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そら豆も飛べる、はず。

辛い。怖い。情けない。最低な毎日の繰り返し。晩酌だけが生きていくうえで唯一の命綱である。

そんなアタシは、酒のアテになるつまみの料理にも凝っていた。

そら豆だ。
ビールはもちろん、ハイボール、サワーといった炭酸系、日本酒やワインにもある代物なのだ。

そら豆にも流儀がある。
こいつは、鮮度が落ちやすく空気に触れると風味も落ちやすいので、できるだけ、さや付きのモノを買うことがカギだ。

さやから出したら、ゆでる前に豆ひとつずつに切り込みを入れることも忘れちゃいけない。これにより、味付けがまわりやすくなり、食べる際には実をツルリと出しやすくなるのだ。
このツルリが癖になる。プチプチを潰したり、ムダ毛を抜く動画を見たりするときと同じような中毒性がある。

1年かけて費やしたノウハウ。この作業だけで口と肝臓がアルコールを欲している。

味付けは塩だ。
市販の安い塩でいい。そら豆をなめてはいけない。本来はかじるものをなめてんじゃねーぞといった具合のジョークも口ずさんでいる。まだシラフなんだけど――。

さて、皿に盛ったら完成だ。「お料理行進曲」の3番があったら、そら豆について歌ってほしい。劇場版『キテレツ大百科』公開の際はぜひお願いしたいところだ。

ガーリックとチーズをかけるハイソな食べ方もあるが、それは彼氏ができてからでいいだろう。
すべてのハラスメントを受けた元カレのせいで、男が怖くなって4年。
あいつをみかけたら、そら豆を投げつけるかもしれない。いや、つまみを粗末にしてはいけない。

さて乾杯。ゴクリ、ツルリ、シャキシャキ、ゴクリ。
快感は続く。人生を振り返り、涙が出てきた。

マッチングアプリを始めた。同期の加奈子にすすめられて荒療治で始めた。
「どんなおつまみ、作るんですか? 写真とか見たい」
とか、ってなんだ。そうぼやきながら――。

ネットで検索したオムライスの写真をダウンロードして送った。

こういうのだから、アタシの恋愛はいつまで経ってもうまくいかないのだろう。
返信が来る。
「すごい。ふわふわ系! 俺なんてそら豆ゆでてお酒飲んでます笑」

ツルリ。手が止まる。まだまだ捨てたもんじゃないな、人生。
体言止めの感情に嘘はない。

にやけながら、ソファのヘリで眠りに落ちた。
あ~、化粧を落としておくべきだった。



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