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2オタ友のために(Ⅱ)

そして、たいしてめでたくもなく開けた平成23年。不動産屋のお正月休みなど長くて4日です。
「今年もボロ雑巾のように使い回されるんだよねぇ…」と、暗い顔で営業車を運転していた6日のことです。井上君から電話が来ました。
「おい!来たよ、電話!」
「M警から?」
「おう!Sさん、現場検証やってくれるって!」
「何それ!なんて非常識なんだ~っ!!異例中の異例じゃん~~っ!!!」

この瞬間、すごぉくめでたく正月が開けた気分になりました。それはもう、初日の出が、ぱぁっと昇ったような、ありがた~い心境でした。
私だって、本当は刑事さんが捜査してくれる確率は10%くらいと思っていたんですから。S司法巡査も、「もしかしたら遺体なんて出てきたらオオゴトだぞ」ってちょっと想像したのかもしれませんね。ですが井上君は、ちょっと不安そうに、
「ただね、どこまでやってくれるかはわかんない。なんかSさん、言い回し があいまいでさぁ。」
どんな言い回しかは大体想像はつきますよね。でも、どんな小さなチャンスでも最大限使わないと。
「まぁ、いいじゃん。とにかく、やってくれるんだから。で、いつ?」
「11日。」
「まぁ、悠長なこと。その前に連中、必死で手を打つんじゃないの?」
「そう。俺もそれが心配なんだゎ。」
「でも…あたし生刑事なんて始めて見るんだよね。どんなんかなぁ?」
「いや、フツーの人。どこから見てもタダのリーマンって感じ。」
「なぁんだぁ。印籠とか出すんじゃないのか。」
「目からビームも出ねーから。期待する余地まーったくないんで。前もって 言っておくけどイケメンじゃないからな。」
「では、来年。さようなら、よいお年を。」

とは言うものの、刑事さん(刑事手前の司法巡査ですが)とか現場検証とか、ドラマみたいな現場が見れるんだ~、と好奇心でいっぱいの私が行かないはずはない。ええ、ええ、行きましたとも。あの極寒の1月、最果ての地G県M市まで。隣はブサメン、ただただ車に乗っているだけの、何も楽しいこともない長時間のドライブに堪えて、その11日の前日、夜10時ころビジネスホテルに到着しました。
「づ~が~れ~だ~…」

やっすいビジネスホテルでしたから、アメニティもタオルと歯ブラシしかなくて、昭和そのものの寝間着に固めのマットレス。部屋の中に湯沸かしポットもなく、廊下の自販機で飲み物を買う仕様でした。テレビも置いてなかったし、当時はガラケーの時代でしたから、端末で動画を見ることもできませんでした。本当にただ寝るだけの安ホテル…。ただ、さすがに寒冷地のG県なので、暖房だけはシッカリしていました。その日は何もやる事がなかったので、長風呂をして体を温めて眠ってしまいました。翌日は朝から警察署です。こんなに寒いんだから、早朝なら、きっと信じられないくらい寒いんだろうな~、と覚悟を決めて…。


さて、翌朝現場検証当日、アポイントの時間は朝10時でした。ホテルの中にはレストランもありませんでしたから、朝食を取る時間を考えて9時前には出かけましたが、寒いなんてものじゃありません!部屋から出たら、吐く息が白い雲のよう!モコモコの肌着を3枚着込んで行って正解でした。
私も井上君も、この日はスーツを着ていきました。「馬子にも衣装」と言いますよね。スーツを着ると、ダサ系の井上君もガラッと印象が変わります。なまじ体格がいいので、スーツを着るとドラマに出てくるコワモテの刑事さんみたいだな、と思っていたのですが、警察署の駐車場に降り立った井上君は本当に刑事さんに見えました。いわゆるマルボウのw 職業選択間違ったなぁ、この人…。

入り口の案内で、S司法巡査とのアポイントの件を伝えると、2階の部屋へ行くようにと指示されました。階段を昇り、薄暗くて寒々した警察署の廊下を奥へ進んで行きましたが、「おまわりさん」も誰もいなくて、ひっそりとしていました。指定された部屋を探して角を曲がった時、少し先のベンチに、おばぁさんが一人でしょんぼりとうつむいて座っていました。