在庫管理や周期記録を任せることができる「生理用品IoT収納ケース」を開発しています
モノの管理って、むずかしい。
買い忘れたり、買いすぎたり、何があるか把握できていなかったり。
わたしの場合は、生理用品の買い忘れや周期の記録忘れがよくあります。
この記事の【前編】では、そんな小さなストレスを解消するために「生理用品IoT収納ケース」のプロジェクトを立ち上げたお話をしました。
わたしたちが、目指したのは……
生理用品IoT収納ケースに在庫管理や周期記録を任せること
小さく芽吹いたアイデアを会社の新規事業ミーティングで発表後、わたしたちプロジェクトチームのみんなは女性のヘルスケアや生理用品について学び、社内の人たちにヒアリングし、プロトタイプの製作に取りかかりました。
ちょうどその頃、経産省が令和3年度「フェムテック等サポートサービス実証事業費補助金」採択事業を公募していることを知ります。
Femtech(フェムテック)とは、Female(女性)とTechnology(テクノロジー)を掛け合わせた言葉で、月経や出産、不妊、更年期など女性特有の健康課題をサポートするツールのことです。
応募の締め切りがせまっていましたが、「このタイミングは何か運命的だ!」と必死に事業計画等を考えて提出し、審査の結果……
採択されました!
他に選ばれた事業者さんの顔ぶれを見ると、医療関係や女性の健康課題に取り組む専門家ばかり。
それに比べて生理用品IoT収納ケースは、わたしの日常的な困りごとから出発したプロダクトなので、ちょっと心もとなかったのですが、採択というエールをいただけて力が湧いてきました。
わたしたちの実証事業の内容をすごくざっくり言うと、開発中のサービスのデモを実際にご自宅で試してフィードバックをいただくことです。
そのサービスの仕組みは次のようになっています。
IoTケースに生理用品を収納すると、残量を定期的に計測
↓
連動するアプリで生理用品の残量を表示
↓
生理用品の使用状況から生理周期を推定して自動で記録
↓
(今後展開予定)
残量が少なくなるとEC自動注文、商品レコメンド
アイデアが採択されたことで、シャープ社内での注目度も高まってきました。
新規事業ミーティングで初めてアイデアを発表した時、恥ずかしがる必要なんてないのにモジモジしていたわたしですが、その頃には私もチームメンバーも「生理」「生理用ナプキン」という言葉を口に出すことが少しずつ平気になっていました。
特許部門の方が最初に「生理用ナプキン」のことを「あれ」と呼んでいましたが、そのうち一緒にアイデア展開の可能性について議論が盛り上がっていました。
周りの女性社員たちは、アンケートやヒアリングにも、「生理用品をいつどれだけ使ったか全部記録してほしい」という超面倒でユーザーフレンドリーでないお願いごとにも、みんな積極的に協力してくれました。
最初は恐る恐るだったわたしが、こうやって周りの皆様から勇気をいただきました。
意外だったのは、男性社員も真剣にフィードバックしてくれたことです。
事業部トップの男性上司にプレゼンする前に、生理についてゼロから説明する準備をしていました。
私の発表を全部聞いたあと、いきなり「これはタンポンも測れるの?」と質問が飛んできたのです。
おっと!そうきましたか。
初期のプロトタイプは「生理用ナプキン」の残量を計測する想定でつくっていたのです。
「今後対応する予定です」と回答した後、ほか実現に向けての問題点も鋭くアドバイスしていただきました。
「男性は生理のことを何も知らない」と思い込んでいる自分に気づきました。
別の男性上司も、説明を聞いた後の第一声は「分かる。これ、いるね」。
頭の上に?が飛び交うわたしに教えてくれました。
男性も生理用ナプキンを使う
痔の手術をした後に、ガーゼの代用品として生理用ナプキンを使うように勧める病院が多いのだとか。
長時間座りっぱなしの運転手さんが、痔のクッションとして生理用ナプキンを使うこともあるそうです。
実際、「痔の手術後、家に置いていた生理用ナプキンがなくなった時は困った。妻に買ってきてくれるように頼みました」と打ち明けてくれた男性社員もいました。
そうやって、周囲からわたしが知らなかった事実や異なる視点を教わり、プロダクトの骨格は少しずつ固まっていきました。
開発に協力してくれる仲間も迎えた
続く実証実験では、社内外の女性の協力を得て、IoT収納ケースとスマホアプリのプロトタイプを生理2回分の2〜3ヵ月ご自宅で使っていただき、意識や行動の変化を調べました。
まだまだ未熟な試作機で問題が起きたり、迷惑をかけたり、使いにくいところがたくさんあったと思いますが、使用後に行った1対1のインタビューでは、さまざまな声が寄せられました。
【残量確認について】
いつも買い忘れて困る派のわたしは、「なるほど、買いすぎることもあるんだ」と教わった次第です。
さらに、生理用品の使用状況から生理の開始日・終了日を推定する機能については、次のようなご意見をいただきました。
【周期の自動推定記録について】
一方、周期管理のニーズによって意見が分かれることがわかりました。
妊活中の方や正確に管理したい方には、やはり周期管理機能が物足りません。
また、周期推定のもとになるのは生理用品の残量ですが、実証実験を通じてわかったのは、生理用品の使い方は思ったより人それぞれだということでした。
生理が始まる数日前からおりものシートを使う人がいれば、始まる前から分厚い夜用ナプキンを敷く人もいる。
そうかと思えば「ショーツは汚れるものだから」と何も敷かず、生理が始まるまで普段と同じように過ごす人もいました。
このようにとても個人差が大きいのですが、生理判定アルゴリズムの精度は今後もさらに高めていきたいと思っています。
また、開発者であるわたしが何よりもうれしいフィードバックもありました。
【意識の変化について】
知ることで備えられる
イライラしたり調子が悪くなったりするのは、PMS(月経前症候群)かもしれません。
PMSとは生理前に3〜10日間続く精神的・身体的な症状のこと。
精神神経症状として情緒不安定、イライラ、抑うつ、不安、眠気、集中力の低下、睡眠障害、自律神経症状としてのぼせ、食欲不振・過食、めまい、倦怠感、身体的症状として腹痛、頭痛、腰痛、むくみ、お腹の張り、乳房の張りなどがあります。とくに精神状態が強い場合には、月経前不快気分障害(premenstrual dyspholic disorder : PMDD)の場合もあります。
わたしも自分の体について知ることで対処しやすくなりました。
わたしの場合は、眠い、腰痛、肌が荒れる。
なんと最近朝起きた瞬間に「あ。今日、排卵日だ」とわかるようにもなりました。
いつもの目覚めと違って、まるで夜中に突然起こされたような眠たさがまとわりつくからです。
(この話を女性メンバーにしたら、笑いながら「それは超能力だよ!」と驚かれました。まだ仲間見つかっていません)
PMSや体の変化について知ると、面白いもので気持ちや行動に変化が生まれます。
「イライラするのは体のせいだから今日は早く寝よう」だったり、「辛い食べ物はやめておこう」だったり。
実証実験への参加をきっかけでに、周りの人と生理について話した方たちもいらっしゃいました。
【周囲との関係性の変化について】
わたしたちは実証実験を通して、本当にさまざまなご意見や体験談をお聞きしました。
特に1対1のインタビューでは、どの人も話が止まらず予定時間をオーバー。
皆さん真剣にご自分が普段思っていること、悩んでいることを話してくださり、
「何か応援したい、もっと生理について語りたい!」
という熱量が伝わってきて、感謝の気持ちしかありません。
隠しても隠さなくてもいい
それでもわたしは、生理や生理用品について話さないか話すかは、どちらも尊重したいと思っています。
今は生理中だと知られたくないし気を使われたくない方の気持ちも、生理中だとオープンにして周囲の協力を求めたい方の気持ちもわかります。
それぞれの価値観を大事にしながら、わたしたちのプロダクトが寄り添えたらいいなと願うのです。
実証実験を終え、足りなかったことや課題も見えてきました。
「インテリアになじむデザインがほしい」
「設置場所に困る」
などのご意見もいただき、私たちは本体やアプリのブラッシュアップに引き続き取り組みました。
そして完成した第2弾のプロトタイプがこちらです!
生理用品をサイズ別に収納できる
生理用品はフラップ扉を開いて中へ収納。
さまざまなサイズの生理用品に対応できるよう、第1弾のプロトタイプより、もっと自由に収納できる開け方に変えました。
パッケージから取り出して並べるのもいいし、パッケージのままポンッと丸ごと入れてもOK。
置きたい場所に自由に置ける
プロトタイプ第1弾は、棚の中や上に置くことを前提にしたサイズや形でしたが、「置いたら便利な場所」へ自由に置けるようにデザインを変更しました。
(よく考えたら、わたしは毎月約1/4の時間を使って、毎日、高い棚から頑張ってナプキンを取ったり戻したりしていることに気づきました)
棚の脚は取り外し可能です。
トイレや洗面所のインテリアにも溶け込むように、シンプルで美しいデザインをめざしています。
残量が少なくなった時のECでの自動注文や、使用状況に合わせた生理用品のレコメンドも今後の目標。
シャープ以外の企業の方たちとも手を携えて、プロダクトやサービスを育てていきたいと思っています。
生理のこと、PMSのこと、生理用品のこと。
買い忘れた!買いすぎた!記録してない!おなか痛い!だるい!眠い!
あれこれ抱える女性たちがもっと気楽に、肩の力を抜いて、「任せられることはモノやサービスに任せたい!」というわたし自身の希望も込めて、わたしたちは生理用品IoT収納ケースをつくっています。
生理の周辺には 気にかけることが多すぎる
ところで、このアイデアが生まれる2、3週間前、わたしは世界最大級のカンファレンス&フェスティバルSXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)にオンラインで参加していました。
そこで強く印象に残ったのは、「Don't Just Make it Work, Make it Better for Women」というタイトルのセッションで登壇者が呼びかけた言葉です。
「女性の健康のために設計された製品には、百年も進化していないものがまだまだあります。隠してきた、タブー視してきた課題がまだまだあります」
当事者である女性が考えないと、世の中に出てこないものがある。
わたしもいつか、女性のヘルスケアや社会的な課題解決をサポートする仕事がしたい。
その想いは今も大切に心の中にしまっています。
わたしにもっと医学の知識やものづくりの経験があったら、と悔しい時もありますが、わたしは一人じゃありません。
チームのメンバーも、会社の人たちも、実験に協力してくれた人たちも、Femtechに取り組む人たちも仲間です。
そして、Femtechを待っていてくれる人たちも仲間です。
今つくっているのは、まだ製品化する前の卵ですが、プロトタイプのことをわたしたちはこう呼んでいます。
tsuzukuto
つづくと
在庫管理や周期記録が途切れることなく、つづくと、いいな。
いつか未来で、月経や更年期などの健康課題で悩まされず、キャリアや健康的な暮らしが、ずっとつづくと、いいな。
このプロダクトから使う人へ、使う人から周りの人へ、やさしい気持ちが続いていけばいいな、と思うのです。
これまでの記事はこちら
続編も公開しました!ぜひご覧ください。