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名作童話をマンガにする理由『おやゆびひめ』/藤子F初期作品をぜーんぶ紹介!!⑧

『おやゆびひめ』「幼年クラブ」
1955年5月号別冊付録

藤子F先生もどこかで発言されていたが、戦後間もない頃、マンガはまだまだ完全に市民権を得ていなくて、どちらかといえば、悪書のような言われ方をされていた時代があった。

実際、マンガ専門誌はあまりなく、子供向け雑誌などは、小説や絵物語などと混ざって、その片隅にマンガが掲載されていた。

そうした中、児童文学の漫画化というオーダーがたびたびあったという。これはマンガを読みたい子供たちのニーズと、名作漫画なら読ませてもいいかという親の思惑が合致した企画であったようだ。

藤子F先生の柔らかいタッチは、児童文学との相性も良さそうに思えるし、長大な物語をまとめ上げる構成力があった。そういうことで、特に初期のキャリアを眺めた時に、海外文学などを原作としたマンガを数多く書かれているのである。

その一番手となったのが、『バラとゆびわ』である。これは既に記事にしてあるので是非読んでみて欲しい。

これ以降、今回取り上げる「おやゆびひめ」や、「名犬ラッシー」、「ユリシーズ」「ピーターパン」など執筆している。ちなみに、原稿依頼はされたものの、描き上げることなく原稿を落とした幻の「ああ無情」というものもある。

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本稿では『おやゆびひめ』について、簡単に内容を見ていくが、僕が読む限り原作に忠実に描かれている。

先に紹介した『バラとゆびわ』は、原作自体が長かったこともあって、かなり脚色されていた。締め切りの問題なのか、構成もやや粗削りの印象を受ける。

『おやゆびひめ』は、その点、構成に無理が無く、シンプルにまとめ上げている。扉を入れて50ページの大作で、「幼年クラブ」の付録の一つとして発行されている。

物語は8章立てとなっている。せっかくなのでタイトルとコマ数など記載しておく。

1.むかしむかし 4ページ・16コマ
2.ひとさらい 12ページ・56コマ
3.冬になって 5ページ・23コマ
4.のねずみの家 7ページ・32コマ
5.さようなら 5ページ・24コマ
6.もぐらのおくりもの 5ページ22コマ
7.みなみのくにへ 5ページ・20コマ
8.花のおうさま 4ページ・14コマ
トータル47ページ・207コマ + 扉絵+人物紹介+表1

原作を読まれた方も多いと思うが、デンマークの童話作家アンデルセンの代表的な作品である。チューリップから生まれた親指の大きさの女の子が、ヒキガエルにさらわれることから、長い冒険を強いられていくという、冷静に読むと過酷な物語

ストーリーの説明はなるべく省いて、各章ごとに見所を記載していこうと思う。

1.むかしむかし

お花畑で妖精に水をあげたお礼に「何か欲しいものはないか」と言われて、「子ども」と答えるおばあさん。貰った種を蒔くとチューリップが咲いて、中から小さな女の子が生まれる。おやゆびのように可愛いことから、おやゆび姫と名付けられる。

唐突な始まり方が印象的。子供が欲しかったおばあさん、という部分は、「一寸法師」でも同じ設定であり、舞台の東西に関係なく、子供がいない老夫婦などの話は数多く存在している。

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2.ひとさらい

おばあさんに可愛がられていたおやゆび姫。ところが草舟に揺られていると、ヒキガエルに無理やり連れていかれて、息子の嫁になれという。蓮の葉の上で泣いているところを魚たちに助けられ、チョウチョウに葉っぱを引っ張ってもらって脱出するのだが、今度はカナブンに捕まってしまう。何とかそこからも逃げ出し、優しい虫たちによって、草花の家を作ってもらいそこで暮らすことにする。

この章が一番長い部分で、息子の嫁にしようとするヒキガエルや、目がいっちゃっている乱暴者のカナブンなど、嫌な感じのキャラクターが登場する。その一方で、優しい魚や虫たちの援助が心穏やかにさせてくれる。

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3.冬になって

冬が来て、虫たちがいなくなる。食料もなくなり、雪も降ってきて寒くて困っていると、野ネズミの家を見つけて、そこで暖を取らせてもらうことに。

ここは逆に短い。冬の到来が何とも心細いように描かれている。


4.のねずみの家

野ネズミの家で、お隣のお金持ちのモグラを招くためにごちそうと作っていると、ツバメが倒れているのを発見する。モグラに気に入られるおやゆび姫だが、好きなものはお日様と答えて、モグラの機嫌を損ねてしまう。一方、ツバメは温かくすると無事に目を覚ます。

後で重要なキャラクターとなる富豪のモグラとツバメが登場する。モグラとのやりとりが、ユーモアに包まれつつ何やら不穏。

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5.さようなら

春になる。ツバメはすっかり良くなって、南の国へと飛んで行ってしまう。一緒に行こうと誘われるが、野ネズミのおばさんが寂しがるということで残るおやゆび姫。そこに、モグラから自分の子供になってくれという申し出がある。姫はお日様に会えなくなるのは嫌だと断る。

自由に飛んでいきたい気持ちと、恩情を感じているネズミおばさんへの思いとで、逡巡するおやゆび姫の気持ちがよく表現できている。

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6.もぐらのおくりもの

おやゆび姫に子供になることを断られたモグラの旦那は、プレゼント攻勢に出る。しかし、ビール瓶やたばこの吸い殻では心は惹かれず、ミミズを贈られては、一目見て気絶してしまう。モグラは自分が作った地下鉄に乗せてあげて姫を喜ばせるが、勢い余って地上に出てしまって、光を浴びたモグラがのびてしまう。

とっておきのプレゼントがミミズだったり、機械仕掛けの地下鉄を作っていたりと、モグラの旦那のキャラクターの魅力が爆発する章となっている。

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7.みなみのくにへ

申し出を受けてくれないおやゆび姫に対して、モグラは入り口を埋めてしまえば仕方なく自分の子になるだろうと、強硬手段に出る。モグラを信頼するネズミのおばさんもそれに賛同する。ついに諦め、最後に陽の光を見ようと地上に出ると、冬に助けたツバメがいて、今度は一緒に南の国へ向かうことにする。

モグラの子になることが幸せなことだと信じている野ネズミが印象的。価値観が違い過ぎて話が合わないのである。おやゆび姫がモグラの子となることを覚悟した時のセリフが切なすぎて胸を締め付ける。以下に抜粋しておく。

「明るい空よ、さようなら。そしてきれいな森よ、さようなら。そして花も、温かい空気も・・・。」

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8.花のおうさま

ツバメの背に乗って南の国へ行き、花壇を住まいにしようとすると、おやゆび姫と同じ大きさの花の王様と出会う。どうやらそこは、小人たちの国。おやゆび姫が来るのを知っていたという王様と、急転直下、結婚することなる。空を飛べる羽を貰い、自分を可愛がってくれたおばあさんに会ってきたいということで、花の王様と一緒に飛んでいく。

ヒキガエル→カナブン→冬→モグラと困難に直面しながら、助けてあげたツバメによって南の国へと行くことができたおやゆび姫。そこで花の国のお妃となるというラストスパートが印象的である。

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運命に翻弄されるおやゆび姫の物語は、藤子Fタッチとの相性が本当に抜群で、よくぞこの仕事をオファーしてくれたものだ。本作の執筆時期は、原稿を大量に落とした事件の前後どちらか、掲載時期からは判別できない。どなたか詳しい方がいれば、教えていただきたいです!

ちなみに、「ドラえもん」で『おやゆび姫をおいかけろ(初出:お話バッジ)』というエピソードがあるが、ここではしずちゃんが、お話バッジの効果でおやゆび姫となって、ミニ冒険するお話である。ラスト、ツバメに乗って南の国へと向かってしまうが・・・。ラストが気が利いてて楽しい作品です。大全集14巻か、カラー作品集1巻で読めます。


初期作品の考察(貴重!)を少しずつやってます。是非読んでみて下さい。


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