黒べえに呪い殺される!!『恐怖ののろい人形』/ちょっぴりホラーな物語③
「ジャングル黒べえ」という作品がある。一時期とある事情からコミックが流通しなくなって読めなくなっていたのだが、藤子・F・不二雄大全集で復活を遂げた作品である。
だいぶ前になるが、本作ついての記事を書いているので、宜しければこちらからご覧ください。
複雑な経緯で作られた作品で、キャラクターの立上げに藤子先生が関わっていないという異色の経歴を持つ。黒べえはアフリカのとある部族の王子様という設定で、超能力を使いこなすという人間離れをしたキャラクターである。
一般的な人間社会とは隔離した生活を送っていたこともあり、いわゆる常識を知らないし、超能力があるので、何かと騒動を起こしてしまう。「オバQ」のQ太郎とよく似たタイプと言えるだろう。
そういうこともあって、周囲から見た黒べえは、何か得体の知れない人物という認識を持たれたりする。黒べえと一緒に暮らすことになるしし男はともかく、しし男の友だちからすると、ある種の厄介者というようにも見えるのだ。
本稿で見ていく作品は、そうした得体の知れなさが元で、皆が黒べえのとある不気味な行動に誤解をしてしまうお話となっている。ちょっぴりホラー、だがその実態は・・・という、そのギャップを楽しむ作品である。
何か用事があるのか、一生懸命に走ってくる黒べえに、しし男の友だちのタイガーとおから(注1)が縄を使ったいたずらを仕掛けて足止めを食らわす。一触即発の雰囲気となるが、そこで黒べえがウーラと声高く叫び、ヤリを二人の頭頂部目がけて幾度か突き刺す動作をする。
てっきり刺されるのかと思いきや、二人の髪の毛を数本切っただけで、黒べえがそれを持って立ち去ってしまう。タイガーとおからは、「自分たちに歯向かう勇気が無かったのだ」とバカにする。
ところが、そこへ通りがかったタカネ(注2)が、髪の毛を持っていったという話を耳にして、「まあ恐ろしい!!なんて恐ろしい!!」と恐怖に慄く。
タカネは言う。黒べえと言えば魔法使い。きっと呪いの魔法をかけるのだと。呪いなどという不気味な言葉を聞いて慌てるタイガーたちに、タカネは追い打ちをかける。
子供向けマンガのヒロインとは思えない物騒なセリフである。
完全にビビってしまったタイガーとおからから相談を受けたしし男。黒べえに直接髪の毛を何に使うのか質問すると、これは秘密の魔法でしし男にも教えられないという。
さらには赤べえとパオパオ(注3)に、誰も人が近づかないようにと命じる。この警備の厳重さは、どうもただ事では無さそうだ。
しし男は、黒べえたちが根城とする木の上の小屋の中を、少し離れた場所から望遠鏡で覗いてみる。すると黒べえが藁人形をせっせと作っているではないか。やはり呪い殺そうということなのだろうか・・・。
しし男はタイガーとおからに「いつも黒べえに意地悪してたからだ」と、藁人形の件を報告する。タカネは「やっぱり!間違いないわ」と自分の考えが正しかったと確信する。
「どうなるんだろう」と恐怖に震える二人だが、そこで急にお腹が痛くなる。さっそく藁人形の腹に針でも刺したのであろうか。しし男は「黒べえに止めさせる」といって、家へと駆け戻る。
その頃、黒べえの小屋に長髪・サングラスの怪しげな男が訪ねてくる。「こないだお願いした魔法どうなったかね」と妙なことを言い、黒べえは「これから始めるところだ」と答える。
男は小屋へと入り、「誰にも言わなかっただろうね」と念押しし、黒べえは「黒べえ秘密守る」と力強く返事をする。そこで男はサングラスと、長髪仕様のカツラを外す。男はつるっぱげであったのだ。
ここで黒べえの恐怖行動の真相が明らかとなる。男はハゲていることを誰にも知られたくないということで、髪の毛の生える魔法を黒べえにかけてもらう約束をしていたのである。
この男、どこで黒べえと知り合って、いつ魔法の存在を知ったのだろうか。その辺の経緯は不明。
黒べえの秘術とは、髪の毛を数本入れた藁人形を作り、これを燃やすと頭から毛が生えるというものであった。火を点けるとさあどうなるのか・・・。
一方の腹痛に苦しむタイガーとおから。結局黒べえの呪いではなかったわけだが、なぜお腹が痛くなったのか。
おからの母親がやってきて、戸棚からソーセージを持ち出したことを注意してくる。古くなったから捨てようと思っていたと言うのである。つまり、お腹イタの原因は悪くなった食べ物を口にしたせいなのであった。
そしてそこへ、頭はハゲつつ、顔全体が真っ黒な毛に覆われている男性が、たいそうご立腹な様子で黒べえを追いかけてくる。黒べえの不完全な魔法によって、頭以外に毛が生えてしまったのである。
結局、藁人形と髪の毛を使った黒べえの魔法は、呪い殺しでも何でもなく、頭以外に毛を生やすという、まるで無意味なものであった。
そして、終わってみれば、タカネの黒べえ+髪の毛=呪い殺すという、美少女キャラとは思えない発想がとても印象に残るのでありました・・。
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