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シャベルP
2019年7月21日 00:40
「ごめんなさい、ルビーちゃん。本当は、ついていきたかったでしょう?」「いいさ。あたいは、別に誘われてないし、さ・・・・・」 カルディが俯き気味に気を使うと、ルビーは何でもない風を装い、しかし頬を膨らませてあぐらに膝をつき、そっぽを向いた。 もちろんそれは、目の見えないカルディには分からない事だったが、ルビーが不満を抱えている事くらいカルディから見れば一目瞭然であった。 カルディには
2019年7月19日 23:59
いつの間にか旅の詩人兼商人として狭い村の中で名前が知れたジョージが家々を巡り始めて1週間。「いやぁ、あんたが毎日野菜をこれでもかってくらい貰ってきてくれるから、あたしも料理しがいがあるってもんだよ。普段は、こんなに誰彼構わず野菜貰ったりしないしねえ。見なよ、このトウモロコシ。でっぷりして美味そうだろう?これを潰して、ポタージュにでもしようかね!ひひひ。ありがたやありがたや」 女将は上機嫌
2019年7月19日 00:41
「で、ですね。ここで引き上げるんです。」 そう言いながら、モカナは黒く沸騰する鍋から亜麻の布袋を引き上げる。布袋に焙煎粉砕した珈琲を入れ、沸騰した湯の中に入れる抽出方法は俺が考案したものだが、既にモカナの方が使いこなしてる。 モカナがそれまで淹れてた、鍋でそのまま粉砕した珈琲を煮出して、上澄みを掬う方法は後始末が面倒だし、どうしても破片の中に残る珈琲がもったいない。 要するに湯に漬けれ
2019年7月17日 23:42
夏虫の鳴く夜、宿から覗くは満月。ジョージが窓辺のベッドに座り、夜の珈琲を楽しんでいると、リルケが唐突に目の前に現れた。「こんばんは!ジョージさん!良いお月さまだよね~。出会った頃を思い出さない?」「出会った頃ったって、2年も経ってないだろ?」「そういう事言っちゃう~?ジョージさんにとっては、その程度の事だったんだね」 むすっとした顔をしてみせるが、すぐに顔を綻ばせる。その笑顔は、
2019年7月16日 23:10
世界一の花でありたいリルケだよ! って言っても、花に順位なんてつけられないんだけどね。皆違って皆良いんだよ。 芝桜の、小さくて可愛らしい花も、百合の厚ぼったくて私を見てーって感じに手を広げる花も、紫陽花のみっちり隣の人詰めてー感のある花も、みんな可愛くて愛おしいよね。 そんなリルケさんですが、今ヘラっていう村に来ています。関係ないけど、お前ヘラヘラしてるよなってジョージさんに言われま
2019年7月16日 00:14
ルビーさ!ジョージの気まぐれにも困ったもんさ。「お前は王族なんだから、もっと文書に慣れた方がいいぞ。って事でお前も旅日記書け」 って、日記帳を押し付けられたさ! う~、めんどくさいさ。こういう細かいの書くの苦手さね。あたいが持つ一番軽いものは、ナイフで十分さ。 でも、確かにいずれ親父も引退するって考えたら、やらなきゃいけないって事はあたいも分かってるさ。 仕方ない。仕方ないさ
2019年7月15日 04:29
ヘラの朝は早い。雄鶏が鳴き出す前に村人たちはこぞって目覚め、日が昇る前に一仕事。よくやるもんだ。 自然と、気配で一度起こされるこっちの身にもなって欲しいが、仕事じゃ仕方ねえ。 飯を食う時は、必ず家族揃って食べる。「父に、母に、先祖に、土の恵みに感謝して。頂きます」 というのが、この村での食事前の挨拶だ。 この挨拶だが、村人全員妙に堂に入ってやがるんだよなぁ。その一瞬だけ、水宮
2019年7月14日 02:29
俺は、あまり知られてないが、旅の記録をつけている。 といっても、簡単なものだ。 1日一行くらいの時もある。 今日、死者の国なんて物騒な名前の国に入った。 最初の村、ヘラは実にのどかな田舎といった風景だ。これの、どこが死者の国なのか分からない。 ただ、カルディだけは宿屋に来てしばらくしてから、何か違和感を感じたらしかった。「ここの地面には、他の場所より沢山の魂がある気が、し
2019年7月12日 23:39
――――――――――――――――――――第32章 山脈道中記―――――――――――――――――――― 全世界を私のテリトリーにしたいリルケだよ。 またジョージさん達と旅ができるようになって嬉しいな~。皆私の事見えるから、お話できるしね。 死者の国アナンザの国境近い村、ヘラに到着すると、野で遊んでいた子供達がわいわいと馬車に寄ってきた。元気でいいなー。「こんにちはー
2019年7月12日 00:31
ガクシュでの最後の夜、ジョージ、モカナ、ルビー、カルディ、リルケの5人を送り出す宴が催された。「偉大なる珈琲の大霊師に乾杯!!」「「「乾杯ッ!!」」」 それは、ガクシュの図書館長や、ニカラグアの友人貴族などが集まって、随分と華やかな宴となった。また、各国のガクシュ駐在大使も、珈琲商会とのツテを目的に挙って集まってしまったのだった。「あわゎゎゎ・・・」 慣れないドレス姿に着せ替
2019年7月11日 00:11
ガクシュでの審査には1週間の時が必要だった。 その間、ジョージ・リフレール・シオリの3人はガクシュの支店作りに奔走し、モカナは時間の許す限りバリスタとニカラグア卿へと珈琲の淹れ方を伝授した。 暇を持て余していたのはルビー、リルケ、カルディの3人。自然と3人集まって街を歩く事が多くなっていた。「もうこの辺りの花は全部抑えたかな。ありがとねルビーちゃん」 と、半透明のリルケが鉢植えを
2019年7月10日 00:49
青年が取り出したのは、何の変哲もない豆に見えた。ただし、それは既に焙煎済みであった。(既に焙煎済みの豆を用意する意味とは?むむむ、興味が尽きぬ!!) もう手元を傍でガン見したい気持ちだったが、貴族の矜持をもってそれを阻止する。 仕方なく、悟られぬように深呼吸を繰り返す。 なぜか? その方が、手繰り寄せられると思うからである。 香 り を ! 来い!!来るのだ!!我が命に従
2019年7月8日 23:49
我輩の名は、ニカラグア=フォン=ルーンブルグ。農業国家ラバールはルーンブルグの領主にて、珈琲の伝道師。 珈琲に魂を奪われた男。 愛しの珈琲との出会いは視察先のサラクシューでの事だった。お供の連中は貧弱にもラクダの乳なんぞに当たって伏せり、我輩は久しぶりに供も無く朝の散歩に出かけたのである。 サラクシューの夜は寒く、また昼は灼熱。朝と夕方の僅かな間だけに、空気も清浄で快適な時間が訪れる
2019年7月8日 00:10
リルケさん数カ月の時を経て合流!役立つよー!ついでに、世界中の花を制覇するのだ! それにしてもジョージさん、変わらないなぁ。でも、なんだかまた新しい厄介事を抱えてる気がする。 主に、目が見え無さそうなのに、さっきから私の事を見ちゃってる女の人が!!なんだろう、それ以外は普通に見えるのに、この人を怒らせちゃいけない気がする。「こんにちは?」 とりあえず、話し掛けてみる。「こんに