、単に裁判をしたいだけなのですから。
 
そこで、帰宅してPCでネット検索してみました。何かの裁判の「訴状」は、いくつか見かけましたが画像の一部だけだったりで、全く役に立たないものばかり。もちろん弁護士のつくった、「訴訟の流れ」が書いてあるサイトもありましたが、本と同じで全然参考になりません。書式の説明か、できれば訴状の雛形がほしい!この休日は空振りに終わってしまいました。
 
翌日、出勤すると、お局に管理物件の掃除を命じられました。この店舗では、店長とお局の「日々の気分」で仕事内容が決まっていました。
管理物件というのは、大家さんから直接、物件の鍵を預かり、管理や集客を任されている物件を言います。管理や集客を任された会社は、その物件の「管理会社」と呼ばれます。物件は、どの不動産屋もお客さんに紹介できますが、紹介するには「管理会社」から許可を得て鍵を借りなければ、お客さんに内見させられません。もちろん成約したら手数料は「管理会社」が多く取れるので、どの不動産屋も「管理会社」になりたがります。つまり、裏では熾烈な「大家さんの取り合い」が行われているのです。

「管理物件の掃除?珍しいなぁ…」と思いながら、掃除用具を持って車に乗り込んだ私。もしかしたら、見られたくないシーンが始まるので、私を追い出したのかなぁ?と、想像しました。
実は、お局さんは、ものすごくパートさんをイジメていたのです。パートさんは私と話をするのも禁止されていたので(この時点で、どれだけ異常な職場か、おわかりですよね。)、「今日はスペシャルなイジメをする気なのかなぁ」と気になりました。
ですが、気になっていたのはパートさんの身の安全の方ではありません。店長も、お局も、私とパートさんが話をするのを禁止していながら、お店にいる事が少ないのですから、私達が話をしない訳がないです。パートさんの旦那様は、いわゆる「2ちゃんねらー」でした。私自身は「2ちゃんねる」は怖いので見たことがないのですが、お局は、とっくにネット上で「身バレ」していたのだそうです。「出会い系」「ミキちゃん」「(会社のある)区」で検索すると、お局さんの住所氏名、出身校まで出ていたそうです。パートさんがどんなに虐められても辞めない理由は、何となく想像できました。
私が気になっていたのは、ミキちゃんがお店の電話を使って「はじめましてぇ~ん、ミキでぇ~すぅ~。」と、長電話している事が、いつ、どんな形で本社にバラされるか、なのでした。フフフ…w
 
さて、お掃除のために入った物件は、割と戸数の多いマンションの一室でした。私は始めて入った部屋です。中を見ると、トイレと、その隣の浴室にハエの死骸が沢山ありました。どうやら1年間くらいは清掃に入っていなかった様子で、床も埃っぽくザラザラしていました。店長も、お局も、普段はせっかくの管理物件の存在すら忘れているのでしょう。これくらい仕事をしない二人ですが、私は本社に報告はしませんでした。この頃は、入社してから、まだ1年も経っていなかった頃でしたが、私は既に次の職場探しを考えていましたから。
他社に入社すれば、このお店はライバルとなります。そうなれば潰れてもらうか、今まで通り「お客さんが来ない」お店のままでいてくれた方が好都合ですからね。この会社が特別ヘン、という訳ではありません。不動産会社などブラックで当たり前、大手でも営業職が定着しない時代でした。(今はだいぶ改善されているそうです)

それでも、この会社に在籍している間は、他社から内見の申込みが入ってハエだらけだと苦情が入ったら、店長とお局に八つ当たりされるのがわかっていましたから、事前に掃除できたのはラッキーでした。やはり物件は実際に見て置かないと…。乾いたハエの死骸を掃除しながら、ふと、思いつきました。
「そうだ、現場を見に行こう!」
裁判のやり方がわからなかったら、現場、つまり裁判所に行けばいいじゃん!
 
考えてみたら、これから裁判をやると言うのに、一度も裁判所など行った事ないですし。現場に行かずして何をしようと!!
そこで、次の休みに横浜地方裁判所へ行くことにしました。
 
私だって、裁判のやり方を教えてくれる程、裁判所が優しい訳ないよなぁ、とは思いました。だって天下の裁判所様ですから。超難関の司法試験に合格された立派な方々の「城」に、平民ふぜいが入るのもおこがましい。その上裁判のやり方を教えてくれ、何て言おうものなら、鼻で笑われてつまみ出されるでしょうねぇ。
それでも、やらないで後悔するならやって恥をかいた方がマシです。とにかく何でもやってみるしかありません。たまたま、この週の月曜日は、お店の改装工事があるので休んで良いと言われ、月・火・水、と丸々3日使えたので、この三連休で提訴できたらいいなぁ、と淡い期待もありました。
この時点では、淡い、というより「うっすら」という感じでしたけどw


目次

1大家が泥棒(Ⅰ)
 https://note.com/sheep_lullaby/n/n1d2ec9a61014
 
 1大家が泥棒(Ⅱ)
 https://note.com/sheep_lullaby/n/nda364f9e2a8a
 
 1大家が泥棒(Ⅲ)
https://note.com/sheep_lullaby/n/n396b56850b7b
 
 
2オタ友のために(Ⅰ)
https://note.com/sheep_lullaby/n/ncccfe108fe91
 
2オタ友のために(Ⅱ)
 https://note.com/sheep_lullaby/n/n8df694a40b59
 
 2オタ友のために(Ⅲ)
https://note.com/sheep_lullaby/n/n5f7c63af2389
 
 
3現場検証したら(Ⅰ)
 https://note.com/sheep_lullaby/n/n4647148d4706
 
 3現場検証したら(Ⅱ)
https://note.com/sheep_lullaby/n/n6e0220f833b5

3現場検証したら(Ⅲ)
https://note.com/sheep_lullaby/n/nc3102f2a8136
 

4仕事しろよ(Ⅰ)
https://note.com/sheep_lullaby/n/nae4d4092601f
 
 4仕事しろよ(Ⅱ)
https://note.com/sheep_lullaby/n/n9da59af86fef