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「病気でも食をあきらめない社会を」 グッテ代表 宮﨑拓郎さんインタビュー

 センズでは疾患や障害を中心とした事業に取り組む方にスポットを当ててインタビューを行い、その取り組みや想いを発信しています。

 今回は、栄養学の専門家であり、炎症性腸疾患(Inflammatory Bowel Disease: IBD)患者向けのオンラインコミュニティ事業を運営する宮﨑拓郎さんに話を伺いました。

● 創業までのストーリー

- 創業までのストーリーを教えて下さい。

 大学時代はヘルスケアではなく、漁業と環境問題に関する社会学・民俗学的な研究をしていました。その後、2007年に新卒で帝人ファーマ株式会社に入社し、医薬品の営業を2年、アライアンスや事業開発を7年ほど経験しました。

● 栄養学への興味

 帝人で働くうち、次第に医薬品だけでは解決できない課題が見えてきました。当時、糖尿病などの慢性疾患の多くでは後発品の普及が進んだことから、医薬品のアンメット・メディカルニーズ(有効な治療方法がない疾患の医療ニーズ)がないと言われていましたが、慢性疾患患者は増加の一途を辿っていたのです。そこで、2015年頃から「薬以外のアプローチって何があるんだろう?」と調べるようになりました。

 その中で、特に栄養学に興味を持つようになりました。大学病院の管理栄養士さんの業務を1週間ほど見学させてもらったりと、実際の臨床現場のリサーチも行ったりしましたね。業務フローのIT化が進んでいないこと、保険制度上、患者さんの日常的なフォローができないことなど、栄養士さんの業務が十分に食事・栄養の改善につながっていないという課題を感じました。
 もう1つ個人的な体験談なのですが、妻がとても栄養に気を遣うタイプでして、結婚して妻の手料理を食べるようになってから明らかに自分の体調が良くなりました。これも栄養学に興味を持った理由です。

● 転機となった米国留学

 栄養学についてさらに専門的な知識を学ぶため、アメリカの大学への進学を決めました。栄養学は日本よりもアメリカの方が研究でも臨床でも進んでいることがわかったからです。その後、2016年7月に会社を退職して渡米し、9月にミシガン大学に入学しました。

- 社会人を経た後で留学したんですね! ミシガン大学を選んだ理由は何ですか?

 大きく3つあります。栄養学の研究が盛んだったこと、栄養学に加えて他分野(医学や統計学など)を横断的に学べること、ビジネスを通したイノベーションへの理解が深く、支援体制も盛んだったことです。
 これらの点が、栄養学の領域でイノベーションを起こしたいと考えていた自分にマッチしていると考えました。

 アメリカの大学は、入学時にしっかりと大学と学生のマッチングをとります。そのため、自分のやりたいこと(コアとなるスキルとキャリアゴール)を明確にして大学選びをしていく過程で、ミシガン大学に自ずと決まっていきましたね。
 結果としてこの準備期間が自分のやりたいことを明確にする時間になりました。

- 米国ではどんな経験をしたのですか?

 公衆衛生学修士(MPH)の栄養科学のプログラムでの栄養学の知識はもちろん、座学以外の経験もたくさんしました。在学中から大学病院で臨床研究にパートタイムで関わっていましたし、夏休みなどにもウェイトマネジメントプログラムなどで長期のインターンシップも経験しました。卒業後にはアメリカの登録栄養士のインターンシップにフルタイムで10ヶ月程度様々な病院・診療科での栄養指導も経験しました。

 その中で、消化器分野専門の医学の先生との出会いがありました。2年ほど食事療法の臨床研究に参加させてもらったことで、消化器分野の栄養学に関心を持つようになりました。
 当時日本では、栄養学は糖尿病などの生活習慣病の分野が主流で、消化器分野はあまり盛んではありませんでした。一方で、消化器疾患は食事の消化・吸収に直接関わるので患者さんは食事にペインを感じていました。
 だからこそ消化器分野で栄養学の最新の研究や臨床を学び、それを生かしていくことに大きな意義を感じました。このことが、現在の腸疾患の患者コミュニティ事業や本の執筆(『潰瘍性大腸炎とクローン病の栄養管理 IBDにおける栄養学の科学的根拠と実践法』)などの仕事に繋がっています。

- なるほど! 米国留学が現在の事業を行う転機になったんですね!

 はい。消化器×栄養学の専門家として、患者さんの日常生活の課題を解決していくというビジョンを抱きました。
 また、後に一緒に起業する仲間との出会いもアメリカでしたね。

● 帰国、そして起業

 これまでの経験の中で、自分は物事を達成していくプロセスが好きで、社会のためになると実感できることがやりたいと思っていました。そこで、帰国後は自分の専門である消化器×栄養学の領域で起業するべく準備を始めました。当時から自分が興味を持っていたのは患者さんの日常生活の課題解決でした。医療機関では診断・治療などは提供できますが、医療機関を出た後に患者さんは日常生活の課題を自分で解決しなければならない状況でした。この問題を解決できればと考えました。
 そこでTwitterで繋がった日本の様々なIBDの患者さんにインタビュー形式で課題のヒアリングをさせていただきました。

 日本にIBDの患者さんは約30万人いるのですが、それに対して専門医の先生は数百人程度と言われています。そのため、大学病院などに所属するIBDの専門家に相談する機会がない患者さんや、大学病院に通っていても十分に聞きたいことを聞く時間がない患者さんがたくさんいました。さらに、患者同士の接点も少なく「職場で病気の配慮をお願いするときどのように伝えているか?」など生活上の困りごとを相談する機会もありませんでした。
 また、IBD患者さんに医薬品を提供する製薬企業からも患者さんのニーズを聞きたいという声がありました。

 そこで、専門家と患者が繋がることができる場として2018年9月に、IBD患者向けのコミュニティ『Gコミュニティ』を創設しました。
 2015年に管理栄養士さんの臨床現場で、患者さんの日常生活のフォローとIT化の課題を感じてから3年、栄養の専門家かつ事業家という立場で解決策を提供できるスタート地点にきました。

 ここまでが株式会社グッテの創業ストーリーです。

● 患者さんの声を集めて社会に届ける場

GoodTee

- グッテで現在取り組んでいるのはどんなことですか?

● 専門家と他の患者さんに相談できる

私を含めた専門家と患者さんが知識を共有する場『Gコミュニティ』オンライン・無料で提供しています。コミュニティにはどんどんIBDに関する知識が蓄積されています。

 また、病気と付き合いながら働くための知識を学べる就労イベントを始めとした様々なオンラインイベントも行っています。

 また製薬企業依頼の定性・定量調査や自主的な調査などを行い、Gコミュニティの患者さんの声を企業や社会に届けることも行っています。

● お腹に不安を抱える人のための食事

 IBD患者さんは食事が直接的に消化器症状に影響すると感じる患者さんも多く、様々な食事を制限している方が多いです。症状をコントロールするために食事を調整することは大切な一方で、食事を制限しすぎると栄養バランスが偏ったり、楽しみが失われることもあります。そこでGコミュニティでは患者さんの声を聞きながら、患者さんのニーズに合う商品を患者さんと一緒に開発する試みをしています。その第一弾が、お腹に優しいプロテイン『FODUP』です。

 このFODUPは患者さんのニーズから企画が始まり、商品名やパッケージの開発、試飲にも多くの患者さんに関わっていただきました。商品を通して患者さんの課題を解決するのみならず、商品が社会に広く病気を知ってもらうきっかけにもなればと思います。引き続き、患者さんの声を聞きながら商品開発を行っていきたいですね。

● 病気でも食をあきらめない社会を

- グッテで今後どんな世界を実現していきたいですか?

 現在グッテで取り組んでいるIBDや過敏性腸症候群(Irritable Bowel Syndrome: IBS)にはまだ根本的な治療法がありません。だから患者さんは「この病気の生活がいつまで続くんだろう……」という不安を抱えています。そんな患者さんの悩みを解決したいです。
 せっかくの食事ですから、患者さんは食事内容に気をつけるだけじゃなく、食事そのものを楽しめるような社会にしていきたいです。
 そうやって、グッテのサービスによって、患者さんのQOLが向上したり自己肯定感が上がって「病気になったけど豊かな人生だな」と思える社会を作っていきたいですね。

● Link

宮崎さんTwitter:https://twitter.com/TakuroMIY
GコミュニティTwitter:https://twitter.com/GoodTeCommunity
グッテHP:https://goodte.jp/
グッテnote:https://note.com/goodte


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