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タイムマシンを目覚まし代わりに「ポコニャン」『タイムマシンで早おき』/タイムマシンで大騒ぎ⑬

藤子作品における「タイムマシン」と言えば「ドラえもん」の代名詞みたいになっているが、実は他のタイトルでもタイムマシンが登場し、時空を超えてキャラクターたちのドタバタが繰り広げられる。

また、現実的にタイムマシンを開発するということは、類稀なる天才の仕事かと思うが、意外な藤子キャラたちがその天才っぷりを示している。

そこで、これまで「ドラえもん」以外のお話で、タイムマシンが登場した作品をまとめてみたい。ただし、タイムマシンをテーマとしたSF短編は除く。


幅広いお馴染みの作品でも、タイムマシンが登場していることがわかってもらえるだろうか。なお、「ウメ星デンカ」では国王が、「オバQ」ではO次郎が、「パーマン」では魔土災炎博士がタイムマシンを作っている。藤子ワールドは希代の天才だらけなのだ。

そして本稿では、「ドラえもん」と「オバQ」の中間的作品とも言われている「ポコニャン」のタイムマシンものを取り上げたい。なお、本作でのタイムマシンの開発は高度な科学力を持つポコニャンが行う。


本題に入る前に、「ポコニャン」って何者?と思った読者の方は、リンク先の紹介記事のご一読をオススメします。

ポコニャンの出自は不明だが、太郎の家の居候となる不思議な動物である。人間の言葉は喋れないが、理解ができる。O次郎とよく似たキャラクターである。

かなり高度な知能を有しており、ドラえもんのひみつ道具のようなものを作ることもできるし、様々な超能力も使える。ホンワカした雰囲気だが、かなりの有能&万能キャラクターなのである。能力については上の記事でまとめているので、ご参照されたい。


「ポコニャン」『タイムマシンで早おき』
「希望の友」1976年10月号

基本的に「ポコニャン」としか喋れないポコニャンだが、太郎は長い付き合い(幼稚園の頃から)によって、ポコニャンの言葉をほぼ理解できる。

冒頭、落ち込んで帰ってきた太郎に「ポコニャン」と話しかけるが、「何をしょげているかだって?」と理解。続けて「ポコニャン」と声を掛けられるが、これも「また遅刻して叱られただろうって」と太郎が訳しており、何事もないように会話が成立している。

太郎は目覚まし時計が壊れていたからだと、責任をモノになすりつけ、窓から放り投げようとしたところをポコニャンが取り上げる。捨てるくらいならくれというのである。


目覚ましが無いとなると、明日からどうやって寝坊を防げるのだろうか? 太郎はママに起こしてくれとお願いするが、拒否られる。何度起してもまた寝てしまうので、目覚まし役はうんざりという訳だ。

早く寝れば早く起きれるはずと考え、さっそく布団に潜り込む太郎だが、さすがに昼二時過ぎでは全く寝付けない。(仮に眠れたとしても夜には起きてしまうだろうに・・)


そんな太郎の悩みを解消するべく、ポコニャンが先ほどの壊れた目覚まし時計を改造し、何とタイムマシンをこしらえてしまう。色々と驚くべき発明をしたきたポコニャンだが、これはこれまでとは次元の違う画期的な道具である。

形状は目覚まし時計の上部に小さなアンテナが立ち、脇にネジみたいなものが付いている。時計の針を直接いじって、飛びたい時間にセットして、背面に付いているスイッチを押すことで発動する仕組みである。

短めのロープが輪を作るように背面からのびていて、このロープの内側にモノや人を配置して、タイムトラベルさせるようになっている。ロープが短く、一人乗りであるようだ。


まずはモノで実験をすることに。灰皿を五分後の未来に送り込む。タイムマシンのスイッチを入れるとピュンと灰皿が一瞬で消える。これが5分後にまた現れれば実験成功となる。

灰皿が必要なパパも見守る中、五分経つと灰皿が出現する。実験は大成功となったようである。それでは続けて人間で実験してみる。一人しかジャンプできないということで、太郎が30分後の未来へと向かうことに。


ポコニャンがスイッチを押すと、太郎が消える。一方の太郎は、一瞬で30分後の世界に辿り着いたので、彼からするとポコニャンが消えたように感じている。時計を見ると3時になっており、実験が成功したことがわかる。

廊下に出てみると、外では雨が降り始めている。食堂に行くとメロンが置いてあり、おやつの支度だと思った太郎がそれを勝手に食べてしまう。すると、30分後の世界のもう一人の太郎がプンプンしながらやってきて、早く帰ってくれと急き立てる。なぜか機嫌が悪いようだ。


30分前の世界に戻る太郎。実験は成功だが、30分ではたいして面白くなかったと感想を漏らす。いっそのこと一億年ぐらい昔に行って恐竜を見たいと言い出す。藤子キャラたちは、藤子先生の分身なので、基本的に皆恐竜が大好きなのだ。

ところがポコニャンは「ペケニャン」と答える。このタイムマシンでは未来しか行けないのだと言う。ただ、考えてみるとおかしな話で、先ほど太郎は30分後の世界を行き来している。

未来から戻る、すなわち過去への移動をしているのだが、これはどういう理屈だったのだろうか?元の時代にだけは戻れるスイッチが付いているのだろうか??

ともかくも、過去がだめなら100年後、1000年後の未来へ行ってみたいと太郎は希望するが、これに対しても「ペケニャン」という答え。12時間しか動けないのだと言うのだ。確かにこのタイムマシンは普通の目覚まし時計がベースに作られているので、時計の針は12時間しか判別できないのである。


思いの外移動範囲が狭く、「なんでそんなつまんないもの作ったんだよ」と太郎はタイムマシンに興味を失ってしまう。するとポコニャンがうなだれる。ポコニャンの狙いはこれを目覚まし時計代わりに使おうということだったのだ。

すなわち、夜寝る前にタイムマシンで明日の朝に行き、自らの手で明日の自分を起こそうと言うのである。これで今晩から安心して眠ることができそうだ。太郎は、ポコニャンがいつも自分のことを考えてくれていることに改めて感動するのであった。


ところで、30分後の世界に行った時、にわか雨が降ってきていた。そのことをママに告げて洗濯物を取り込んで置くように教えてあげる。(あまり信じてもらえないが)

逆にママからは食卓に置いてあるメロンはお客さん用だから食べないようにと注意を受ける。ところがこのメロンは、30分前からやってきた太郎が食べてしまう。今の太郎がママから𠮟れてしまい、30分前の太郎の存在に気が付き、プリプリしながら元の世界へと送り戻す。

先ほど太郎が経験した、30分後に不機嫌そうな自分に追い返された理由がここで明らかとなるわけだが、タイムトラベルを使った面白さを子供たち読者に端的に伝えるエピソードであると思う。


就寝前。明日の自分の起床時間である7時半に向かう太郎。寝相悪く寝ている自分に声を掛けたり、無理やりに立たせたりするが、全く目を覚まさない。明日の世界のポコニャンに手伝いを要請するが、無駄だとわかっている努力はごめんだと断られる。

仕方なく洗面器に水を汲んできてぶっかけると、さすがに目を覚まし、逆ギレされる。このあたり、後に発表されるSF短編の「昨日のオレは今日の敵」の展開に引用されている。

何とかかんとかして、太郎を学校へと送り出し、遅刻はこれにて免れた。安心したらドッと疲れが出た太郎。過去へと戻らずに、そのまま布団に倒れ込むように眠ってしまう。

そしてまた寝てしまったと勘違いしたママに驚かれるのであった。


「タイムマシン」という本格的SFのザ・定番アイテムを、このような目覚まし代わりに使うというエピソードに軽く使ってしまう藤子先生。この手軽な使い道のタイムマシンに触れた僕たち藤子読者は、自然とSF魂が身についていくんだろうと思うのである。



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