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「のび太の海底鬼岩城」に繋がる大作『竜宮城の八日間』/藤子Fの浦島太郎③

「藤子Fの浦島太郎」と題したシリーズ記事も3本目。今回で最終回となる。

1本目は、浦島伝説は、日本書紀とそれ以降の御伽草子などのエピソードでは、内容が異なるという事実に着目した「T・Pぼん」の『浦島太郎即日帰郷』を考察した。

2本目は、ウラシマ効果と呼ばれる光速に近いスピードで飛ぶロケットの中では地球と比べて時間の経ち方が遅くなるという現象を、『世界名作童話』をベースに確認した。

3本目となる本稿では、浦島太郎をテーマにした「ドラえもん」の大作『竜宮城の八日間』を検証する。この作品は、地球人と海底人の対立と交流という壮大なスケールを持つ。

海底人と聞いて、ドラ通の方はすぐにピンとくると思うが、本作は大長編となった「のび太の海底鬼岩城」のベースとなったお話である。『竜宮城の八日間』は、浦島太郎を元にした話というレベルを大きく超えた設定・世界観を有する。F先生は、本作を描き上げた後、まだまだ掘り下げ可能な題材だと考えたに違いない。

本作の二年後、大長編として、それは結実したのである。

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「ドラえもん」
『竜宮城の八日間』(初出:「浦島事件のなぞにちょう戦」)

「小学四年生」1980年8月号/大全集10巻

冒頭ではのび太・しずか・ジャイアン・スネ夫が仲良くテレビドラマを見ているところから始まる。内容は、宇宙パイロットが、1年の宇宙飛行を終えて地球に戻ってくると、50年の月日が経っていた、というSFであった。

この作中作は、絵柄が藤子Fタッチとは異なっており、おそらく別のアシスタントの方が書かれているものと思われる。

のび太はドラマをみて、「どうしてパイロットだけ年を取らないのか」と疑問を持つ。物知りのスネ夫は、アインシュタインの相対性理論を持ち出して説明するが、のび太は全く理解できない。

ところがそれを聞いていたしずちゃんは、突然ひらめく。「浦島太郎の物語は宇宙旅行だったのではないか」。「助けたカメは宇宙人で、カメ型のロケットに乗って竜宮みたいな素晴らしい星に連れて行かれたのでは」、と。

「なるほど」と、皆は感心し、のび太はこれを夏休みの宿題のグループ研究の題材にしたらと提案する。題して「浦島太郎事件のナゾをとく」。とても小学四年生では手に負えない研究テーマだが、のび太たちにはドラえもんがいる。

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ドラえもんはこの話を聞いて、浦島太郎はおとぎ話の中の人物なのだと呆れるが、念のため航時局調査課へ問い合わせると、なんと1049年夏に海で行方不明となり、1317年にひょっこり帰ってきた男がいたという。浦島太郎は実在の人物だったのである。


そこでみんなは、タイムマシンで1049年へ。浜辺に着くと、さっそく子供たちがカメを捕まえていじめいているのを見つける。浦島太郎が現れるのではないかと陰で様子を伺っていると、一人の大男が現れる。

何かイメージが違うと思っていると、この大男は子供たちからカメを取り上げ、美味そうだからと持って帰ろうとする。食べられては大変と、のび太たちは飛び出し、しずちゃんが身に着けていたブローチと交換して、カメを助ける。

ところが、助けたカメはしずちゃんの指に噛みつき、逃げ出す。「恩知らず」、と他の4人でカメを取り押さえようとすると、本物の浦島太郎が現れて、「生き物をいじめてはいけない」と言って、カメを海へと放してやる。のび太たちは、最初カメを助けたのに、いつの間にかいじめっ子になってしまったのである。

このくだりでは、しずちゃんが持ってきたカメラで、何枚も写真を撮っているのがポイント。最後の方で生きてくる伏線となっている。

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浦島太郎が、カメを海に放すとすぐに、水中から大きなカメ型の潜水艇が浮かび上がってくる。中から人が現われ、カメに向かって「モゾ、一人で陸に来たりしては駄目、オットー姫が心配している」と話しかける。そして浦島太郎には、「お礼がしたい」と言って海の中へと連れて行ってしまう。

その様子を遠巻きにしていたのび太たち。竜宮を突き止めようと急ぎ「潜水ゴンドラ」に乗って、カメ型の潜水艇の後ろにくっ付いて、後を追う。

潜水艦は、何千メートルもの深海へと潜航していく。そして気味の悪い空間を抜けると、海底に巨大な都市が現れる。潜水艦は建物の中へと入っていくが、後にくっ付いてきた潜水ゴンドラは、その拍子に投げ出され、ドラえもんたちは海中に放り出される。

溺れるかと思いきや、そこは空気に満たされていた。不思議だが、何はともあれ竜宮の存在を突き止めた。そこで、しずちゃんのカメラで記念写真を撮ろうとするのだが、そこに海底人が現われて、「地上世界のスパイだな」と、捕まってしまう。

「夏休みのグループ発表をするだけです」と言い返すと、逆に「発表!?」と激高され、牢屋へと閉じ込められてしまう。

ちなみに、ここのコマ割りとしては、捕まったコマの次のコマでは、既に3日間閉じ込められており、ドラえもんの道具も修理中ということがわかる。このテンポの良いコマのジャンプが、F作品の特徴である。

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3日たったので、浦島太郎は帰っていく。次は、のび太たちの処分をどうするか、である。海底人たちは、その処分を巡って議論を戦わせる。スパイは死刑、でも相手は子供、と堂々巡り。

なお、浦島太郎はなぜ帰れたというと、竜宮のことをしゃべってしまうと、タマテボックスの効果でたちまち300歳の老人となってしまうようにしていたからだと説明が入る。


結局一週間が経ち、結局のび太たちは銃殺刑となることが決定する。お縄で縛られ、処刑場へ向かうのび太たち。その後描かれる、ドラえもんの大長編で、何度か見かけた光景である。

目隠しをされて、銃で狙われる5人。海底人は容赦がない。

と、ここでしずちゃんが撮っていたカメラが役に立つ。海底人が、カメラを調べてみると、絵を写す道具であると判明する。そして、そこに写っていた絵は、モゾ=カメを助けたのはしずちゃんたちだったという事実である。写真にはしずちゃんが写っていたので、この時はのび太あたりがカメラを借りたのだろうか?

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ということで、罪は晴れて、オットー姫(乙姫)が謝りに来る。殺そうとしておいて、どうかお許しくださいと、軽く済まされるのはちょっと気にかかるところ。

のび太たちはようやく、海底人の踊りを見ながらご馳走をいただくことに。ドラえもんは、「この国の人たちは宇宙人なのか、海底人なのか」、と尋ねると、昔地上に住んでいたのだと答える。

竜宮の設定は、このまま「のび太の海底鬼岩城」でも援用されるので、箇条書きで記しておく。

・何万年も前、地球人は今よりずっと進んだ科学を持っていた。
・この国はもともとムー大陸にあった美しく豊かな国。
・世界中で戦争が起こり、ムー大陸も戦禍に巻き込まれる。
・争いを好まない父王は科学者に命じて国全体を海底に沈めた。
・そして、世界は滅びた。

竜宮は、争いを好まない平和な国だったのだ。そして、地上世界とは次元が異なり、時間の流れ方もゆっくりなのだという。地上世界は時間の進み方が早いので、海底世界から見ると、たくさんの国がわずかのうちに、栄えて滅びていったのだという。

のび太たちは、海底世界のことを口止めされて、地上に戻されることになる。宿題はパーだが、命あっての物種である。

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さて、タイムマシンで現代に戻ろうということになるのだが、ここで大いなるトラブルが発生。タイムマシンの入り口が、巨木の幹の中に飲み込まれてしまったのである。竜宮城での数日間は、長い年月に相当するが、その間に木が生えて育ってしまったのだ。

「のび太の恐竜」ではタイムマシンが故障して戻れなくなった。他の作品でも、あらゆる理由をつけて帰れなくなる話が非常に多い。本作では「ドラえもん」大長編と同様のピンチを迎えるのである。

現代に帰れなくなって大騒ぎするドラえもんたち。そこに、見回りの警官?がやってくる。「1980年の戻り方なんて、聞いても無駄」とのび太が泣くと、警官は言う。

「何を言っているのかさっぱりわからん。今が1980年8月じゃないか!!」

なんと、竜宮城で8日間あまり過ごしているうちに、地上では800年以上が経過していたのである。最初1049年に向かっているので、正確には931年が経っていた。

ちょうどピッタリに戻れるという奇跡は、ご都合主義そのものだが、なんだか爽やかなラストなのである。

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浦島太郎が大好きで、それを元にした作品を複数描いていた藤子F先生。その代表作が、本作となる。そして、この作品から、大長編の「のび太の海底鬼岩城」が生み出される。その意味で、海底鬼岩城は、浦島伝説から創出された物語であったのだ。


ドラえもんの考察、たくさんやってます!


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