事業計画は破綻気味だが、ともかく『ネコが会社を作ったよ』/藤子Fカンパニー①

勤め人をしていると、一度は思うこと。それは自分で会社を興したらどうなるかという夢想である。

自分の周囲にも会社を立ち上げた人は大勢いて、その人たちを見ていると、単純にスゲエなあと思う。

会社設立時の資本金は1円からでも大丈夫だが、実際に会社を回していくには資金が必要である。それには、当たり前の話だが、それなりの回転資金を稼ぐことのできる「仕事」がなければならない。

つまりは会社を作るためには、その会社で稼ぐことのできる具体的な仕事が必要だという、極めて常識的な結論に至るわけである。

勤め人であれば、しかもそれなりに規模の大きい会社に所属していれば、十分なキャッシュフローがあるので、資金力を生かした活動をすることができる。

ちょっとした失敗も、会社はその人の経験だということで、赤字を飲み込んでくれるだろう。

しかし、自分が小さな会社を立ち上げたとしたら、ちょっとした失敗=赤字が致命傷になりかねない。常に資金的なリスクを背負って営業活動をしていかねばならないのだ。


・・・と、勤め人ならではのシビアな視点で会社経営について考えてみたが、マンガの世界では、もう少し夢が語られるべきである。

会社を立ち上げて成功することは、読者である子供たちからしても、憧れの詰まったことであるべきだからだ。

藤子作品では、色んなキャラクターたちが会社を立ち上げるお話が存在する。そんなバカなと思うことも出てくるが、その非現実的なところが、面白くてたまらない。

そこで「藤子Fカンパニー」と題して、藤子ワールドの起業人たちを見ていこう。読んでいくうちに、きっと大人になった僕らでも、会社を作る勇気が湧いてくるかもしれない!?


「ドラえもん」
『ネコが会社を作ったよ』(初出:ネズミたいじ会社)

「小学四年生」1977年9月号/大全集7巻

まず最初にお断りさせてもらえれば、この話、子供の頃からかなり好きな作品であった。ネコが会社を作って自立するという部分も良かったし、何よりアイディア次第で新規事業を作ることができるという夢が描かれているような気がしたからである。

本作のキーとなるのは、「タイマー」というシンプルな名前を持つ腕時計型のひみつ道具である。

朝、のび太が寝ている傍らでドラえもんが座っている。「そろそろだな」とドラえもんが呟くと、のび太はグウと言いながら布団から起き上がる。そのままグウと言いながら歯を磨き、グウムシャと言いながら朝ご飯を食べる。

ママはのび太が時間通りに起きてきたことに喜ぶ。のび太の腕には時計のようなものが巻かれている。「毎朝こんなふうだと助かるわ」というママに見送られて、のび太は学校へと向かう。グウと鼻提灯を広げながら。


さてここでネタばらし。のび太が寝坊もせずに起きれたのは、昨晩「タイマー」なる腕時計を巻いて寝たからである。このタイマーを付けていれば、毎日規則的に、決められたことをひとりでに実行できるという。

タイマー作戦が功を奏して、機嫌が良くなったのび太は、しずちゃんに元気よく挨拶するが、「おはよ」と力なく答えるしずちゃんの様子がおかしい。

しずちゃんはその日一日ずっと暗い表情を浮かべたままで、のび太は下校時に何か心配事があるのではと尋ねる。しずちゃんは沈んだ顔で、「のび太さんに話したって仕方がないわ・・・」とつれない。

カッコつけしいののび太は、「しずちゃんのためならどんなことでも・・」とこぶしを振り上げる。するとしずちゃんは、「本当?引き受けてくれる?嬉しい!」と、涙を零してのび太の手を握る。

ここで、しずちゃんの悩みが明らかとなる。それは、家の前に子猫が捨てられていたのだが、既にカナリアとイヌを飼っているために、どうしても飼えないとママに言われてしまったというのだ。


・・・・

のび太のママは言わずと知れた大のペット嫌いである。しずちゃんが言ったとおりに、猫を引き取って欲しいという相談は、本来ならのび太に話しても仕方がない案件であった。

しかしながら、流れで結局しずちゃんから猫を譲り受けて部屋へと連れ帰ってくる。しかも猫は4匹もいて、いきなり腹を空かせてニイニイと泣き出している。

のび太は「引き受けた以上、責任を取らなきゃ」と力強く語り、ママの隙を狙ってエサを調達するべく台所へと走る。うまく目を盗んで、ミルクや魚をゲットして部屋に戻ってくるが、なんとそこにはママの姿。

何とものの数分というところでママは猫の存在を察知しており、「私の目を誤魔化そうとしたって、そうはいきませんからねっ」と激怒するのであった。

のび太のママは、基本的にガミガミとうるさいが、怒る理由はほぼ全て、のび太の怒られるに値する行動が原因である。すなわち怒るママに分があることが多いのだが、こと生き物を飼う飼わないの時に騒ぐ場面では、どうしてもママに対して反発心を覚えてしまう。

ペットを飼うことは子供の情操教育にも役立つことのはずだが、ここだけは譲らないゾーンなのである。(もちろん例外的な話も存在するが)


今回もペットに対する鬼ママぶりが発揮され、どこかへ捨てるまで家に帰ってくるなと、のび太を突き放す。餌の問題などであれば、ドラえもんが何とかしてくれそうなものなのに・・・。

のび太は泣く泣く近所を回って、猫を飼ってくれそうな人を探し回る。「ネコが大嫌いでな」というネズミ顔のおじいさんに断られ、アパート暮らしを理由にした女性にも断られる。

逆に「猫ほど美味いものはない」という変態なおじさんからは逃げ出すことになる。仕方なく空き地に捨てようとすると、狂暴そうな野良犬に目を付けられてしまう。

子猫たちを貰ってくれる人も見つからず、適当に捨てることもできない。困り切ったのび太とドラえもんは「初めに捨てた無責任な人間が憎らしい」と言って途方に暮れてしまう。


そんなタイミングでのび太の腕につけていたタイマーが反応し、のび太は意に反して家へと走り出す。タイマーでセットしておいた勉強の時間になったのである。

猫を捨てずに帰宅してしまうのび太。当然ママはカンカンとなるが、ドラえもんが機転を利かせて「デンデンハウス」を取り出して、のび太を匿う。ママは「後で覚えてらっしゃい」と怒りながら、その場は引き下がる。

ちなみに「デンデンハウス」は本作の二年前に発表した『デンデンハウスは気楽だな』以来二度目の登場となる。そして、この道具がここで登場したのには、後ほど意味を持つことになる。


時間稼ぎには成功したが、子猫たちをどうするかという抜本的解決は見出せない。するとしばらく思案していたドラえもんが、タイマーを4つ取り出して、「ネコにつける」と言い出す。

ネコの首輪替わりにタイマーを巻き付けて、5分ほど待つとタイマーに反応して、子猫たちが並んで押し入れの中へと入っていく。この整然とした感じが可愛くて仕方がないと思うのは、僕が猫好きだからであろうか。

子猫たちはそのまま天井へと上がり、カサコソと動き出す。ドラえもんが言うには、タイマーのコンピューターに、時間が来たら天井裏をパトロールするようセットしたとのこと。

やがて猫たちはドタバタと大騒ぎを始め、チューというネズミを追って押し入れから飛び出してくる。見事にネズミを追い払うことに成功する。のび太のママもその行為自体は認めつつ、でもうちでは飼わないと、再び突き放す。


がっかりするのび太だが、ドラえもんは「飼ってもらわなくてもいい」と答える。もう飼い主などいらない、猫たちは自分たちの家に住んで自分の働きで暮らすのだと言う。一体何を言っているのだろうか。

ここでドラえもんがひねり出したアイディアが披露される。

・何軒かの家と契約を結ぶ
・毎日決められた時間にネコが天井裏などのパトロールに出かける
・猫の月給はペット屋さんに払い込んでもらう
・ペット屋は猫の家にキャットフードを毎日届ける

それはつまり、猫たちにネズミ駆除の会社を作らせるという、新事業立ち上げのアイディアなのであった。

そうと決まれば、あとは契約先を見つけるのみ。こうして「ネズミたいじ会社」が立ち上がることになる。ネコたちの住まいは、空き地に置かれた先ほどのび太が隠れた「デンデンハウス」で、4匹の社員(猫)たちはそこで暮らし、時間になったらパトロールへと出かけていく。

契約者募集の看板には、料金が一か月100円とある。本作の執筆時でキャットフードの値段がいかほどだったかは不明だが、感覚的に4匹がひと月に必要なキャットフードは、それなりの量になる気がするので、この契約金では、かなりの契約者数が必要だろう。

事業計画には少々破綻が見え隠れするが、その辺は深く考えずに、まずは新会社設立を喜びたい。




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