星から来た正統派ヒーローの大活躍「すすめピロン」/初期SFヒーロー漫画②
1959年4月、「週刊少年サンデー」の創刊号メンバーとなった藤子不二雄先生は、安孫子先生との完全合作「海の王子」で初めての大きなヒットを飛ばす。
藤子F先生は、その後「海の王子」路線の作品を求められて、1960年4月より「小学一年生」にて「ロケットけんちゃん」の連載を始める。そしてこちらも話題作となる。
小学館の低学年向け学習誌において、その後「ロケットけんちゃん」タイプの作品は量産されていくのだが、これを総じて「初期SFヒーロー漫画」というような括りにしておきたい。
幾度も読んでいる作品群なのだが、同時期に同じような作品が描かれていて、何が何の作品かよくわからなくなっているのが実情である。ということで、備忘録も兼ねて、全体概要と個別作品の見所をかいつまんで記しておきたいと思う。
まずは、藤子Fノートにおける「初期SFヒーロー漫画」に分類される作品群を列記しておきたい。
このうち、⑦⑧の作品については、ヒーロー漫画というよりは、幼児向け作品の色合いが強いと判断して、「ちょっぴりマイナーな幼児向けF作品」という括りで今後記事にする予定である。
これまで執筆してきた「初期SFヒーロー漫画」についての記事を以下にまとめてありますので、もしよろしければ、ご一読下さい。
さて、ここからは本題に入っていく。
まず一点ややこしい部分を書いておくと、この作品が始まる直前まで「小学一年生」では「ピロンちゃん」という作品を連載していた。
この作品も「初期SFヒーロー漫画」の一本ではあるのだが、原案が手塚治虫先生であること、TVドラマとのメディアミックスが仕掛けられていたことなど、かなり異例の作品となっている。
「ピロンちゃん」についての、詳細な記事があるので、こちらも併せてお読みください。
なので、「すすめピロン」と「ピロンちゃん」は、同名主人公の全く別のお話ということになっているのだが、資料を見ていくと、連載開始当初はそのあたりがウヤムヤになっているように思われる。
例えば、「ピロンちゃん」の最終回では、次号予告ということで、ピロンちゃんが「すすめピロン」を紹介している。キャラクター造形が違うので、別作品とははっきりわかるものの、「ぴろん」の名前が共通しているので、一見、成長した姿と思えなくもない。
さらに「すすめピロン」では、連載開始の6月号と7月号での扉絵において「てれびまんが」という表記がある。この表記はTVドラマ「ピロンの秘密」とのメディアミックスを印象付けるために、「ピロンちゃん」において用いられていたもの。
「すすめピロン」連載時にはTVドラマは最終回となっていたが、ここでも「すすめピロン」=「ピロンちゃん」というイメージを読者に刷り込んでいることがわかる。
また、「すすめピロン」のピロンは、「星から来た」と自己紹介している宇宙人設定なのだが、「ピロンちゃん」のピロンもまた「星の国から来た」とされていて、出身が同じように読み取れる。
こうした事実から、
・「ピロンちゃん」の原案となった「ピロンの秘密」の放送が終わってしまって別作品を立ち上げることになった
・せっかくならと「ピロンちゃん」のイメージを継承した作品にしようと考えた
・とは言え、原案者が異なるので全く別の作品としなくてはならなかった
などが読み取れるのである。
といったような、大人の事情も垣間見える作品ではあるのだが、中身は同時期に連載していた「ロケットけんちゃん」の弟分的な位置づけとなる正統派のヒーロー漫画となっている。
本作は全10話が描かれた。「小学一年生」では、毎号本誌16ページと別冊付録32ページに分けて掲載されている。全48ページの大著だが、付録の方はに段組みとなっているので、各話36ページ換算のボリュームであった。
本作の主人公は「星から来た」宇宙人のピロンと、相棒となる犬のような風貌のぴぴ。
ピロンは空を飛ぶことができたり、乗っているロケットをわりと容易く修理してしまったりと、体力も頭脳も優秀な宇宙人である。ぴぴについては、生命体なのかロボットなのかが、最後までよくわからなったが、毎話色々なギミックを繰り出す楽しいキャラとなっている。
それでは、各話のタイトルと見所をまとめておこう。
ピロンとぴぴの紹介編となっている。航行中の船を襲う赤いクジラを追って、ピロンとぴぴで海底の城へと向かう。
ねむりガスで反撃され、ピロンは眠ってしまうのだが、ぴぴには通用せず、ピロンを助けてくれる。ぴぴは、わんわんと鳴いていることから、やはり犬型ロボットと考えた方が良いかもしれない。
ピロンは口笛を吹いて魚を集めたり、天井を歩いたり、格闘も強かったりと超人的な働きを見せる。ぴぴもしっぽをのこぎりにしたり、明かりを灯したりという何でもありの活躍を見せる。
ラストでは、ピロンたちのロケットと赤いクジラの激突が描かれるが、これは「海の王子」そっくり。ただ、敵キャラが「海の王子」と異なり、どこか牧歌的な優しい雰囲気が漂う。これは、「海の王子」の印象的な敵キャラは、安孫子先生が描かれていることが大きい。
藤子F先生と言えばやはり「恐竜」。実際には恐竜型のメカだったわけだが、同じような展開が「海の王子」にもあった。
本作の舞台はアフリカと思しきジャングル。恐竜を探している博士とその孫娘と合流し、恐竜の謎を追う。娘はまるで公園に遊びに行くような恰好なのが気にかかるが・・。
本作ではピロンが大破したロケットをわりと簡単に修理してしまうという科学力が印象的。何でもできるぴぴは、本作でもゾウを操ったり、鳥の言葉が理解できたり、口からセメントを出したりと今回も大活躍。
タイトルにある「ふしぎなピストル」とは、謎の男が使うピストルのことで、赤いボタンを押すと小さくなる光線、白いボタンは大きくなる光線を出す。スモールライトとビックライトが合わさったような、いかにも藤子F的なアイテムである。
男は世界中の人間を小人にして、世界の王になろうという(無謀な)野望を抱いている人物。ピロンも一度小さくされてしまうのだが、今回もぴぴに助けてもらい、小さくなる光線を跳ね返して、逆転勝利となる。
本作でも、『恐竜をさがせ』に登場していた博士と孫娘が登場していて、今後レギュラー化するのかと思いきや、今回までの登場であった。
空飛ぶ円盤=UFOに地球が襲われ、町が壊滅的な被害を受ける。ピロンのロケットも早々に撃墜されてしまう大ピンチ。そこで、地下の研究所で対円盤の対抗策を研究している「発明家」と出会い、兵器の開発を行う。
しかし、その後宇宙人(見た目はカエル?)の弱点が水だとわかり、水鉄砲を持って戦うことになる。
水に弱い宇宙人と言うと、M・ナイト・シャマランの「サイン」を思い出すのは僕だけではあるまい。
宇宙探検家が、宇宙で集めてきた珍獣たちを集めて「宇宙動物園」をオープンさせる。月のウサギや、タコっぽい火星人、輪っかのついた土星の生き物など・・。
その中に一頭の大きな恐竜のような生き物がいて、彼の親が子供を取り返しに現われて戦うことになる・・・というお話。
最後は子供を返してあげる優しいお話で、怪獣=悪という単純構図にしない藤子先生らしい作品である。
宝の星の地図を持った男性と、宝探しにいくピロン。そしてその男性から地図を奪い取ろうする別の男。宝の星に着いて、一度は奪われてしまったり、星の生き物に捕まったりと、冒険していくお話。
ラストは、宝は星の生き物のもの、というこれまた藤子先生らしい、優しい大団円を迎える。
サンタクロースのようにプレゼントを世界中の子供に送っているサンタ博士。サンタロケットにプレゼントを積んで出発するが、謎のクラゲに襲われてしまう。
クラゲは透明になることができるので、戦うのも一苦労。なんとか撃破すると、クラゲは別の星の宇宙人の乗り物であった。彼らの星にはおもちゃがないので、それを盗もうと計画していたのである。
そして、ラストでは、宇宙人にもおもちゃを上げるという、これまたいい話。藤子先生の優しい人柄が、本作でも感じることができる。
町の発明家が作った巨大ロボットドロームが、なぜか暴れ出してしまう。ドロームは、怪力と鉄よりも固いボディを武器に暴れまわり、ピロンたちも大苦戦。
ドロームは口から怪光線を吐き出すのだが、その直前で口の中に機銃を打ち込んで撃破に成功する。
「すすめピロン」の中では最も強大な敵であった。
水爆実験で使う予定だった水爆が、謎の組織に奪われてしまう。ピロンたちは、一度は敵の基地に幽閉されてしまうが、ギミックを使って脱出に成功。その後、水爆をロケットに打ち込まれるのだが、磁石で吸い寄せて、宇宙空間で爆発させる。
ラスト一コマ「もう水爆なんか作らないでね」という気持ちの良いセリフで終幕。とても爽やかな、反核爆弾・反戦作品だと言えるだろう。
シリーズ唯一の2号連続掲載作品。「宇宙の魔王」という最強感満載の敵と対峙することになる。
遠い星まで戦いに行く展開、神出鬼没の魔王、その魔王っぽい造形。それらは、その後の「のび太の魔界大冒険」とよく似た部分がある。
なお、最終回は「小学二年生」の4月号に掲載されたのだが、同じ号には新連載となる「ロケットGメン」が掲載されている。「ロケットGメン」では、「すすめピロン」の藤子不二雄先生の作品だというような紹介が乗っている。
本稿では、本作と「ピロンちゃん」の関係と、各作品の見所を簡単に述べてきた。初期SFヒーロー漫画は、各作品の区別が難しいのだが、こうした記事でまとめると、作品の理解がとても深まる。
その意味で、自己満足な記事であった。
藤子F作品を隅々まで解説していきます!
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