胸のドラムが鳴り止まないの
ドクン、ドクン、かっ、かっ。ドンドン、ドン。
頭が狂いそうになって、その日はキスもできなかった。
こんな大人になったのも理由がある。理由はあるけど原因は分からない。
思えば、始まりは、音楽の授業。リコーダーの発表会だった。
全身の汗が止まらず、手と足、指先、顔が震え出す。アタシはリコーダーを真下に落としてしまい、発表を終えた。先生は苦笑いをしているだけだった。そりゃそうか、田舎の教師にとっては、アタシは化物みたいな存在だったんだろう。
18歳を超えても、癒えない傷は増えていく。
高校のバドミントン部。サーブを上げる手が震える。足が動かない。
練習ではそこそこ強いのに、アタシ。
受験。しっかりと削ったえんぴつでマークシートを塗りつぶしていく。そのマークが濡れない。「よくない例」のようにはみ出しまくる。手がぶるぶる、書痙っていうらしい。リスニングも左耳から右耳に抜けていく。
就職活動。真っ赤な顔をして、唇を震わせてアワアワ言うヤツに営業職を任せられるワケない。コンピュータ技能検定もブラインドタッチができず、謎のダイイングメッセージを刻むだけだった。
それでも事務職に受かった。前日徹夜してフラフラの状態で面接に臨んだら、どうにかなった。ドカベンの岩鬼が超近眼メガネで悪球打ちを克服した作戦を参考にした。
そして今。デートをしているが、コーヒーカップを持てない。
ガタガタと震えてこぼれるコーヒーを見て、ドン引きされるのが大半だ。
そんななか、遊園地デートにこぎつけることができた。
でも手も握れない。声も出ない。
なんでこんなアタシが好きなワケ? は?
この”病気”のせいで、ずいぶんと性格もひねくれてしまった。
どうせバカにしたい、ネタにしたいだけでしょ。
彼が振り返る。唇を震わせている。
「同じなんだ、……あ、同じとかいうのは違うよね」
「え」
初めて出会った。たぶん。
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