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想い巡る「街の上で」

見知らぬ人に呼び止められ、突然身の上話をされて、それが随分と妙に思えても、「あぁそれほどまでに募る想いがあったんだ」と思えるのではないだろうか。そんな映画だったと思う。今泉力哉監督、2020年の「mellow」以来のオリジナル脚本作「街の上で」は、人とその想いが巡りゆく物語である。


下北沢の古着屋の店長・荒川青(若葉竜也)を主人公に据え、その元恋人・雪(穂志もえか)、近所の古本屋店員・田辺(古川琴音)、青に映画出演を依頼する美大生映画監督・町子(萩原みのり)、その映画の衣装スタッフ・イハ(中田青渚)の4人の女性がヒロイン。そういう恋愛群像劇、と思うような座組だ。



それも見方として間違いではないが、実際はもっとありふれた、ともすれば名前もつかないような関係性の話が主である。知り合いだったり、たまに街で出会うあの人、こっそりと自分のことを見ている人だったり。意識していないと傍らを通り過ぎていくような関係性の中でたまに見つかる、ちょっと忘れたくない仲のことを、穏やかなトーンで描き出している。男女が出会うことでラブストーリーを展開させるという作劇に対して静かにNOを突きつけるような、決して映画的ではない距離感がこの上なく愛おしく思えてくる。



人と人が隣り合わせで生きる世界は辛いことも多いけれど、隣り合ったことで少しだけ優しくなれる自分もいる。イライラしたり、たまに腹が立ったり、物凄く恥ずかしかったり、うまくいかないなあとなったりもするけれど、ちょっと面白いことがあったり、なんだかダラダラ話し続けるのが楽しかったり、結構いいことをしたなぁと思いきやそれが思わぬ災難を招いたり、、、そういう泡沫の感情がひしめき合いながらも、人のことを嫌いになりきれずにいる自分にも気づく。今泉力哉史上、最も温かな余韻をくれる。



あれこれ書いたがとにかく、肩肘張らずに観れる楽しい映画だ。3か所くらい、大きい声で笑ってしまうシーンもあったし、それ以外のほとんどのシーンはにこにこしながら観た。不意にいなくなった人のことを思い出したりするのも、ちゃんと日常の延長上にある気がする。人と想いが巡るこの日々のこと、自分の住むこの街の上でもまたまっさらな気持ちで見つめていたい。

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