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カメと〇キブリの恩返し『うらしまキャンディー』/ドラミ大活躍③

藤子先生はおとぎ話をモチーフにしたお話が多いことは、以前にも触れたことがある。その中でもお気に入りは「浦島太郎」伝説である。3日間海の底の竜宮城に招かれ、戻ってきたら300年が経っていたというSF的設定が、藤子先生の作家魂を刺激するらしい。

ということで、以前に書いた「浦島太郎」関連作品の記事は以下。


また、不完全な出来栄えではあるが、おとぎ話を主題とした「ドラえもん」の『おはなしバッチ』についても、一度記事にしている。


本稿では、見応えのある中編を揃えている「ドラミちゃん」の第4話を紹介するが、この作品はそうした「藤子Fのおとぎ話」ジャンルに当てはまるエピソードとなる。

「ドラミちゃん」『ウラシマキャンデー』(初出:ふしぎなキャンデー)
「小学生ブック」1974年5月号/大全集20巻

主人公は「ドラミちゃん」なのでのび太朗。のび太と外見がそっくりで、同じくのびちゃんと言われているので、見分けがつかない。

ただし、他のキャラクターは変わっている。冒頭で、「のび太郎」と声をかけてくるのは、カバ田(この時点では名前はない)で、「ドラえもん」のジャイアンにあたるキャラ。カバ田たちと一緒に歩いている女の子が、みよちゃんでしずちゃんに比するキャラだ。

カバ田たちは、みんなでみよちゃんの家に遊びに行くと言っている。本作を「ドラえもん」の単行本用にリライトした時、みよちゃんをしずちゃんに書き換えているのだが、遊びにいく家は「みよちゃん」のままであった。

なので「ドラえもん」だけ読んでいると、「みよちゃん?WHO?」と疑問が浮かぶことになっている。

のび太朗は、のび太同様お人よし。自分もみよちゃんの家に行くと喜ぶが、みんなのランドセルをそれぞれの家に運ぶ役割を引き受けさせられる。みよちゃんも一緒にいるのに、「のび太朗君が可哀そう」なんてことを言ってくれない。

「ドラえもん」でみよちゃんの名前を残したのは、しずちゃんの名誉を守ったからなのかもしれない。


みんなのランドセルを持ったのび太朗。一人のかわいい女の子とすれ違う。この時、

「僕の好きなタイプ、どこの子かしら」

と目をチカチカさせる。のび太朗とみよちゃんは、それほど近い関係でないので、このセリフは許される。

可愛い女の子は、ポトと定期券を落とす。ランドセルを持ってヨタヨタ近づいていくと、竜宮姫子の名前が書かれている。「人には親切にしなきゃ」と、重いランドセルも抱えながら、竜宮さんの家へと向かう。お礼にたくさんのご馳走を食べさせてもらう妄想をしながら。

すると、木鳥(ズル木)がのび太朗に、「重そうだな荷物を引き受けようか」と声を掛けてくる。一瞬感謝の意を述べるのび太朗だったが、木鳥は立宮の定期券だけを抜き取り、代わりに届けに行ってしまい、姫子に感謝される。のび太朗はランドセルを複数抱えているので、追いつけない。


ここで少し名前の整理をしておく。木鳥は「ドラミちゃん」第2話の『のび太朗 テレビ出えん』で名前がわかっている。「ドラえもん」におけるスネ夫の役割を果たす嫌味なキャラクターである。

ところが、第7話『ネッシーがくる』では、ズル木という名前になっている。風貌などは本作も含めて「大体」同じだ。(あくまで大体であって、全部違うようにも見える)

これは単純に名前を間違えたか、完全に別人という設定なのかは不明。ただし僕個人としては、木鳥君があまりにずる賢いやつなので、みんなに「ズルい木鳥」すなわち「ズル木」とあだ名を付けられているという異説を考えている。

また竜宮姫子さんという名前は、ぱっと見でわかるように、「浦島太郎」の竜宮城の姫という意味合いが込められている。


姫子ちゃんの謝意は木鳥に奪われ、カバンを届けて回っても、カバ田の母親などには感謝されず、代わりに自分たちの子供への小言を食らってしまう。何とかランドセルを配り歩いて家に帰ると、母親からは「こんなに遅くまでどこで道草食ってたの」と叱られてしまう。

全く割に合わず、「もう嫌だ」と号泣するのび太朗。人に親切にしてあげても「ありがとう」と言われたことないと、ふて寝してしまう。ドラミは「のびちゃんは人がいいものね」と同情する。

そこでドラミが取り出したのが「ウラシマキャンデー」である。玉手箱のようなケースの中に、キラキラと輝く粒のキャンデーが入っている。これを食べておいて人に親切をすると、浦島太郎のカメのように恩返しを受けるという。お人よしののび太朗にピッタリのキャンデーである。


さっそく一粒口に入れると、ちょうどママから呼ばれる。用を言いつけられるのは面倒だが、親切を忘れちゃダメとドラミに背中を押される。ママからの頼まれごとは、ゴキブリホイホイを捨ててきて欲しいというもの。

のび太朗はゴキブリホイホイを知らなかったようで、「なんだこりゃ」と中を枝で突いて、ゴキブリを出してしまう。ドラミは「キャ」と、飛び上がって驚く。ドラミはゴキブリ嫌いという設定がアニメなどでは出てくるが、このシーンのイメージを膨らませたものだ。

なお、このシーンでは、ママを手伝った意味合いと同時に、ゴキブリ側からすればゴキブリホイホイから助けてもらったことにもなっている。さり気なくラストへの伏線が張られたシーンだ。

補足情報だが、「ごきぶりホイホイ」は、本作が発表された前年の1973年に、アース製薬から発売された世界初の「粘着式のゴキブリ駆除製品」である。まだ発売したばかりだったので、のび太朗が知らなかったの仕方がない。


さて、物語はここからが本番。のび太朗は町へ出て色々と親切をして回ることに。最初は困っている犬や猫を助けてあげるが、恩返しも骨やネズミとありがた迷惑。

続けて、躓いたおばさんが落としそうになった大きな包みをキャッチする。何と包みの中身は、千年前の中国のカメで何百万もする品だと言う。是非お礼がしたいと、のび太朗を自宅へと連れていくが、そこは姫子さんの家。

「まあ、この方がかめを助けてくださったの」

と、亀を助けた浦島太郎のように、姫子に歓迎される。


何百万もするカメを持ち歩くような一家なので、出てくる御馳走はもの凄く豪華。お手伝いさんも少なくとも二人いるようだ。姫子はバレエを習っているようで、わざわざバレエ用のレオタードまで着て、踊って見せる。

その後も庭の池で買っている鯉にエサを上げたりと、竜宮家は文句なしの億万長者なのである。

一方、のび太朗の家では、息子の帰りが遅いということで、ママがイライラしてくる。そして帰ったら一時間くらい説教するとカンカンに怒り出す。


のび太朗も一度は帰ろうとしたのだが、姫子の背中に付いていた毛虫を取ってあげたことにより、

「また助けて下さったのね、このご恩は一生忘れないわ」

と抱きつかれてしまう。そして、強引に家の中に戻され、腹がはち切れそうなくらいのご馳走責めにあう。もっとおもてなしをしなくちゃと、靴まで隠されてしまう。未来のひみつ道具にありがちだが、「ウラシマキャンデー」の効き目もまた、極端なのであった。


ドラミの助けで何とか竜宮家から脱出。既に陽も暮れかかっており、ママは相当怒っているとドラミから聞く。ソロリと家に入るとすぐにママに見つかるが、「キャア」と言ってその場から逃げ出してしまう。そのうちにと部屋に逃げ込むのび太朗。

そうはいきませんと再びママが現れて「みっちりとお小言を・・」と切り出すと、またも「キャア」と大きな悲鳴を上げる。足元を見ると、さっきゴキブリホイホイから放してあげたゴキブリがゴソゴソと動いている。

ママは大のゴキブリ嫌いなので、のび太朗には近づけない。もう怒らないから追い出して・・と力なく震えるママなのであった。

なお、この時、ドラミはゴキブリを見ても、騒いだりしない。まだゴキブリが大の苦手という設定は、ここでは固まっていないことが伺えるシーンとなっている。


本作も15ページの中編で、「カメを助けた恩返し」と「ゴキブリを助けた恩返し」というネタを組み合わせた、良くできた物語となっている。「ドラミちゃん」では、藤子先生の腕がなる作品ばかりで、読んでいて実に楽しい連載である。



「ドラえもん」「ドラミちゃん」の傑作エピソード考察。


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