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冒険+犬+西部劇『名犬クルーソー』/藤子F初期作品をぜーんぶ紹介㉖

藤子F先生が初期(1954~58)に発表した作品は、いくつかのジャンルに大別することができる。何度か書いているが、改めて下記にまとめてみたい。参考として1957年に発表した作品を分類しておく。

①幼年向け作品・・『ゆうれいやしき』『消えゆく地球』『しゃっくり丸』
②少年向けSF作品・・『白魔洞の怪人』『星の子カロル』
③少女向け作品・・『えり子のしあわせ』『雲の中のミカド』
④少年向け時代劇・・『海の快剣士』『電光豆剣士』『火の玉剣士』
⑤原作もの・・『ユリシーズ 』『しょうねんリンカーン』

おそらくこの頃は編集側からの原稿依頼には、執筆ジャンルの指定があったと思われる。しかし偶然か、うまく差配したのか、対象読者やジャンルが見事にばらけている

この傾向は翌1958年くらいまでは続いていく。1959年になると「週刊少年サンデー」が創刊し、『海の王子』の週刊連載が始まることで、5大ジャンル書き分けの傾向は崩れていく。


本稿では「⑤原作もの」の一作をご紹介したい。

『名犬クルーソー』「たのしい三年生」1957年12月号特別付録

本作はロバート・マイケル・バランタイン(1825-94)の少年向け冒険読み物を漫画化したもの。バランタインの名前は今ではさっぱり聞かなくなっているが、「マーチンの大冒険」「さんご島の三少年」などで知られたスコットランドの作家である。

「名犬クルーソー」は、「大平原の名犬」というタイトル名で1957年、本作が発表された直前に日本語訳版が発売となっている。この時の訳者は久米穣(みのる)氏。『タップタップの冒険』(1957)において絵と文の役割分担で、藤子先生とタッグを組んでいる人物だ。

そういうことを考えると、推察だが、本作は久米穣さん繋がりで「大平原の名犬」を手にした藤子F先生が、発刊からすぐさま漫画化したのではないだろうか。


掲載誌の「たのしい三年生」では、特別付録の形で名作ものの漫画化という一連の作品を発表している。本作の二カ月前には『しょうねんリンカーン』、半年前には『ユリシーズ』を発表済みだ。


本作のジャンルは、少年の冒険物語であり、西部劇であり、「犬」ものである。藤子先生の大好物が詰まった作品と言える。

章立てとなっているので、その一覧から。

①オープニング 4ページ
②くんれん 6ページ
③だいじけん 9ページ
④えらいぞクルーソー 11ページ
⑤どじんの村へ 22ページ
⑥ただひとり 8ページ
⑦ジャックのまほう 19ページ

扉を含めて80ページの大著である。ストーリーと見所を各章ごとにまとめてみたい。


①オープニング 4ページ

設定説明と物語の導入部分。冒頭で、

「今から百年余り昔、アメリカでは、まだ、野牛やインディアンが暴れ回っていた頃のお話です」

と、西部開拓時代のお話であることを明示して、物語の幕が開く。主人公はジャックという名の少年。砦の隊長の家にお使いに行き、隊長の娘のメリーから、生まれたばかりの子犬クルーソーを譲り受ける。


②くんれん 6ページ

帽子を投げてそれを取ってこさせる訓練をするが、なかなか言う事を聞かないクルーソー。けれど、「まだ子供だから」と根気よく接するジャック。

訓練中に出会ったおじさんに、インディアンの恐ろしさをさりげなく伝えらえるが、これは後にインディアンと交戦することに繋がる伏線である。

ジャックは帽子を忘れて帰ってくるが、クルーソーがその帽子を咥えて現れる。かなり賢い犬だということを明示する好シーンである。

そして、二年の月日が経ち、ジャックとクルーソーは強く逞しく育ち、二人の絆も深まったとナレーションが入る。ここまでが物語のプロローグである。


③だいじけん 9ページ

起承転結の「承」。いきなり本題となる事件が発生する。メリーが東部の学校を目指す道中でインディアンの大群に襲われて誘拐されてしまったという。

軍隊を送り込んでインディアンとの全面対決に進むかと思いきや、メリーをさらった部族も不明ということで、二、三人でインディアンと会って話し合いをしようという流れになる。

原作がそうだったからだが、本作は単純に悪いインディアンを倒しに行こうというストーリーではなく、話し合いをするための冒険に出るという展開を選択している。この穏便さが、藤子作品のその後の特色とも合致しているのが興味深い。


西部開拓時代は、白人にとっては開拓していく前向きな時代だが、土着のインディアンにとっては、自分たちの土地が収奪されていく後向きな時代に映る。

本作発表時は、インディアンを倒す西部劇映画が一つの人気ジャンルだった。しかし、本作はインディアンを完全悪としない時代を先取りしたバランス感覚が見られる。

かくして、隊長のブラント、百人力のヘンリーと、少年ジャック、そしてクルーソーの三人と一匹が、メリー救出の旅に出発となるのである。


④えらいぞクルーソー 11ページ

村を出て6日目。野牛の大群と出くわし、食料調達ということで狩りをすることに。ところが賢い野牛に逆襲されてしまうジャック。そこでクルーソーが野牛に飛び掛かって、ジャックを助ける。クルーソーの見せ場である。


⑤どじんの村へ 22ページ

起承転結の「転」、いよいよ本題に突入である。

インディアンの大群と邂逅してしまうジャックたち。なるべく穏便な話し合いが設けられるが、残念ながらメリーはこの衆には捕まっていない模様。けれどブラントの首飾りに目がくらんだインディアンたちと、一触即発の状態になる。

すると近くの川でインディアンの子供が流されてしまう事故が発生。クルーソーが川に飛び込み少年を咥える。しかし急流の先に滝があり、このままでは岸に引っ張り上げる前に落ちてしまう。

そこでジャックが得意の投げ縄を使ってクルーソーと子供をキャッチして、間一髪救助に成功する。

インディアンたちに馬を隠され、待機することになるジャックたち。欲張りの酋長は、ブラントの首飾りや頭の皮を狙っている。そこで、夜の闇に紛れて馬を奪い返し、逃げ出す作戦を考える。

クルーソーに馬の匂いを探らせ、見つけ出すと、見張りから馬を奪って逃げだす3人。ところが後方からインディアンの大群が追跡してくる。3人ははぐれた時のために、向かう先の山の白い岩を集合場所と決める。


ジャックの馬はインディアンの弓矢に射抜かれて倒される。クルーソーと共に走って逃げだし、茂みへと飛びこむ。しかし気がつくとクルーソーの姿はない

周囲はインディアンに囲まれてしまったが、川で救った少年の父親が助けてくれ、猟銃も渡してくれる。単純にインディアン=悪としない、このバランス感覚が藤子F作品っぽい。(原作ものだが)


⑥ただひとり 8ページ

タイトル通り、クルーソーともはぐれたジャックの孤独な旅路が描かれる。一人芝居的なシーンなので、モノローグが多用される。5日間歩き続けるが、ついに倒れてしまうジャック。

ジャックは幻想のような夢を見る。ふるさとの家で大好きなミルクを与えられるが、飲もうと思うと羽が生えてミルクが飛んで行ってしまう。このシーンはラストの伏線となっている。

気がつくとジャックはクルーソーに引きずられている。水のある池まで連れていってくれたのである。そして食料となる鳥も捕まえてくれる。

不自然なほどに奇跡的な働きを見せてくれるクルーソーだが、ここに至るまで少しずつ能力を発揮させていたので、読者に納得のいく形でその活躍を伝えてくれる。


⑦ジャックのまほう 19ページ

いよいよクライマックス。二人でメリーを探そうと決意して、旅を続ける。困難に立ち向かう、快活で前向きな主人公像は、まさしく藤子F作品の真骨頂である。(原作ものだが・・二度目)

進むとブラントの馬、ヘンリーの帽子が見つかる。森の奥にはインディアンの村があり、プラントとヘンリーは捕らえられている。踊るインディアンたちに囲まれており、これから生贄として殺される直前という雰囲気。

そこでジャックは救出作戦を思いつく。火薬の袋を置いて銃で狙いをつける。銃の引き金に綱を結び、ジャックの合図でクルーソーが綱を引っ張れば、大爆発が起こるという仕掛けを作る。

ジャックはインディアンの村へと乗り込んでいく。自分は白人の魔法使いだと名乗り、インディアンたちと「魔法くらべ」が始まる。インディアン側もジャックも「手品」に失敗し、ジャックは捕まりそうになる。

と、ここでジャックが口笛を吹いて、クルーソーに合図を送る。するとクルーソーが縄を引っ張り、仕掛け通りに大爆発が起こる。何事かと逃げ出すインディアンたち。ジャックはプラントとヘンリーを救出する。


インディアンたちはジャックの「魔法」に対して降参する。捕えていたメリーも返してくれる。さらに馬二頭を渋々譲り受け、村へと帰還することに。帰還中、我慢しきれず一人飛び出してきた砦の隊長と合流し、メリーと感動的な再会を果たす。

ジャックがついに帰宅する。こちらも母親との感動的な再会である。そして搾りたてのミルクを出してもらう。半分をクルーソーに飲ませる。二人は旅を通じて、本当の盟友となったのだ。そして後味の良い爽快なラスト。

「荒れ野を彷徨っていた時、夢に見たほどやりたかったことが二つあるんです。暖かいミルクを飲むこと、柔らかいベッドにひっくり返ること」

ミルクを片手にベッドに転がるジャック。微笑む母親と、優しい顔つきのクルーソー。途中の伏線も回収し、大団円を迎えるのであった。


『名犬クルーソー』の少年の冒険+動物というジャンルは、藤子先生の良さがバッチリ出るタイプの作品だった。本作の題材を選んだのは編集者なのか、久米先生なのか、藤子先生自らなのかはわからないが、良いアイディアだったということは間違いない。


なお、名犬~と言えば『名犬ラッシー』が思い浮かぶわけだが、本作の二カ月後には、なんと『名犬ラッシー』を漫画化させている。本作がズバリ傑作となったので、続けてラッシーの登場となった模様である。


初期作品の解説しております。


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