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人生はオンエアバトル

「新しい世界を作るのは――あなたたちです!」
誰かに耳元でつぶやかれて目を覚ました。

誰にも観られない映画を撮り続けてはや6年。気づけば大卒フリーターのアタシもすっかりアラサーの女性とやらになっていた。

自主映画の世界は狭い。描く世界観も小さければ、かかっているお金も、集客もしょうもない。
これでアタシの自尊心が満たされるわけもなく同じような理由でフリーターをやっている仲間と幡ヶ谷の居酒屋で朝方まで飲む。そんな日々を過ごしている。

そんな矢先、チャンスが巡ってきた。自主映画を募集し、面白かった作品はテレビでオンエアされるという番組が始まったのだ。
俺、おしゃれでっせ系テレビマンの悪癖で始まったであろうこの番組に、2クール目は存在しないだろう。
アタシは、この番組に賭けてみることにした。ばあちゃんの遺産が40万円残っている。全額つぎ込んで、アタシの存在を知らしめる。知らしめてやる、と。

プロデューサー、総合演出の名前を見て、手が止まった。ある夜、知り合いのかわいくて胸の大きな脚本家の優子に呼ばれた飲み会で知り合った男のクレジットがそこに並んでいた。しかも一番上。
こいつはアタシの子を授かって中絶させたヤツだ。

オンエアできなきゃすべてをさらす。アタシの自尊心、見くびるな。
荒ぶっていた。
アタシは撮影用のカメラを持って泣きながら決意した。
「新しい世界を作るのは――観客でも、すぽんさーでもない。アタシだ」

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