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パーマンだって時空を超える!『タイムマシン』/タイムマシンで大騒ぎ⑨

1970年代以降の藤子先生は、「ドラえもん」と「SF短編」の二足の草鞋を履いている感覚だったとされる。

国民的な漫画・キャラクターに成長した「ドラえもん」は、未来の世界からタイムマシンに乗ってやってきたロボットという設定から、必然的にタイムトラベルについての作品が多い。

SF短編においても、SFの基本である「時間」をテーマにした作品が多く、タイムマシンそのものが登場するお話も多数存在する。

つまり、藤子先生は自身の最盛期において、タイムマシンものばかりを上梓していたことになる。

さらに、「ドラえもん」でもなくSF短編でもない、他の作品においても、何かとタイムトラベルネタが出てくる点にも注目しておきたい。言葉選びがイマイチだが、藤子先生は「暇さえあれば」タイムマシンを登場させる作家なのである。


これまで記事にした作品で言えば、「ウメ星デンカ」「オバケのQ太郎」「キテレツ大百科」などの一遍として、タイムマシンが登場している。


本稿では、タイムマシンから最も縁遠い作品と思しき「パーマン」から、唯一のタイムマシンものをご紹介したい。パーマン世界において、どうやってタイムマシンが登場し、どんな結末となるのか・・お楽しみに。


「パーマン」『タイムマシン』
「小学五年生・六年生』1985年11月号/大全集8巻

我らが身近なヒーロー・パーマンは、どこにでもいるような少年・みつ夫が、宇宙人(バードマン)から貰ったパーマンセットを身に着けて超人となるという、SF的な設定を持つ。

だからと言って、何でもありではなく、あくまで日常に軸足を置いたヒーローという部分は揺るがない。なので、「タイムマシン」が出てくる作品を探す際に、「パーマン」を調べるのをつい忘れてしまっていた。


ところが、パーマンの世界線にはアイツがいるのである。比較的、何でもありなヤツがひとり・・・。その名は天才科学者の魔土災炎である。

魔土博士についてはまた別枠できちんとした複数の記事を用意しなければらないが、パーマン世界においては、悪の全国組織である全ギャド連と組んで、パーマンたちを目の敵にする存在である。

しかし、博士とギャド連の理事長とは、時に反目し合ったりして、必ずしも一枚岩ではない。博士の大発明を理事長たちが使いこなせず、逆に痛い目にあったりして、恨みを買ったりする。

直近では透明人間になりたいという全ギャド連の依頼を受けて、両者の関係がギクシャクするエピソードを記事にしている。もしよろしければご一読下さい・・。

他にも巨大ロボットを作る発注を受けるも、予算の都合で下半身部分しか作れなかった、というお話もある。


さて今回は、そんな大天才の魔土博士が、タイムマシンを完成させてしまうというお話。悪者の手にタイムマシンが渡ったとき、ろくなことが起こらないに違いない。


冒頭では、いつものようにみつ夫が授業に遅刻して先生に怒鳴られている。のび太と違って、朝寝坊が大好きな怠け者だからではない。連日のパーマンの仕事で疲労が蓄積しているのである。

みつ夫は帰り道、「タイムマシン」があれば絶対遅刻なんかしないのに・・と願望を口にするが、それを聞いたカバ夫とサブに、「まんがの見すぎ」だとバカにされてしまう。

漫画の世界の登場人物たちが「まんがみたい」とか「まんがの読みすぎ」といういうセリフを口にするのは、藤子作品では頻出パターンである。


一方、雷鳴と豪雨の中、一軒の古びた洋館に、いつものトリオ、魔土博士、全ギャド連理事長、その部下(副理事長?)が揃っている。魔土博士は、登場するシーンには必ず嵐が吹き荒れる、究極的な雨男である。

魔土博士の目の前にあったベルトがブウンと振動し、次の瞬間パッと消えてしまう。驚く理事長たち。魔土博士は、「消えたのではなく、五分後の未来へ行ったのだ」と説明する。

タイムマシンなど信じられない理事長たち。すると五分後、ブウンと音がしてベルトが空中に現われ、理事長の体に降ってくる。これを見た魔土博士は、

「タイムマシン完成!! これは世紀の大発明だぞ!天才のわしにも二度とできない大発明!!」

と大興奮。

このセリフから、タイムマシンとは、一度失われると二度と再現できない、偶然完成に至った機械であることがわかる。しかもタイムマシンと言っても、ベルトの形状をしているので、「ドラえもん」における「タイムベルト」に近い道具である。


大発明と言われても・・・と、一緒になって喜べない理事長たち。すると魔土博士は、

「わからんのかね。これだから悪い奴らは困る」

と愚痴る。この場合の悪いやつとは、頭の悪いやつという意味合いである。


博士はタイムマシンの狙いについて説明する。

これを使えば、どんな警戒厳重なところからも盗み放題。手始めに、町の銀行を狙う。タイムマシンを使って、まだ銀行の建っていない22年前に行き、そこで現代へと戻り、銀行に侵入しようと言うのだ。

余談になるが、銀行侵入作戦は、世の中の悪者がまず最初に思いつくアイディアである。

例えば、少し前にウディ・アレン監督の「おいしい生活」という映画があったが、これは銀行の隣に物件を借りて、地下を掘って銀行に潜入する通路を作るお話だった。

「パーマン」においても、あらかじめ銀行を建てる前に、工事現場の人間を買収して、地下室も一緒に作って金庫室に入りたい放題にしようという計画を立てたギャングもいた。


それではタイムマシンの実験開始。ベルトを巻くのはこの中では一番下っ端の副理事長である。当然のことながら、初めての時間旅行を前に「生きて帰れるかなあ」とビビる。

博士があらかじめタイマーをセットしてあるので、副理事長はボタンを押すだけ。カチと押すと、時空空間にワープし、ベルトが行先に向かって引っ張っていってくれる。

体に巻いていたはずのベルトが取れるほどの勢いで、一見したところでは安全性に不安を覚える作りとなっている。パッと日常の世界に飛び出すと、そこは銀行も家も少ない今から22年前の世界。

あらかじめチェックしてあった、銀行が立つ予定の空き地に移動し、そこで再びベルトを巻く。

・・・そして、現代の魔土博士たちの前に副理事長は、抱えられる限界の札束を持って現れる。タイムマシンの悪用によって、易々と銀行の金が悪者たちの手に渡る仕組みができ上がってしまったのだ。


この日から、銀行や宝石店からお金や貴金属が煙のように消える怪事件が頻発する。時空を超えて侵入しているので、当然犯人たちの足取りは掴めないまま。

一方のパーマンたちは、この怪事件に手を焼いているようで、引き続きみつ夫は遅刻の常習として先生に激怒される。もし明日も遅刻が改まらなければ、二度と学校に入れないと、ガチなマジ切れである。


みつ夫は早寝をしたいのに、他のパーマン仲間がそれを許さない。今晩こそ捕まえようということで、犯人が現われそうなところに張りこむ作戦を実行する。

嫌々、パーマンはビルの上で見張りをするのだが、そのまま眠ってしまい、なんと翌日の昼過ぎに目を覚ます。慌てて家に戻ってみると、頼みの綱であるコピーロボットは、何かのトラブルでロボットの状態に戻ってしまっている。

それはつまり、みつ夫は学校に遅刻するどころか、無断欠席している状態を意味する。パーマンは「僕はもうおしまいだ!」と嘆く。小山で寝転がり、このまま死んじゃいたいよ、と絶望に明け暮れる。


すると、ブウンという音がして、空からバッグを持った男が落ちてくる。下敷きになっているのがパーマンだと知って、男は慌てて荷物を放り投げて逃げていく。

パーマンがカバンを開けると、そこには大量の札束。そして一本のベルトも残されている。パーマンが何気なくベルトのボタンを押すと、タイムトラベルの空間に引き込まれてしまう。

勢いよく飛んでいくベルトを手放してしまうパーマン。ベルトはそのまま時空の果てへと飛んでいき、パーマンは、元の小山にドサっと落ちる。しかしそこは、まるで時間が夜に戻ったように真っ暗である。


結果として、タイムベルトによって、時間は10時間ほど逆戻りした様子。これによって、みつ夫の遅刻は免れた。また、どこかへと流されていったタイムベルトはそのまま時空をさ迷うことになり、二度と見ることはなかったという・・・。

魔土博士は二度と作れない大発明だと言っていたので、これで今後の悪事も起こらないことだろう。


ちょっとここから、余談。

藤子ワールドにおいてタイムトラベルは頻出する話題であるが、そのパターンは大きく二つに大別できる。一つは過去に遡っても未来(現実)を変えることができないパターン。もう一つが過去に遡って仕出かしたことが、現実を変えてしまうパターンである。

本作は最後の最後で、みつ夫が10時間前に戻って、翌朝の遅刻を免れることになるのだが、これは未来改変であったのだろうか。

実は、藤子作品では、特に短編において、未来改変ができないパターンの方が趨勢である。歴史は簡単には変えられず、運命は定まっているというオチになることが多いのだ。

本作は一読すると、遅刻しない世界に塗り替えたことになり、未来改変が可能なお話のように思える。

けれども良く読むと、本当に遅刻していたことが明らかとなるシーンは描かれていない。しかも昼過ぎまで登校しなかったにも関わらず、家族を巻き込んだ失踪事件に発展しているような場面もなかった。

つまり、遅刻騒動は起きてなかったと考えられるのだ。さらに、コピーロボットが部屋に転がっていたが、これも十時間前に戻ったみつ夫が自らロボットに戻したものと見当がつく。

よって、みつ夫の遅刻回避は、最初から定められていたことだったのだ。本作はおそらくは、未来改変が不可能な、定番パターンの作品と考えて良さそうである。


「パーマン」考察やっています。


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