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珈琲の大霊師254

 ガクシュでの最後の夜、ジョージ、モカナ、ルビー、カルディ、リルケの5人を送り出す宴が催された。

「偉大なる珈琲の大霊師に乾杯!!」

「「「乾杯ッ!!」」」

 それは、ガクシュの図書館長や、ニカラグアの友人貴族などが集まって、随分と華やかな宴となった。また、各国のガクシュ駐在大使も、珈琲商会とのツテを目的に挙って集まってしまったのだった。

「あわゎゎゎ・・・」

 慣れないドレス姿に着せ替えられたモカナの周りを、あっという間にお偉方が包囲する。が、ジョージがモカナの側に立ち、にこやかながらも睨みを利かせ、挨拶を1人ずつに制限していた。

「ジョージさん、この服、薄くてひらひらして、落ち着かないです」

「お前のいつものが野暮った過ぎるんだ。どうせ、大して見せられるもんでもないしな。裸でも大して問題じゃないだろ」

「嫌ですよぉ!」

 歳の離れた兄妹のようだ、とはその場に居合わせたほとんどの参加者の意見だった。珈琲の大霊師は、世界珈琲商会がガッチリ抱え込んでいて、それこそ武力にモノを言わせなければ大霊師を迎える事は不可能と見えた。

 その武力にしても、離れた場所でこれまた若い外交官やらに言い寄られているリフレールが中核を成すサラクとの全面戦争などどこの国にしても懸命とは言い難く、現実的ではなかった。

「はぁ~、なんだか実感が湧きません。私が、支社長ですって、ルビーさん」

 と、ぼーっとしているシオリが、猛然と料理を掻き込むルビーに話しかける。

「もごもご、ジョージの奴、相当あんたを買ってるのふぉさ。あんた、知識はあるけど、判断は甘いさ。そんなんじゃ、きっとこの先騙されたりするだろうけどさ。その位のコストを考えても、あんたに任せる価値があるって、ジョージは踏んだんだろうさ」

「うぐっ、反論できない・・・・。ルビーちゃん、なんか前より賢くなったね?」

「ああん?あたいが、バカだって言うのさ?」

「い、いや、そうじゃなくって!!」

「・・・ま、確かにそうだったかもしれないさ。あたいは、ツェツェしか知らなかったからさ。この旅で、ジョージやモカナ、あんたと一緒に来て、あたいだって考える所があっただけさ」

 そう言って、プイッとルビーは横を向き、また料理をがっつき始めるのだった。

 少し離れた場所で、わっと歓声が上がる。

「うるさいのう!!あぎゃー!」

 ドロシーが、いつまでも緊張から開放してもらえなくて、疲れ始めたモカナの心を察知して、水をきらきら撒き散らしながら、天井から降りて来る所だった。

 そこに集まった者達は、大霊師の珈琲が明らかに他の者が淹れた物と違う大きな要因のひとつ、どこにも負ける事の無い名水を口に放り込まれ、その美味さに驚きを隠せないのであった。


 ガクシュでは大勢の人達に見送られて、今までで一番賑やかなお別れでした。

 珈琲の輪が広がっていっているのが分かります。これも、ジョージさんやリフレールさんのお陰だと思います。もう、珈琲はボクがいなくても勝手に広まっていくかもしれません。

 だって、珈琲はこんなに美味しいんだから。

「こっちの道は随分荒れてるな。地図によれば合ってるんだが・・・。こういう時、シオリがいりゃあうんちく垂れてくれるんだけどなぁ。まあ、食料は余分にあるから大丈夫だろ。モカナ、カルディ、気持ち悪くなってないか?」

 ジョージさんは相変わらず細かく気を使って、旅を安全にしてくれています。

「はい、ボクは大丈夫です」

「私も、大丈夫、です」

 荷台でカルディさんと一緒に返事をしました。カルディさんは、目が見えないのに車の中で酔ったりしないのは不思議です。前に動いてる馬車の中で寝ようとしたら、ボクは気持ち悪くなっちゃいましたけど、カルディさんには無いみたいです。

 今は、霊峰アースっていう、もしかしたらボクの故郷かもしれない山に向かっています。

 馬車は緩やかな坂道を上がったり降りたりでとても大変そう。

 ちなみに、この馬車を動かしている馬は白毛と灰毛の馬で、名前はザックさんとボロくんだそうです。ドロシーが勝手に名前をつけて呼んでました。

「この次の国は何て名前なんさ?」

「シオリ曰く、『死者の国アナンザ』だそうだ」

「うげっ、何さその名前。不吉にも程があるさぁ!!」

「まあ、亡霊だのとそういうわけじゃあないみたいだぞ。変わった風俗をしているだけらしい。楽しみだな」

「いやぁ、流石にそれは楽しみにできないさぁ・・・。美味いもんとかあれば良いけどさ……」

 そう言って、ルビーさんは顔をしかめてました。

 死者の国・・・、これまで誰かが死んだのを目の当たりにはしたことありませんけど、ボクもいずれ死んで骨になるんですよね。

 骨だらけの国だったりするのかなぁ?珈琲、飲めるのかな?骨って。

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