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のび太アメリカに引っ越し。その時しずちゃんは?『ためしにさようなら』/もしもの世界を見てみよう⑥

①『もしもボックス』「小学四年生」1976年1月号
『もしもボックスで昼ふかし!?』「てれびくん」1976年12月号
『お金のいらない世界』「小学五年生」1977年1月号
④『あやとり世界』「てれびくん」1977年4月号
『音のない世界』「小学三年生」1977年5月号
『かがみのない世界』「てれびくん」1981年3月号
『大富豪のび太』「小学五年生」1981年7月号
⑧『ねむりの天才のび太』「てれびくん」1982年4月号
『ためしにさようなら』「てれびくん」1983年2月号
⑩『のび太の魔界大冒険』「コロコロコミック」1983年9月~84年3月号

「ドラえもん」の代表的なひみつ道具「もしもボックス」。作家にとっては、手軽にパラレルワールドを描ける便利な道具ということもあって、大長編含めて計10作品にメインで登場させている。

この10作は読み応え十分の作品であるため、全て詳細に解説を加えている。せっかくなのでここまでの記事を並べてみる。

①『もしもボックス』

『もしもボックスで昼ふかし!?』

『お金のいらない世界』

『音のない世界』

『かがみのない世界』

『大富豪のび太』


そして次は「もしもボックス」登場9作目の作品を取り上げる。

『ためしにさようなら』(初出:さよなら、のび太)
「てれびくん」1983年2月号/大全集19巻

本作はレギュラー短編では最後の登場となる。掲載誌は、またもや「てれびくん」。「もしもボックス」作品は「てれびくん」で5作発表されている。

学習誌とは異なり対象年齢が固定されていない「てれびくん」と、実験的な作品になりがちな「もしもボックス」の相性は良かったようだ。

そして本作は「もしもボックス」の中でも傑出した作品である。



生前葬というのが一時期流行した。大義名分としては、生きているうちにお世話になった人たちに直接お礼を述べたいということだったが、実際には、生きているうちに、直接チヤホヤしてもらいたいということではなかったかと思う。

日々、一生懸命仕事や勉強を頑張っていても、それをもって皆に褒めてもらえるようなことはほとんどない。転職だったり、転校などのタイミングで、「お前いいヤツだったよな」とか「いい仕事してたよとか」など、せいぜいその程度の誉め言葉で、満足するのが世の常である。

自分の価値を人から聞きたいのが、人の悲しい性なのだ。そして、それはのび太も一緒である。


のび太は、一人孤独を感じている。空き地ではジャイアン・スネ夫・春夫・安雄でサッカーしているが、仲間に入れてもらえない。しずちゃんのところへ遊びに行くが、「急いでいる」と相手にされない。

しずちゃんが急いでいる先は、アメリカへ転校していく友だちの見送りであった。涙を流しながら餞別を渡したりしている。

その様子を見ていたのび太は、自分も引っ越しすればみんな寂しがってくれるだろうかと考える。・・・が、それは怪しい。


のび太は友だちと別れたばかりのしずちゃんに、「自分もアメリカに引っ越すことになった」と告げると、「こんな時に冗談言わないで」とガチで怒られる。のび太よ、それはさすがにタイミング悪すぎだろう。

さらに空き地に戻って、ジャイアンたちにもアメリカに引っ越すのだと告げると、「そりゃいいや、変なのがいなくれなば、この町も良くなる」などと悪口を言われてしまう。

「どうせ僕なんか・・・」と涙して帰宅するのび太。ドラえもんは、「本気にしてないんだよ」と慰める。


のび太はここで、どうしても試したいということで、「もしもボックス」を出させる。そして受話器に向かって、

「もしも僕がアメリカへ引っ越すことになったら」

と注文する。実験的に自分が去ってしまう世界を作り出したのである。

なお、もしもボックスも今回で9回目の登場ということで、このシーンでは「もしもボックス」の名前さえ出てこない。突然ドラえもんが出して、のび太がボックスの中に入る。「タケコプター」などと同様に、すっかり定着したということである。


ママにパパから電話が掛かってくる。なんとアメリカ支社に転勤となったらしい。あなたの会社にアメリカ支社があったかと尋ねると、「ないけど転勤だって」と、パパも困惑している。

ママは大急ぎで引っ越しの準備を始める。のび太はみんなに教えて回ろうとするが、「噂が広まるのを待った方がいい」とドラえもんがアドバイスを送る。


しかして、噂が町中に広がっていき・・、最初に駆けつけてくれたのは、しずちゃんか、と思いきや意外にもジャイアン。ジャイアンは噂は本当か確かめた後、ガッシとのび太の手を握り、ポロポロと涙をこぼして語り出す。これが感動的なので、全文抜粋しよう。

「体に気を付けろよな。アメリカのガキ大将に苛められんなよな。嫌になったら帰って来いよ。時々は俺のことも思い出してくれよな。それから俺・・・俺・・・」

と、最後は言葉を詰まらせて、泣きながら家を飛び出して行ってしまう。

ジャイアンの意外な涙もろさに、ドラえもんとのび太は感動してしまう。散々のび太をバカにしているが、本気で心の友と思っていたということだろう。


続けてやってくるのは、しずちゃんではなくスネ夫。彼もまた、これまでののび太への意地悪な態度とは打って変わって、殊勝な言葉を絞り出す。こちらも全文抜粋しよう。

「どうも・・・これまでのことを振り返ってみると、僕は・・・君に対してあまりに・・・不親切というか・・・意地悪だったような気も・・・。ひょっとして僕のことを恨んで・・・嫌な奴だったなんて君が・・・。許してくれぇ」

と、最後は完全に号泣してしまう。

スネ夫までも、のび太に対して友情を感じていたのである。そして、お詫びの品だと言って、山ほどのおもちゃを置いて帰っていく。物で態度を表す、スネ夫らしい行動である。


クラス会代表なども挨拶に来て明日送別会を開いてくれるという。先生がやってきて、英会話のテープセットをプレゼントされる。大ごとになってきたので、もしも世界からの撤退をドラえもんは提案するが、しずちゃんが来るまでは止めないと意固地になるのび太。そう、しずちゃんがなぜか姿を見せないのである。


すると、ママが家の外で寂しそうに立っているしずちゃんに気がつく。ママが家の中に案内すると、のび太は「やーやー、待ってたんだよ」と軽く出迎える。さらに調子に乗って、「アメリ行くんだよ、寂しい?悲しい?」と軽やかに聞く。

するとしずちゃんは、急にワ~ッと泣きだして、のび太に抱きつく。

「あんまり突然で・・・。もう私・・・何と言ったらいいか・・・」

と、もはや二の句も告げることができず、突っ伏して号泣する。そして、もう何も言えず、「ワ~ッ」と号泣して帰っていく。

先ほどの別の女の子の友だちと別れる時とは比べ物にならないくらいに悲しむ様子のしずちゃん。しずちゃんは、のび太のことを特別な人間だと考えていたのである。うう、泣ける。


ドラえもんも、「残酷だ!」と言ってもらい泣き。のび太は潮時ということで、元の世界に戻そうと「もしもボックス」に飛び込んで「元に戻れ」と受話器に告げるのだが・・・、ベルが鳴らない。

なんとこのタイミングで故障してしまったのだ。それはつまり、元の世界に戻れないことを意味する。

これはもう、アメリカに行くしかない。直そうにもややこしい機械なので、修理がうまくいくとは限らない。そうこうしているうちに、スネ夫やジャイアンのママが集って、餞別を渡しにくる。いよいよ大ごとである。

さてさて、この後どうなるかなのだが、今回はここまで!!

続きはてんとう虫コミックス31巻にて。(新趣向ですみません)



「もしもボックス」登場作10作のうち、本稿までで7作を紹介したので、残るは3作となった。そのうち、④『あやとり世界』と⑧『ねむりの天才のび太』についてはのび太の三大特技という切り口で、今後記事化する予定。

最後にもしもボックスが登場するのは、本作の一年後に連載が始まる「もしもボックス」集大成の『ドラえもん のび太の魔界大冒険』である。またいつか詳しく解説するが、この魔界大冒険で「もしもボックス」はゴミに出されて失われてしまう

おそらく「もしもボックス」はその巨大さからも予測できるように、高価な代物だったのだろう。「魔界大冒険」で捨てられて以降、ドラえもんは新しくもしもボックスを購入しなかったようで、二度とお話の中で登場することはなかったのであった。



「ドラえもん」バリバリ考察中。


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