誰かに化けて差し上げます!『オバケ会社が引き受けた』/藤子Fカンパニー②

自分の会社を立ち上げて、一国一城の主になる。それはサラリーマン人生25年の僕にとっての憧れだし、まだ10歳に満たない子供たちにとってもそうである(はず)。

けれど、大人になった僕も、年端のいかない子供たちも、どんな生業で会社が興せるかと考えたときに、その憧れはあっという間にスタックする。夢の中の城は脆くも崩れ去る。

当然のことながら、会社を作るには、きちんとした実業がいる。実業があるから会社が成り立つ。最初にハコありきでダメなのである。

では、自分ができることって何だろうと考える。「魔女の宅急便」のキキは、飛べることを生かして宅急便を開業した。そんな風な、自分ならではの、対価を得られそうな特徴は何だろう。


藤子世界のプチ起業家たちは、日頃から何かでお金を稼ぎたいと考えている。そうこうしているうちに、ちょっとしたアイディアが浮かび、抜群の行動力で会社を設立する。

そんな「藤子Fカンパニー」を順次ご紹介していくわけだが、既に前稿でドラえもんのアイディアから、捨てられた猫たちだけで会社を作ることに成功したお話を取り上げた。


本稿では「オバQ」から、会社起業のドタバタ劇をご紹介したい。

「オバケのQ太郎」では、今回は取り上げないが、『ぼくは社長だぞ』(「週刊少年サンデー」1964年48号)と、『航Q会社』(「小学五年生」1965年6月号)という会社を作る話がある。

この二作では空を飛べるという「魔女宅」のキキと同様の能力を生かして、Qちゃんが航空会社を作ることになる。旧オバQならではの破天荒なストーリーとなっているので、こちらも機会があれば読んでみてほしい。


今回は「新オバケのQ太郎」から、Qちゃん以外のオバケたち総勢を巻き込んだお話を見ていく。いつものようなドタバタの後、何だかいい感じのオチがついている中々の名作なのである。


「新オバケのQ太郎」
『オバケ会社が引きうけた』(初出:オバケ会社は大いそがしのまき)

「小学四年生」1971年10月号/大全集2巻

Qちゃんが、O次郎・P子・U子・ドロンパを集めて、「とっても素晴らしい考えが浮かんだんだ」とにこやかに語りだす。化けられるという自分たちオバケの特徴を活かして、会社を作ろうと思うと、突然の起業宣言なのである。

当然「中には化けられないのもいるけどな」とドロンパの突っ込みを受けるQちゃんではあるのだが・・・。


皆が同意したのかは不明だが、ともかくもQちゃんが社長となって、早速町へ出て営業開始。オバケ会社では、優秀な4人のオバケを誰にでも化けさせて、どんな用事でもすると、皆に声を掛けていく。

ゴジラやよっちゃんだけでなく、通りを歩く人たちにもビラを配っていく。気になる料金設定は一時間でたったの100円。破格の安さである。これではどう考えてもオバケたちの時給は100円以内となってしまう。

前稿で紹介した「ドラえもん」のネコの会社は、一か月100円だったので、それよりはマシかもしれないが・・・でも猫だったしな・・・。今回も事業計画の綻びが早くも浮かび上がる。


そうこうしているうちに、最初の仕事が舞い込んでくる。依頼人はゴジラで、二時間、子供料金でお願いしたいとのこと。オバケは誰でも良いということなので、Qちゃんは早速お隣さんであるドロンパに出勤指示を出す。

ゴジラの依頼内容は、野球に行こうと思ったから留守番を頼まれてしまったので、代わってくれというものだった。ドロンパは「引き受けた」と言って、ゴジラに姿を変えて、バットを手にして野球へと向かう。

ドロンパは留守番ではなく、野球要員の代わりをお願いされたと思い込んだのである。ゴジラはなぜお金を払って留守番しなきゃならんと激怒り。Q太郎にクレームをつけて、仕方なくP子を送り込むことになる。


さて続けて、Qちゃんが配布していたビラを見て、学生服姿の男子が訪ねてくる。用件は毎日しているアルバイトを一日だけ代わって欲しいというもの。アルバイトの中身をよく聞かぬうちに、U子を送り出す。

野球場を通りかかると、ゴジラとゴジラに扮したドロンパで激しい口論が行われている。ドロンパは料金を貰ったので、野球をやる責任があると主張し、ゴジラは頼んだのは留守番だと激高する。

当然お客様の依頼が優先されるため、ドロンパが引き下がることになるのだが、留守番を頼まれたことにひどく憤慨する。もっと高級な仕事を持ってこいと騒ぐドロンパなのである。

するとそこへ、次なるお客さんとなる老人男性が「貸しオバケ屋はここかね」と言って訪ねてくる。化けてほしいのは自分で、自分同士で将棋を指してみたいのだという。

自分同士なら将棋の実力が伯仲するという意味での依頼だが、あくまで見た目が同じになるだけで、中身はドロンパのままだと思いつつ、満足そうに老人はドロンパを連れていく。

するとそこへ、学生のアルバイトの代行をしているはずのU子が不機嫌そうにやってきて、Qちゃんをいきなりデヤーッと投げ飛ばす。聞けば、頼まれたアルバイトの内容は犬の散歩で、U子は大の犬嫌いなのである。

怒りの収まらないU子は、Qちゃんをメッタメタにして、「会社やめる」と言って行ってしまう。

Qちゃんは「自分勝手な社員ばかりだ!」と堪忍袋の緒が切れて、会社を畳むことにする。オバケ会社は、管理職たるQ太郎の実力不足と、社員教育がまるでなっていないという人材問題で、いきなり廃業というわけである。


そんなところへ、丁寧な様子で腰の低いご婦人が仕事の依頼を持ち込んでくる。聞けば、一人息子の太郎が去年から家出をしており、ショックで主人が病気となったという。容体は悪化して明日にも心臓が止まりそうなので、死ぬ前に太郎に会いたいというのである。

この手の感動話に弱いオバQとO次郎はもらい泣きして、会社を止めるのを止めにして、依頼を引き受けることにする。ただし、この役回りは、人間の言葉が話せないO次郎には荷が重い。

他のオバケたちに仕事を要請することになるが、まずP子はゴジラの帰宅がまだなので留守番から離れられない。ドロンパはじいさんとの将棋が白熱していて、戻してもらえない。U子さんは怒りが収まっておらず、Qちゃんは蹴り飛ばされてしまう。

仕方なく消去法でO次郎が太郎に扮して、依頼してきたご婦人宅へと向かう。ただここで思うのは、ゴジラ宅の留守番であるP子とO次郎が担当を交換すれば良かったのでは? ということである・・・。


バケラッタしかしゃべれないO次郎。太郎に化けて父親との感動的な再会を果たすが、「もう一度お父さんと呼んでおくれ」というお願いに応えられず、「わしには口もきけんと言うのかっ」と大激怒されてしまう。

オバケ会社の存亡に関わる大ピンチだが、他のオバケたちが同時にこの家へと向かってくる。U子は機嫌を直し、ドロンパは将棋に勝ち、P子の留守番もゴジラが帰宅してお役御免となったのだ。

そしてこの3人が全員太郎に変身し、一挙に太郎の父親の前に現れて、「おとうさ~ん」と声を掛ける。父親はビックリ仰天して、まるで心臓が止まるかのような勢いで飛び上がる。


ところがここで異変が発生。変身できるオバケ社員は全員で4名なので、太郎は4人いるはずなのだが、何と5人の太郎が部屋に集合しているのだ。

なんと偶然。ドロンパたち3名のオバケが部屋に入ってきた時に、本物の太郎も時を合わせて帰宅したのである。

父親と本物の息子の感動的な対面が実現し、二人は泣いて手を取り合う。そしてあまりにびっくりしたことで、父親の心臓は回復してしまったようである。

何ともご都合主義なラスト数コマであったが、何となく感動的なエンディングだとも言える。オバケ会社は、かなりバタバタした業務であったが、結果的には良い成果を得ることができたのではないだろうか。

まあ、この日限りで解散であろうが・・・。



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