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海底・宇宙・四次元…「海の王子」の10大バトル!/解説:海の王子②

藤子不二雄にとって非常に重要な作品である「海の王子」。どれほど重要であるかは、前回の記事で詳しく書いているので、できればこちらからご一読下さい。

本稿では、「週刊少年サンデー」での連載2年間での「10大バトル」について、簡単に見ていくことにしたい。10大バトルって何ぞやという方も、上の記事をご参照下さい。

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バトル1:黒いおおかみの挑戦(BLACK WOLF)
1959年1~13号(全13回)78頁

我らが海の王子登場! 敵は怪魚をモチーフにした潜水艦Z1号を使って世界中の海を恐怖に陥れている「黒いおおかみ」率いるブラックシャーク団。彼らは死海に秘密基地を要し、世界征服を狙っている。王子とチマの愛用機「はやぶさ号」でZ1号の破壊に成功するが、黒いおおかみに捕らえられた科学者・チエノ博士が考案したはやぶさ号のボディを溶かす光線を備えたZ2号と戦うことになる。苦戦を強いられるが、弱点の脇から体当たりして勝利を掴む。

第一話ということで、世界中の七つの海をまたにかける戦いといったスケール感を持たせている。後半、やや冗長なところもあって、まだ週刊連載のテンポが掴み切れていない気もする。

海の王子とチマの快活なキャラクターも魅力だが、黒いおおかみの首領はどこか人間味を感じさせる敵キャラで、安孫子氏の面目躍如といった印象を受ける。ともかく、どんどん続きを読みたくなる出来栄えであると思う。

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バトル2:海へび大帝(SEA DRAGON EMPEROR)
1959年14~23号(全10回)51頁

水深一万メートルを超える深海・ミンダナオ海溝から現れた「海へび大帝」。彼らは海の王子の故郷であるカイン王国に攻撃を仕掛け、主力戦艦である海へびをモチーフにした海龍戦艦(シー・ドラゴン)を送り込む。はやぶさ号が一騎打ちをしている中、カイン王は連れ去られてしまう。

はやぶさ号は王国のザイル博士やチエノ博士によって改造され、新たな武器を入手する。ボディから四方八方へ弾を飛ばす「針ねずみ砲」、敵を一時的に凍らせる「氷結弾」、そして敵戦艦のボディに食い込んでいく新型魚雷である。

新しい機能を加えて、巨大ロボットのR1号とシー・ドラゴンを何とか撃破し、カイン王国は無事復興を遂げる。

海へび大帝はカイン王国軍や国連軍を次々と撃破しており、明らかに「黒いおおかみ」よりも強敵に設定している。次の敵は前より強く、という少年マンガの大原則がここで既に見て取れるのが興味深いところ。

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バトル3:赤いサソリの恐怖(RED SCORPION)
1959年24~30、32~34号(全10回)64頁

北極圏探索中に突如現れた「赤いサソリ」のサソリタンク。襲われたチエノ博士を助けるべく、はやぶさ号が出動するが大苦戦を強いられる。そこで諸刃の剣の「うずまき魚雷」で何とか打ち破る。序盤からこれまでの中で最強の敵だということを存分に示す。

サソリ艦隊はその攻撃力から宇宙人だと予測される。艦隊は北極からシベリア、そして日本へと南下してくる。押し込まれたはやぶさ号だったが、チエノ博士考案のミニはやぶさ号をロケットにする「はやぶさロケット」で応戦。苦しみながらも艦隊を破り、サソリの残党はさそり座方向へと引き上げていく・・・。

サンデー・ニュースの事件記者・ハナさんが初登場。コメディリリーフとして本作以降大活躍する。彼の登場で、役者は揃い、よりドラマ色を強めた展開が可能となった。

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バトル4:鉄の獅子の襲来(IRON LION)
1959年35~40号、1960年1~4号(全11回)73頁

南太平洋に現れた「鉄の獅子」無敵要塞ライオン島を拠点に、強力な磁石を武器にする「鉄の獅子」や、巨大ロボット「ゴルゴン」、ライオン戦艦などが「はやぶさ号」を苦しめる。一度は毒の塗られたサーベル弾によって王子は大けがを負ってしまうが、重症となったというのは敵を欺く嘘であった。

鉄の獅子の部下たちが鉄製のロボットであることに目を付けたチエノ博士に食鉄虫を開発してもらい応戦。ライオン戦艦との一騎打ちとなるが、敵艦に捕らえられていたハナさんが大暴れしてくれたことで、間隙を縫って撃破に成功する。

おそらく「鉄の獅子」はロボットであろうというチエノ博士の見解で幕を閉じる。海の王子が重症?という、まあまあ分かりやすいどんでん返しが見所の一つ。敵の攻撃パターンも増えており、かなり面白くなってきた印象を持つ。

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バトル5:恐竜帝国の決戦(THE EMPIRE OF DINPSAURS)
1960年5~15号(全11回)82頁

本作の舞台はアフリカ。これまで一応はやぶさ号=潜水艦という初期設定を守ったエピソードばかりだったが、ついに内陸が主たる舞台となる。アフリカ大陸で恐竜が現われるようになり、通信が途絶えてしまう。その謎を追うため、探検家のスカンレーも同行し、はやぶさ号はアフリカへと向かう。

筋立てとしては冒険譚となっていて、浴びると石になってしまう化石光線を発する恐竜や、バラバラになってもくっ付いてしまう不死鳥などと対決しながら、奥地へと進んでいく。

敵は恐竜を模した戦車隊を率いる「恐竜帝国」軍であった。途中王子も光線を浴びて石になってしまうが、特殊な放射能を出す石の働きで奇跡の復活を遂げて、最終決戦に間に合う。

今回は「マジックスキン」というプラスチックの一種を固めてはやぶさ号を変装させたりする新技術が登場し、これが幾度も使われて大きな勝因となる。

ハナさんとスカンレーのやりとりが、笑わせ、泣かせる。魅力的なコンビネーションである。ラストで、これまでで一番大変な敵だったと回顧される。敵はどんどんと強くなっているのである。

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バトル6:海神ポセイドンの謎(MYSTERY OF POSEIDON)
1960年16~27号(全12回)91頁

地震と津波で大昔に沈んでしまったアトランティス大陸だったが、一部の人間が生き残り、海底王国アトランティスを作り上げた。アトランティス人はやがて水中でも呼吸できるように進化を遂げる。

そんな王国で王が殺されるという謀反が発生。アポロ王子は仲間と共に逃げ出すのだが、反乱の首謀者である海軍大臣のゴリアテが、アトランティスの守り神である海神ポセイドンを操って、アポロ王子の軍を全滅させようとしていた。

この壮大なSF設定は、後の「のび太の海底鬼岩城」などに繋がっていく。

海神ポセイドンは、はやぶさ号のあらゆる攻撃をすり抜ける、これまでで最強の敵。また人間に姿を変えられるゴムロボットが味方基地に潜入してきて、誰が裏切り者かわからない、といったサスペンスも取り入れられている。

チマが捕まって処刑寸前となったり、ポセイドンに追い詰められて王子が死を覚悟したりと、ピンチの連続に陥るが、チエノ博士がポセイドンの「蜃気楼」的カラクリを見破って、ギリギリ勝利を収める。見えている敵がそこにはいない、という設定は「のび太の魔界大冒険」の最終決戦などにも通じる。

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バトル7:怪虫サタン(MISTERIOUS BUG ”SATAN")
1960年28~39号(全12回)90頁

舞台はついに宇宙空間へ。美しい月面世界での戦いを描く。

月世界探検に向かい何者かに襲われた大空博士を救出するべく、はやぶさ号は月へと向かう。月面では二手に分かれて探索を始めるが、大きな怪虫が襲い掛かり、犠牲が出てしまう。虫たち(実は虫型の戦車)を指揮するのはサタンと呼ばれる宇宙人で、地球侵略を目論んでいる強敵。

ゲストキャラの医者・三重尾の犠牲によってはやぶさ号が助かったり、謎の宇宙人が実は大空博士だったり、体を透明にする鉱石があったりと、アイディアがこれでもかと詰め込まれたお話となっている。

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バトル8:砂漠の戦艦シーラカンス(THE BATTLESHIP COELACANTY)
1960年40~50号(全11回)97頁

一年中、砂嵐と磁気嵐が起こる「死の砂漠」が舞台。原爆の五万倍の威力を持つベガトン爆弾の設計図がスパイに盗まれ、その捜索で砂漠に向かう「はやぶさ号」ご一行。そこには、砂嵐を人工的に作り出していた幻の都市が存在していた。

砂漠艦隊率いるピラニア総統や、ライバルとなるマリン少尉など魅力的な敵キャラが登場。安孫子氏の画力が光る。デモン博士が作ったという敵戦艦・シーラカンス号に備え付けられた「エネルギー0装置」が実にやっかいで、こちらの攻撃を全て無効にしてしまう。

悪になりきれなかったマリン少尉の犠牲のもと、シーラカンス号を背後から攻撃することで撃破する。自棄になった砂漠軍がメガドン爆弾を発射してしまうが、はやぶさ号が宇宙まで爆弾を誘導して世界を救う。

敵の強さ、マリン少尉を始めとするキャラクターの魅力、敵味方入り乱れての裏切り合戦という展開と、見所の詰まった傑作。

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バトル9:カメレオン4D(CHAMELON THE FOURTH DIMENSION)
1960年51~52号、1961年1~4号(全6回)59頁

雲や霧を媒介に繋がってしまった「あの世」=四次元の世界が舞台。これまでにないSF的設定となっている。「あの世」研究家の日輪博士を救出するべく、博士が残した次元転移機の設計図を完成させて、四次元の世界へと突入していく「はやぶさ号」。

四次元世界の王・カメレオン4Dは、次元転移機を武器に三次元世界の侵略を企てるのだが、はやぶさ号の活躍と、日輪博士の命を懸けた0次元世界への転移によって、カメレオン4D軍を消滅させる。

全10話の中では最もページ数が少ないが、「UTOPIA」や「21エモン」にも使われた「0次元」設定など、SFファンが唸るストーリーとなっている。ただその分、読者の受けはそれほどでもなかったものと思われる。

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バトル10:不死身のハイドラ(INVULNERABLE ’HYDRA')
1961年5~14号(全10回)81頁

最終回の敵は、高度な技術に裏付けられた不死身のロボット軍を率いるマッドサイエンティストのノア博士。人類の全滅を目論み、人工知能で動くハイドラを使って、はやぶさ号を襲撃する。ボディを壊しても何度も復活してしまう構造で、太刀打ちできない。

やがてハナさんとチマの調査によって、神殿の奥深くにある頭脳が体のハイドラを遠隔操作で動かしていたことが判明。はやぶさ号はありったけの銃弾を使って神殿を攻撃するがビクともしない。

そこで、はやぶさ号で地球の中心に突っ込んで人工的に火山爆発を引き起こし、自然の力によってノア博士たちを粉砕する。

決死の作戦に臨む王子とチマの兄弟愛は、泣かせる最終回に相応しい。王子たちは生きているのか、死んでしまったのかはっきりさせないラストシーンが、余韻を残す

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以上、10大バトルをざっと見てきた。どの話をとっても、敵キャラ・舞台設定・ストーリー・技・ギミックと見所が多く、後のF作品でも登場するモチーフも多数描かれている。

なお、週刊連載はここで終了となるが、「死んだかも」と思わせた王子は、夏の別冊号『海の王子の復活』ですぐさま復活を遂げている。海の王子人気はその後の継続し、別冊や読み切りの形で、その後3年間で7本描かれる。

そして学習誌にも派生していくのだが、このあたりは別の記事で紹介したい。

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