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珈琲の大霊師253

 ガクシュでの審査には1週間の時が必要だった。

 その間、ジョージ・リフレール・シオリの3人はガクシュの支店作りに奔走し、モカナは時間の許す限りバリスタとニカラグア卿へと珈琲の淹れ方を伝授した。

 暇を持て余していたのはルビー、リルケ、カルディの3人。自然と3人集まって街を歩く事が多くなっていた。

「もうこの辺りの花は全部抑えたかな。ありがとねルビーちゃん」

 と、半透明のリルケが鉢植えを持ったルビーに話しかけると、ルビーはニカッと笑って鉢植えを頭上に掲げた。

「お安い御用さ。リルケが花に詳しかったから退屈しなかったさぁ」

「まあ、こう見えても世界で10本の指に入るくらいには詳しい自信あるよ!プワルには、世界中の花が集まるからね。小さい村だけど、花だけはどこにも負けないんだ」

「……いつか、見てみたい。花。皆の顔も、見てみたいです」

 と、傍らで儚げに微笑むのはカルディだ。暇な時間にガクシュ中の文献を当たってみたシオリが、カルディの目について現在の所打つ手無しという結論を出したのだ。

 魂の見えるカルディにとって多少の不便は気にならないが、皆と一緒にいる時間が増えれば増える程、皆と同じ物を見られない事が寂しくなってきていた。

「うー、あたしが女の子にも憑けれたら、見せてあげられるのになぁ」

「そっか、リルケは憑いた相手に自分が見てるものも見せられるさ?」

「うん。応用でね、最近できるようになったんだよ!これでスパイし放題!」

「リルケとジョージは国家の敵扱いされて狙われてもおかしくないさね」

「ジョージさんが掴まっても、あたしを捕まえるのは難しいと思うなー。今となっては。そしたらあたし、ジョージさん助けないで、看守さん操ってジョージさん飼っちゃおうかな」

 そんな冗談を言い合いながら、ガクシュでの時間は過ぎていく。


 1週間後、ジョージはシオリを呼び出して告げた。

「お前、ここに残って支店長やれ」

「……はい?」

 シオリは耳を疑った。



「だから、お前ここで珈琲の支店の経営やれ。事務処理ならお前の右に出る奴はいない。営業は別に雇うから、お前はここのトップやれ。バリスタと連携して、世界珈琲商会に貢献しろ。とりあえず会社がまともに機能してりゃあ、どこに出掛けようが構わんから、アントニウス氏の所にでも行って好きなだけ教えてもらえばいい。ただし、常に連絡は取れるようにしておけよ?風の精霊使い1人雇えば、その辺りはどうとでもなるはずだ。ってわけで、よろしく」

 ちょっと……、ピンと、来ないんですけど。

 いきなりの話過ぎて、頭がついていかない。え?何の話?私が、何になるって?え?支店長?

「え、ちょっと、ちょっと待って下さいジョージさん。話が急でついていけないんですけど!?」

 正直に話す。

「……お前、アントニウス氏の弟子になりたいとか言ってただろ?正直、お前の知識には大分助けられてきた。まあ、手放すには惜しいと思う程度にはな。大体だ、お前弟子入りすると言うが食い扶持はどうするつもりなんだ?」

 ……弟子になったら、食べさせてもらえるんじゃないかとか、思っていたような気がする……。ここまで旅をして、ジョージさんの手伝いをして分かったけど、それって随分失礼な気がする。そもそも、アントニウス様は弟子なんて募集してないし……。

「考えてなかったです……」

「お前、頭は悪くないんだが変な所で妄信的だよなあ。思慮に欠けるというか。まあ、そういうわけだ。俺は、お前を部下に置いておきたい。お前はアントニウス氏の弟子になりたい。双方利益があるわけだ。というわけで、やれ。報酬は期待してもいいぞ」

 ニヤリとジョージさんが笑った。あ、これ悪くない顔だ。

「本当ですか!?い、いかほどでしょうか?」

「まあ、お前の働き次第だが、基本報酬だけでこれくらいを考えてるぞ」

 と、色々メモしてある紙束を渡してきた。

 そこには、支店を作る上でのいろんな費用が書いてあって、そこの支店長報酬の項目に、私が古本屋で上げてた利益の1年分くらいが1ヶ月に貰える予定になっていた。

「うえええええええええええええ!?えっ!?こんなに!?ジョージさん、これ赤字になるんじゃ!?」

「あのな、お前珈琲を舐め過ぎだぞ?お前は知らないだろうが、マルクの支店長はこの倍は貰ってるぞ?お前はまだ実績が無いからこの額だがな。まあ、あいつは支店長兼カフェ店長も兼ねてるからだが。お前には、カフェの実務は期待してねえ。むしろ、ここガクシュには情報が集まってくる。世界最先端の研究もだ。その情報を、珈琲に生かす形で商会に吸い上げるのがお前に期待する最大の役割だ。というわけだが、受けるよな?いいか?これは確認だぞ?選択肢じゃねえ」

 ジョージさんは、時々不器用な人だと思う。

 そんな念押ししなくたって、人に納得させるだけの論理展開ができる人なのに。

 なんだか、凄く嬉しい。いつも、けちょんけちょんにけなしてくるジョージさんが、本当は頼りにしてくれてたんだって。だから、気付いたら私は笑顔で頷いていたのだった。

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