これぞ本当のオオカミ少年「ジャングルブック」/藤子F初期作品をぜーんぶ紹介㉞
藤子先生の初期作品には、世界の名作ファンタジーを漫画化するというひとつの路線があった。主に講談社の学年別学習誌「たのしい〇年生」の別冊付録を主戦場にしており、48ページ以上の大作である場合が多い。
これまで記事化できている作品では、以下のようなものがある。
本稿ではこの路線の中でも、かなりメジャーな原作を元にした作品を見ていきたい。それが『ジャングルブック』である。
ディズニーアニメ&実写などで知られる「ジャングルブック」を、ディズニーアニメ化前に漫画化をしている作品となる。
残念ながら僕はディズニー版の映画を見ていない上に、オオカミに育てられた少年の話、という大枠だけしか内容を知らない。原作も未読なので、藤子先生のマンガでしか、「ジャングルブック」を語れない状況にあることを、まずはご承知していただきたい・・。
「ジャングルブック」は、英国の作家ラドヤード(ラディヤード)・キップリングが、1894年に発表した短編小説集で、翌年にはすぐ続編の「続ジャングルブック」が刊行されている。
二冊で15本の短編が収録されているが、その内8編がオオカミに育てられた少年モウグリ(モーグリ/マウグリ)の物語となっている。
「ジャングルブック」というタイトルからもわかる通り、基本的に熱帯ジャングルを舞台にした動物小説で、作者がインドでの生活中に着想を得たとされる。
なお、主人公の名前はディズニー映画の邦訳などではモーグリとなっているようだが、本稿では藤子作品の中の「マウグリ」で、以後統一していきたいと思う。ちなみにマウグリとは、蛙の意味である。
マウグリの物語は短編の寄せ集めとはいえ、全てを合わせるとかなり長大なストーリーとなる。基本の筋立てとしては、ジャングルで狼の庇護の下育ったマウグリと、狼たちや動物たちとの交流を横軸に、マウグリを含めた人間を忌み嫌うトラのシアカーンとの対決を縦軸とした構成となっている。
なお、藤子漫画版では以下のような注釈が加えられている。
面白いところだけ漫画化したという部分がかなりユニーク。逆に原作の面白くないところがどうだったんだろう?
確認の意味でも、この機会にディズニーアニメは見ておくかなと思った次第。
まずは登場人物の紹介から。本作では「出てくる人とけもの」と書かれていて、この部分もクスッと笑ってしまう。そのまま引用しておこう。
本作も、他の初期短編と同じように、章立てとなっていて、各章にはタイトルが付けられている。まずはそれを列記してみる。
扉表紙を入れて全80ページの超大作となっている。本作を発表している1958年は、本作のような大作をほぼ毎月書き下ろしており、当時アシスタントなどもいなかったことを考えると、恐ろしい執筆スピードと言えよう。
それでは、各章ごとに簡単に内容と雑感を記しておきたい。
①かわいい まいご 21ページ
かなりの分量を費やしている設定篇。途中で絵物語を加えて、内容を補足しており、物語の前提を読者に知らしめる部分にかなり苦心している印象を受ける。
この章では、
という登場人物周りの紹介が手際よく行われる。
その後、絵と文章で、動物たちが人間の赤ちゃんを受け入れるか否かについて議論が交わされる。
警戒する狼たちとシアカーンは人間なんか食べてしまえという主張。それに対して、心優しい年寄りクマのバールーと、黒ヒョウのバギーラがその子には罪が無いと言って受け入れに賛成する。
シアカーンとアケーラの対立を火種を残したまま、ひとまず人間の子は動物たちに受けれ入れて貰えることになるのである。
さらにこの章では、マウグリと名付けられた赤ちゃんが、成長し、動物の言葉を覚えたり、木登りや水泳を習得したり、という流れが一気に紹介される。
マウグリは自分のことを狼の子供だと思っていたのだが、人間を怖がるオオカミもいて、マウグリは疎外感を覚える。独りぼっちで落ち込んでいると、シアカーンがチャンスとばかりに近づいてくる。
ここでシアカーンとの初対決。砂の目潰し攻撃から逃げ出すが、シアカーンに追われて捕まってしまう。するとそこへバギーラが助けに来てくれる。シアカーンとバギーラが一触即発となるが、マウグリがシアカーンの尻尾に岩を落として、追っ払うことに成功する。
本章では、敵味方の対立構造を明確にするために、たっぷりとページ数を割いて、その結果、読者の心を掴んでスムーズにお話に入っていくことに成功しているようだ。
②シアカーンのわるだくみ 12ページ
第一章から数年経ち、マウグリは逞しい少年に成長する。シアカーンは若い狼たちをけしかけて、マウグリを庇護するアケーラと敵対させる。アケーラを人間の狩りの近くにおびき寄せる計略もきまり、反アケーラの狼たちが増えていく。
対抗しようとするマウグリに対して、バールーとバギーラが、人間の村に行って「赤い花」を取ってこいとアドバイスを贈る。赤い花とは、夜になると咲くきれいな花で、獣はそれを怖がるのだという。
赤い花とは何なのか、よくわからぬまま人間社会へと向かうマウグリであった。
③赤い花 16ページ
この章はひと言でいえばマウグリ・ミート・人間社会である。村へと忍び込み、「赤い花」を見つけるマウグリ。それは、暖炉の火であった。しばらく人間の様子を見ていると、「赤い花」は木の枝を食べると大きくなるとわかる。
そこで火種を拝借して、ジャングルへと急ぎ戻るマウグリ。アケーラの住むほら穴の前では、シアカーンにすっかり乗せられた若い狼たちがアケーラ出てこいと叫びだす。
アケーラは、バールーとバギーラを加勢に、狼たちの前に現われ、来るなら来いと真っ向勝負の構え。いざとなるとビビる狼たちであったが、だったら俺がということでシアカーンが前に出てくる。
ついにアケーラとシアカーンの一騎打ちとなる・・・とそこへ、「赤い花」を手にマウグリが戻ってくる。火種をシアカーンの近くに投げつけると、一面に火の手が広がっていく。
本能的に火を怖がる獣たちは、すっかり身を潜めてしまう。そしてマウグリは火を松明に灯して、シアカーンにぶつけると、ギャッと悲鳴を上げてジャングルの中へと逃げていく。
シアカーンは追い払ったものの、仲間だと思っていた若い狼たちに寝返られたショックを受けるマウグリ。お父さん(アケーラ)に手出しをしたら許さないとひと言脅した後、マウグリは人間の世界に変えることを決意する。
アケーラとその家族、バールーとバギーラらに見送られて、マウグリは人間の村へと一人帰っていく。獣と人間が共存できないとわかる切ないシーンである。
・・・もちろん、これはラストを盛り上げる伏線にもなっているのだが。
④村のマウグリ 11ページ
人間社会に戻って、徐々に慣れていくマウグリ。しかし、どこかここは自分の居場所じゃないような気がして・・・というシークエンス。
かつて子供をシアカーンに連れ去られたというおばさんの家に住まわせてもらうことになるマウグリ。猛勉強の末、人間の言葉を習得し、護身用に立派なナイフを譲り受ける。そして水牛の番人となって働きだす。
そして時間ができると、ジャングルの仲間は今頃どうしてるのかと考えるマウグリなのであった。
この章は比較的、穏やかな、嵐の前の静けさとなっている。その分、ラストの章では一気にクライマックスへと突き進む。
⑤さいごの たたかい 19ページ
この章はタイトル通り、宿敵シアカーンとの最終決着をつける回となっている。
水牛の番をしていると、お父さん(アケーラ)たちが姿を見せる。近頃再びシアカーンが暴れ出して、森の動物たちはビクビクしているという。しかも、マウグリのことも食べてやると息巻いているようだ。
これ以上シアカーンをのさばらして置くわけにはいかない。力を合わせてシアカーンを倒し、ジャングルを平和な世界にしなくてはならないと決意するマウグリであった。
この後水牛を使った大捕り物バトルがあったり、なんやかんやで、マウグリはシアカーンを撃退し、仲間の信用も勝ち取って、再びジャングルに戻る道を選択する。
迫力あるバトルや、ラストの爽やかな大団円などは、是非とも漫画版を入手して読んでいただきたい。
僕の方は、ディズニー版のアニメか、ジョン・ファブローの実写版を見てみたいと思う。
貴重な初期作品の紹介しています。
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