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昔話をテーマにしたドラえもんの傑作たちを一挙紹介/考察ドラえもん⑦

「おはなしバッジ」
「小学四年生」1972年6月号/藤子・F・不二雄大全集2巻

コロナになる前、息子と一緒に「すみっコぐらし」の映画を見に行った。他愛のない四コママンガをどのように長編化するのかと思っていたが、絵本の中にすみっコたちが入り込んで、色々な昔話の世界を冒険する展開にしていて、これまたドラえもんを思い出した。

「ドラえもん」では、昔話の世界をモチーフにした話が案外多く、「すみっコぐらし」の劇場版のように、ずばり絵本に入り込む話もある。

例えば、劇場用長編「のび太のドラビアンナイト」(1990-1991)は、絵本の中に入れるクツを使って色々な昔話を体験していくお話。絵本に入り込んだまま置き去りとなってしまったしずちゃんを救い出すため、タイムマシンでアラビアンナイトの世界にのび太たちが向かう、というようなストーリーラインだった。なぜタイムマシン?と思う方もいるかと思うが、それは是非読んで確認してほしい。

もう一つ、やはり映画にもなった「ぼく、桃太郎のなんなのさ」(1975)は、バケルくんというキャラクターと一緒に、過去の写真に写る桃太郎の秘密を解き明かすお話だった。この作品については、バケルくんの紹介をした上で、きちんと考察していく予定である。

桃太郎ときたら、次は浦島太郎。「竜宮城の八日間」(1980)は、浦島太郎が現実にいたのでは?というテーマで描かれた作品で、長編に発展できそうな壮大なSFファンタジーとなっている。こちらも考察するに十分値する傑作である。

今回はそうした中編・長編へと繋がっていく昔話モチーフの佳作、「おはなしバッジ」を取り上げてみたい。本作は、桃太郎・花咲かじじい・浦島太郎の代表的な日本昔話3本をたった10頁に織り交ぜた、非常に良くできた物語となっている。粋なオチも含めて、きちんと評価しておきたい一本である。

それでは冒頭から見ていこう。

未来の国から小包が届く(というか引き出しの中から投げ込まれる)。送り主はセワシ君で、中身は絵本のようなカバーに入ったバッジであった。これは「おはなしバッジ」というひみつ道具で、このバッジを付けると、お話の主人公と同じ出来事が起こるのだという。

「幼稚園で流行っているのでおじいさんにぴったりでしょう」と小バカにされたのび太は「くだらない」と怒るが、ドラえもんにたしなめられて、まず「もも太郎」のバッジで試してみることに。

「バカバカしい」と笑うのび太にママが声を掛けてくる。岡山のおじさんからきびだんごが届いたのだと。さっそく物語の世界に入り込んだようである。

きびだんごを持って出かけるのび太に、犬が寄ってきてこれをねだる。一つあげると、飼い主のおばさんが私にも頂戴と言う。ゴリラ風貌のおばさんに対して、のび太が「ははあ、おばさんがサルですか」と聞くと、怒って胸ぐらを掴まんでくる。「きびだんごあげるから許して」と全部を渡して難を逃れるのび太。このおばさんの言動誰かに似ているな、とか思っていると…。

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そこにスネ夫たちが登場。ジャイアンにおもちゃを取られたらしく、「あいつは鬼だ、誰かやっつけてくれないか」と文句を言い合っている。「僕が退治することになるらしい」となって、のび太はジャイアンの家に行って、「取ったもの返してやれよ」と言うが、逆襲されてボコボコにされる。

そこに先ほどきび団子をあげたおばさんが登場してジャイアンを叱りつける。ゴリラ風貌のおばさんは、ジャイアンが苦手な叔母さんなのであった。これで鬼退治が完了。姿を現さなかったキジだったが、ジャイアン叔母さんは、洋服生地(きじ)を持っていた、というオチ。

次はドラえもんが「花さかじいさん」のバッジを付ける。さっそく、ジャイアンの叔母さんが連れていた犬が再登場。ここ掘れ、ということで掘ってみると10円玉がみつかる。さすがに子供の遊び用なので、金額もミニマムとなっている。

それを見ていたジャイアンも再登場。「やいポチ俺にも教えろ」といううと、同じところを掘れと指示される。そして掘り進めると犬の大好きな骨が見つかり、ジャイアンはまたも激怒。

のび太たちはジャイアンに追いかけられるが、逃げている拍子でごみを燃やした灰の入った缶を蹴飛ばしてしまい、中の灰が舞うと、造花を積んで走っていた自転車を漕いでいる男の目に灰が入って転び、一面に花がバラまかれる。そのとばっちりを受けて男に殴られるジャイアン。これで「花さかじいさん」のお話も完了だ。

と、ここまで二つのお話が進んだが、二つともジャイアンがキーパーソンだった。鬼と意地悪じいさんの役柄である。ジャイアンはこの二つの話でイライラが募っているわけだが、これが次のお話の伏線となっている。

続けて何のお話か分からぬまま、のび太がバッジを付ける。するとムシャクシャが溜まっているジャイアンが、小さい子を殴っている。のび太は「叔母さんに言ってやろ」と子供を助ける。前二本の流れをくむスタートだ。

すると助けた子のお母さんが会いたいと言ってくる。そこは、「りゅうぐう」と書かれた喫茶店だった。「浦島太郎」だと気が付くのび太たち。さっきのジャイアンはカメをいじめる子ども役なのであった。この3本の話には全て悪役でジャイアンを登場させているわけだが、使い勝手の良いキャラクターである。

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ごちそうになって3時間、そろそろ帰らないととなるが、一度は引き止められつつ、お土産として玉手箱をもらう。

さて、浦島太郎は、竜宮城から戻ると誰も自分のことを知らない世界となっていて、玉手箱を空けるとお爺さんになってしまう。この部分をどう描いていくかが作者の腕の見せ所となる。

「帰ってみたら知らない人ばかりだったりして」と帰宅すると、「どなた?」とママが登場。慌てるのび太たちだが、ママは眼鏡をどこかへやって、よく見えないのであった。

部屋に戻って玉手箱をどうするか一瞬悩むが、ドラえもんが「試してみよう」と封を開ける。キャッと叫ぶと同時に、孫の孫のセワシ君が引き出しから登場。「やあおじいさん、バッジを使って楽しんだね」と一言。セワシ君からすると、のび太はおじいさん、という訳なのである。

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「桃太郎」と「花さかじじい」はこじつけで物語は作れるが、この「浦島太郎」のパートはのび太とセワシ君の関係を伏線に置いた、ドラえもんならではの見事なストーリーを構築している。F先生の力量を思い知らされる一本なのである。

この「おはなしバッジ」は、10年後、「小学一年生」1982年1月号「おやゆび姫をおいかけろ」で再登場。今度はしずちゃんが、おやゆび姫のバッジを付けての物語が展開する。

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藤子作品では、他にも「ドラえもん」「パーマン」で羽衣伝説を描いたり、おとぎ話のキャラクターになりきる「メルヘンランド入場券」などのエピソードもある。また、「T・Pぼん」では、さらに本格的に浦島太郎伝説を史実の一つとして向き合った「浦島太郎即日帰郷」という作品もある。

昔話とFマンガは切っても切り離せないのである。

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