ひみつ道具を使って便利屋開業(ただし違法)『なんでもひきうけ会社』/藤子Fカンパニー④

一つだけひみつ道具を貰えるとしたら・・・。

良くある質問だけど、この時ちょっとしたドラ通の中には「スペアポケット」と答える者がいる。

スペアポケットとは、ドラえもんが身に着けているポケットのスペア(予備)で、中は同じ四次元空間に繋がっていて、どちらのポケットからもひみつ道具を取り出すことができる。

このスペアポケットさえ入手すれば、ドラえもんのひみつ道具が使い放題となるので、一つだけ道具を選べない諸氏が「スペアポケット」が欲しいなどと言うのである。

けれど、貰えるひみつ道具は一つだけだとすると、四次元空間(ポケット)の中には何もないことになるので、結局あまり意味がないように思うのは僕だけだろうか?

それとも四次元空間があれば良いということなのだろうか??


と、それはさておき、「ドラえもん」において「スペアポケット」は大変使い勝手の良い道具のようで、短編での登場回数を調べたら9作ほどリストアップできた。さらに、大長編でもたびたび登場して、ドラえもんの不在を埋めるような働きをみせている。

下記がそのラインナップである。

『四次元ポケットにスペアがあったのだ』1981年10月
『水たまりのピラクル』1982年1月
『なんでもひきうけ会社』1984年11月
『レポーターロボット』1985年4月
『冒険ゲームブック』1985年7月
「のび太と鉄人兵団」1985年8月~
『四次元くずかご』1985年11月
『エアコンフォト』1989年3月
『気まぐれカレンダー』1989年7月
「のび太とドラビアンナイト」1990年10月~
「のび太とブリキの迷宮」1992年9月~
『ガラパ星からきた男』1994年7~9月
「のび太の創世日記」1994年9月~
「のび太と銀河超特急」1995年9月~

スペアポケットは、大長編必須の道具でもあるし、短編においても、どんな場合に使われるのかを検証する必要があるので、いずれスペアポケットに特化した記事を書きたい思う。


今回は、全てのドラえもんのひみつ道具にアクセスできるスペアポケットを使って、のび太が「何でも引き受け会社」を起業するお話を見ていきたい。

なお、これまでに「藤子Fカンパニー」と題して、3作品ほどの会社起業のお話を取り上げているので、こちらのチェックもお願いします。


「ドラえもん」『なんでもひきうけ会社』
「小学六年生」1984年11月号/大全集12巻

過去にこのnoteで取り上げた作品に、『魔女っこしずちゃん』というお話がある。魔法少女になって、困っている人を助けたいというしずちゃんの夢を叶えるために、ドラえもんのポケットを渡して、魔女として活躍してもらうというストーリーであった。

この記事で書いたが、ドラえもんのひみつ道具は、22世紀の科学力を結集したあくまで科学的な製品という建付けであるが、実際には非科学的な効果を発揮する道具ばかりであり、それはおよそ魔法と変わらない。

なので、しずちゃんがひみつ道具を使うことで無理なく「魔女」になることができたわけである。

このように、ある種の科学的裏付けが良くわからない万能アイテムがドラえもんのひみつ道具の特色であるが、当然これらを使えば、今の世の中で困っている人たちのニーズを救うビジネスを始めることは容易いだろう。

のび太はそうした事実に幾度か気が付いており、「のび太航空」やら、「四次元たてましブロック」を使ったマンション経営なんかを始めている。

今回は、一つの道具だけでなく、ドラえもんのひみつ道具全般を使えば、何でも顧客の要望に応えることのできる会社が作れると、のび太は考えつく。のび太のひみつ道具ビジネスの総決算のようなアイディアなのである。


ただし、当然のことながらドラえもんの科学力をお金儲けに使うことは許されない。作中ではドラえもんが「莫大な罰金を取られる」と語っている。

明示されていないが、おそらくは航時法などに引っ掛かるのだろうし、法律を違反すれば、罰金だけでなく、ドラえもんの強制送還などもありうる。

ドラえもんは、のび太からの会社起業提案をすぐさま否定することになるのだが、そこで登場するのが、「スペアポケット」なのである。ドラえもんがスペアを押し入れに隠していることをのび太は知っており、こっそりと独自に会社を立ち上げてしまうのである。


なお、ドラえもんはのび太の会社提案に対して、

「あれは、あくまで個人的に使うための道具なんだ。金儲けなどもっての外」

と拒否っている。まるで個人視聴のみが許された配信ソフトのようなもので、ひみつ道具で金儲けをすることは、海賊版の違法販売のようなイメージだということがわかる。


さてスペアポケットを入手したのび太。会社を始めるにあたって最初に必要なものは何かと考えを巡らし、社屋(オフィス)が必要だと考える。なるほど、いかにも昭和な考え方である。

オフィスは賃料などの固定費がかかるので、オフィスは最小限にして、事業が大きくなるまでは、なるべくネット上で商談を済ませたいものだが、昭和の発想では、まずは会社の立地ということになるのだ。


そこでのび太は「かべ紙会社」を出して、いつもの空き地のどこかの家の塀に貼り出す。社名は汚い字で「なんでもひきうけ会社」と書く。「かべ紙会社」は、「かべ紙ハウス」の姉妹版といったアイテムであろう。

入口は狭いが、中はかなり大きめなオフィスとなっていて、奥に社長のデスク、中ほどに商談用のテーブルと椅子が置かれ、入り口付近には秘書の机も用意されている。大きなヤシの木なども飾られている。

のび太は中を見て、「社員を一人入社させよう!! しずちゃんがいい!!」と勝手に採用を決めてしまう。


しずちゃんに対しては「やがては世界的な大企業に育てよう」などと、半ば無理やりにオフィスに連れ込んで社員にする。

しずちゃんは以降、接客対応などを担うことになるが、ほぼ大した仕事をすることはない。極端な話、ひみつ道具があれば事足りる業務なので、まあそうなるよね、というところ。

社屋と接客対応の社員が揃ったので、次は新会社のPRを開始することになるが、これはのび太の役割となる。

「もはん広告ペン」と「万能コピー」でチラシを作成し、これをタケコプターを使って空から町中に大量に配布する。「もはん広告ペン」は初登場の道具だが、模範的な文章を書いてくれるということから「もはん手紙ペン」の仲間と考えられる。


空から無作為にチラシを配ったので、あっという間にドラえもんの知るところとなり、怒りを買うことになる。ドラえもんはミーちゃん(ガールフレンド)と屋根の上でデート中だったようだ。

のび太はドラえもんに知られてしまったので、急ぎオフィスに戻って「ガードマンロボット」を出す。こちらも初登場のロボットだが、ころばし屋のような小型ながらかなりの腕利きのようで、ドラえもんをあっという間に追い出ししまう。


さて、ここからの焦点は、のび太が実際にお金儲けをできるのかどうかという点に移っていく。

まず最初のお客様がやってくる。想定と異なり、小さな子供でパパの大事なツボをうっかり割ってしまい、怖いから代わりに謝って欲しいという、カワイイ依頼であった。

のび太は「復元光線」でツボをあっという間に修復させると、子供は涙を流して喜びながら帰っていく。しずちゃんは人助けしたことで満足そうだが、のび太は大儲けしなきゃ意味がないと不服そうである。


続けて待望の大人のお客様がやってくる。いかにもお金持ちのご婦人で、依頼内容は、広い広い庭の草むしりを一万円で引き受けてほしいというもの。

すぐさま「インスタントロボ」を取り出して、草むしりに向かわせようとするのだが、ママに自宅の庭の草むしりをするよう言づけられていたのを思い出し、依頼主ではなく、自分の庭へとロボットを派遣する。

ここはまず一万円を確保すればよいのにと思う所で、案の定依頼人は怒って帰って行ってしまう。

なお、「インスタントロボ」は本作の約二年前に一度登場している道具である。


さあ、今度こそ儲けたいのび太。一円でも儲ける前に会社を廃業させたいドラえもん。どちらに軍配が上がるのか・・・。

3人目の依頼人は、ジャイケル・マクソンの来日コンサートのプラチナチケットを確保してほしいというもの。金に糸目は付けないと、数十万はあると思しき札束をバンとテーブルに差し出してくる。

「引き受けましょう」と言って、のび太は「リザーブマシン」を取り出すべく、ゴソゴソとスペアポケットの中に手を突っ込む。「リザーブマシン」は、『ドラやき・映画・予約ずみ』(78年2月)で一度登場しているが、のび太は大変に記憶が良い。

ポケットをまさぐったため、遠く離れたドラえもんもポケットをコチョコチョとくすぐられたように感じる。そして、そこで二つのポケットは中で一つに繋がっているという事実を思い出す。

ドラえもんがグイのポケットの中に手を突っ込むと、スペアポケットに入れていたのび太の手を掴むことに成功。そのまま怪力で四次元空間へと引っ張り込み、そのままポケットから取り出す。

こうしてのび太はドラえもんに確保され、敢え無く一銭も稼ぐことなく会社は解散ということになったようである。


本作の最大の意義は、ひみつ道具を使ってお金を稼ぐのは法律違反になるということが明らかとなったことが上げられる。

作中では罰金と言っていたが、仮に航時法違反ということになれば、そもそも22世紀からドラえもんが送り込まれていること自体が問題になりかねない。

時々ひみつ道具を使って10円とか100円程度のお金儲けをすることあるが、これは子供の遊び程度ということでお目こぼしということなのだろうか。その点は不明。

本作のように大々的にビジネスを立ち上げてしまうのは問題と言うことなのかもしれない。




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