エリちゃん、ついにマール星がトラウマに!『マールい物こわい!』/ちょっぴりホラーな物語⑨
「ちょっぴりホラーな物語」と題して、「怖い・恐怖」をテーマとした藤子作品を数多く紹介してきた。まだまだあるのだけど、本稿で9本目にもなるので、ひとまずここで一区切りとしたい。
最後は読者としては全く怖くはないが、登場人物が恐怖に感じるというお話を取り上げる。
ここまでの8本の記事のリンクを貼ってみたが、並べてみると取り留めのない感じになってしまったように思う。それだけ藤子F先生の作風の幅が広いからとも言えるし、自分のセレクションが少しグダグダだったかな、と少し反省もしています・・。
では、最後の一本を・・。
「チンプイ」は藤子先生が晩年に注力された作品の一つで、「ドラえもん」に代表される【日常+SF(少し不思議)】タイプの傑作エピソードが58本描かれた。
ユニークな点としては、まず藤子作品では珍しく小学生の女の子(春日エリ)が主人公であること。それと、主人公がマール星という星の王子に見初められて、突然結婚を申し込まれるという「シンデレラストーリー」となっている点にある。
ただし、藤子流のシンデレラは、すんなりハッピーエンドへと進んでいくわけもなく、一筋縄な作品ではない。主人公のエリちゃんはまだ小学生なので、突然嫁に来いと言われて、「はい、喜んで!」とはならないのである。
よって、マール星の人々はエリの心を掴むために、あれこれと作戦を練っていくことになる。その嫁取り作戦の指揮官となっているのが、ワンダユウという王子の側近で、ワンダユウからお目付け役として送り込まれたのがチンプイなのである。
毎回エリの気を引くようなことをしては失敗し・・・とまるで作戦はうまく行かないが、ついに本作ではワンダユウが「強引」な手段に出ることになる。
冒頭、いかにも夢だとわかるシーンから始まる。エリがあまりに勉強ができないので(1+1=がわからない)、警察に引き渡され、裁判にかけられることになる。判決は「粗大ゴミの刑」が予測され、ガラクタと一緒に埋立地に捨てられてしまうという。
エリは当然「いやだァ!」と叫び、パトカーから逃げ出そうとしたところで夢から覚める。「ユメで良かった」とチンプイと笑っていると、隣で「ユメで良かったね、母上」と男の子が話しかけてくる。
この男の子は、本作の二話前の『あの子はだあれ?』で登場していた将来のエリと殿下との間に生まれた子供である。
さらにチンプイも「朝ご飯にしよう、殿下もお待ちかねだから」などと言い出したので、そこで自分がいつの間にかルルロフ殿下と結婚生活を送っていることに気がつく・・?
窓の外を眺めるとそこは近代的な国家であるマール星の風景が見える。エリはたまらず、「地球に帰してーー!ママー!!」と叫ぶと、またしても夢から覚める。エリは夢の中でさらに夢を見ていたようなのである。
チンプイに「怖い夢見てたの?」と話しかけられる。エリは近頃、どんな夢を見ても後で必ずマール星が出てくるのだという。チンプイは「マール星が身近なものに感じてきた証拠」と言うが、エリはノイローゼを疑う。
チンプイはワンダユウの気配に気がつき、屋根へと飛んでいく。屋根の上には奇怪な形のアンテナが取りつけられており、ワンダユウはこの「ユメ操作アンテナ」の効き目はどうだとチンプイに尋ねる。
エリが通常の夢とマール星の夢の二本立てを見るようになったのは、ワンダユウの仕掛けによるものであったのだ。
しかし、ワンダユウの夢作戦は逆効果で、「かえって拒絶反応が酷くなったみたい」とチンプイは現状報告する。
目論見が外れたワンダユウは、次なる作戦として「売り込みアンテナ」を使おうと考える。これは起きている人に働きかけ、あらゆる機会に繰り返しマール星のCMを送って深い印象を与えるものだという。
強制口コミということでは、「ドラえもん」の「CMキャンデー発射機」などが思い浮かぶ。
強引なやり方はまずいのではとチンプイが指摘するが、ワンダユウは「このままではキリがない。マール星を押し付けるのだ!」と、「北風と太陽」でいえば、北風のような作戦に踏み切るのであった。
そういうことで、この後エリちゃんは怒涛のようなマール星PRを浴びることになる。
テレビをつけると「世界の旅」という紀行番組をやっていて、ぼんやり見ていると「マール星こそ宇宙の楽園!!」などという宣伝が始まる。他のチャンネルにザッピングしていくと、「世界マールごとハウマッチ」というクイズ番組や、「ぶたのマール焼き」を作る料理番組が流れ出す。
テレビを消して廊下に出ると、今度はパパは「出た出た、月がマールいマールい」と歌っている。エリは気分を害して「マールマール」なんて言わないで!と猛抗議。
エリが朝からずっとピリついている様子が気になってきたママとパパは、エリが丸いものに拘っているようだと察知。「0点恐怖症」に違いないと確信し、勉強勉強と言い過ぎたと、ママは筋違いの反省するのであった。
ワンダユウのアンテナ作戦によって、マールいものに圧迫されているエリ。ママたちに遊んでおいでと促されたので、大好きな内木君のところへと遊びに行くことにする。
チンプイとしては、アンテナの電波範囲は300メートルなので、もっと遠くに行けばいいのにと思う。エリと内木の家は思ったよりご近所さんだったようである。
エリが歩いていると、「マールかいてチョン、マールかいてチョン」と、どこかで聞いたような曲を子供が口ずさみながら、道に落書きをしている。エリは「そんな悪い歌、歌っちゃいけません!!」と子供に注意する。子供の手元には、目が二つだけ残されているが、これがドラえもんになるのだろうか。
内木君に家に辿り着くのだが、ここでもマール地獄からは逃れられない。ゲームをしようと提案すると、丸い駒を使うオセロを出してくる内木。エリは四角いからトランプにしないかとゲームを代えてもらう。
内木のママがおやつにお煎餅を出してくれるのだが、丸型だったので「お煎餅怖い!!」と投げ出してしまう。
さらにはマール山君(丸山君)が遊びに来て、新しく買い始めたというペット犬のマールチーズを見せてくる。エリはついに堰を切ったように「もういやだァ!!」と泣き叫ぶ。丸への恐怖で気がおかしくなってしまったようである。
チンプイが助け舟を出して、内木の家からエリを逃がす。エリはショックで寝込んでしまい、チンプイは様子を見に来たワンダユウに「いくら何でも可哀そうだ」と、マール星PR作戦にストップをかける。
強引が信条のワンダユウだが、さすがにやりすぎだと気がつき、エリに平謝り。エリはこれまでの経緯を許すのだが、この機会に言っておきたいことがあると切り出す。
それは、ルルロフ殿下がどんなに良い人でも、マール星がどんな良い星でも、絶対にお嫁に行けない訳があるというのである。
困り顔のワンダユウが「それはなにゆえか」と尋ねると、エリは「私が一人娘だから」と答える。「年老いた両親を残して遠い星へ行くなんて私にはできないわ!!」と、少々芝居がかって、熱弁するのであった。
ワンダユウはエリのどこまで本気かわからない訴えに対して、「オ~、何というお優しさ」と感激してしまう。そして「どのくらいの距離へお嫁にいらっしゃるのですか」と質問してくる。
エリはそこで「スープの冷めない距離」が理想と、いわゆる近距離別居の理想形を語るのだが、これを聞いたワンダユウは「わかりました!!」と言って、飛び去って行ってしまう。
そしてワンダユウが持ち込んできたのは、「ワープ蛇口」という蛇口。これを使えば、マール星から地球まで一瞬で舌の焼けるような熱いスープを持ってこれるというのである。
「ちっともわかっていない」と、エリは両手で顔を覆い、チンプイもトホホのご様子。
「スープの冷めない距離」とは、高齢の両親に何かあった時にすぐに駆けつけることのできる距離を例えているわけだが、この文言通りの意味に受け止めて、スープが冷めなければ良いと考えるワンダユウなのであった。
マール星のPRがいき過ぎて丸いもの恐怖症になるエリ・・・。まあ何事も、嫌だと思っていることをずっと押し付けられていると、嫌いを通り越して恐怖症(トラウマ)になってしまうものなんでしょうね。
それにしても、ワンダユウさんの仕事熱心というか、やり過ぎ具合にも感心してしまう。今度、ワンダユウさんのやり過ぎ具合について、今度まとめの記事でも作成しようと思う。
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