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芹沢忍
2021年8月30日 01:16
一面が橙に染まる。 暖かな空が徐々に闇を孕み、 青黒い色が光を喰らう。 景色は次第に色褪せ、 山の端は赤く燃え上がる。 それが何処か血を思わせ、 たゑの胸をざわつかせた。 こんな時刻に出掛けるなど、夫にばれたら何と言われるか。恐らく危険だと咎められるだろう。 臥せった夫は、煎じ薬で眠っている。起きるまでは時間がある。それまでに戻ってくればいい。たゑは夜気に着物の合わせを寄
2021年8月22日 22:18
久しぶりに会った親戚の面々は、やはり歳をとっていた。そんな中で比較的に若い叔父が近付いて来た。私は目立たぬように携帯を取り出し、さも電話をしなければといった体で叔父から逃げようとした。「いやあ、立派な大人になったなぁ。旦那さんは?」 叔父が無神経に声をかけてくる。演技がばれたのではない。単に叔父が空気を読めない人間なのだ。心の中で盛大な舌打ちをしつつも、私はにっこりと最上級の笑顔を見せた