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いくつもの肩書きを持つのは、自分らしくあり続けるため。パラレルティーチャーになって気づいた、先生が生き生き働くために大事なこと

現在、大阪市にある私立一貫校、常翔学園中学校・高等学校で、文理進学コース長をされている古島尚弥さん。

大好きなバスケットボールを続けたいという理由で目指した教員というキャリアを選び、教員を続けながらオリンピックの審判員を目指す日々だったという。しかしあるときから、教員とバスケットボール以外にもNPO法人の理事、地元自治体の教育委員、本の出版、キャリア教育で使うカードゲームのファシリテーターなど、いくつもの顔を持つ、自称「パラレルティーチャー」になっていた。

さまざまな人とつながることで気づいた、学校内外でパラレルに活動する良さについて話を聞いた。


外部での経験を、子どもたちに還元したい

ーー古島さんは私立の中高一貫校で働きながら、パラレルに活動を展開されているそうですね。現在のお仕事について、詳しく教えていただけますか?

現在は、常翔学園中学校・高等学校で働いています。本校は、高校生だけでも1,800人ほどが通っており、大阪でも規模の大きな私立中高一貫校。担当教科は英語で、文理進学コース長という責任者も務めております。

コース長とは、コース全体のマネジメントをしつつ、教頭と現場をつなぐ役割のこと。本業は教員ですが、自宅のある奈良県生駒市の教育委員会で教育委員の仕事や、DAREDEMO HERO(ダレデモヒーロー)というフィリピン・セブ島の貧困教育支援NPO法人で理事をしたりしています。

その他にも、小学校のミニバスケットボールチームのコーチや審判員の育成、執筆などもしています。実は現在教職大学院に通っていて、学生という肩書きも持っています。

現在私についている肩書きを改めて書き出してみると、

・奈良県生駒市教育委員会 教育委員
・NPO法人DAREDEMOHERO 理事
・エンゲージメントカード認定ファシリテーター
・SDGsボードゲーム認定ファシリテーター
・原田メソッド認定パートナー
・元日本バスケットボール協会 公認A級審判員
・鳴門教育大学 教職大学院 学校づくりマネジメントコース在学中

がありました。

ーー本当にたくさんの肩書きをお持ちなのですね。なぜ現在のように、パラレルに活動するようになったのでしょうか?

学生時代から学業とバイトの両立とか、並行して何かに取り組むことが多かったです。

まず先生になろうと思ったのは、単純に子どもの頃から大好きだったバスケットボールを教えたいと思ったから。先生として働きながら、バスケットボール審判員の上級ライセンスを取得し、試合の審判をしながら、審判員育成の研修会を企画・運営するなど、教員とバスケットボールの審判員として、二足の草鞋を履いて活動する日々でした。

全国大会の審判をする古島さん

ここまでもパラレルかとは思うのですが、さらに活動の幅を広げるきっかけとなったのは、35歳のときに、コース長を拝命したことです。

それまでは学校のイチ教員として、学内のことばかり考えていました。でもコース長になることで、学外の人とお話しする機会が増えてきて、自分には知らない世界がたくさんあると気づいたのです。

ちょうどそのときは、バスケットボールの国際審判員への挑戦に挫折して、これからどのようなキャリアを築こうか考えていたときでもありました。たくさんの人や団体と出会う中で、大きな転機となったのが、NPO法人DAREDEMO HEROとの出会いです。

その団体では、フィリピンの子どもたちを支援する活動を行っていました。私は英語科教員として、仕事以外の部分でも英語に関わり、外部での経験を子どもたちに還元できるようになりたいと思い、その活動に参加するようになりました。これがパラレルキャリアの始まりです。

DAREDEMO HEROでの活動の様子

少しでも可能性があったら、やってみる

ーー古島さんは、いくつも肩書を持つ先生のことを「パラレルティーチャー」と呼んでいるそうですね。パラレルに活動することで、どのようなことを感じているのでしょうか?

圧倒的に人生が楽しくなります。

確かにバスケットボールの審判員時代も充実してはいました。でも今の方が、自分の経験値が格段に増えていますし、子どもたちに伝えられることもどんどん多くなっていると思います。自分に幅が出てきている感じがするんですよね。

パラレルキャリアの良い点は、人脈と経験値が得られること。それによって、子どもたちに話せる内容が圧倒的に違ってくると思います。

以前、ご縁があってラジオに出演させていただいたことがあります。するとある生徒から「メディア業界に興味があるので、先生がラジオ出演した局を見学させてもらいたいです」というお願いがあって。すぐにラジオ局に相談したら、最終的にはその生徒と一緒にラジオ出演することになったんです。これは、自分が実際にラジオ局に行って、ラジオに出演したつながりがあったからこそ実現できたことですよね。

生徒のキャリア支援ができたのも、やはり自分が経験していたからだと思います。パラレルに活動を始める前は、学校教育という枠の中だけで仕事を受けていました。でも今は、自分のキャリアを生かせるのであれば、どのようなお仕事でも全部引き受けるようにしています。

生徒とラジオ出演したときの様子

ーー活動を続ける上で、大切にしていることは何でしょうか?

パラレルに活動しているというと、「とにかくやってみよう!」と挑戦するような人だと思われがちなのですが、むしろ実は、死ぬほど石橋を叩いて渡るタイプなんです。

石橋を叩きまくって、失敗しそうなことは絶対やらない。でも、初めから失敗すると思い込まないようにはしています。できるかできないかを0か100で考えないで。自分の中で10%とか20%でもできるなと思ったら、やる。それは私の中で決めていることですね。

私がパラレルに活動する上で大切にしているのは、「学校や教育を変えてやる」という考え方ではなく、「先生に対するイメージを変える」という考え方です。皆さんが私みたいにパラレルティーチャーにならなくてもいいと思っています。私がパラレルに活動するのは、自分が自分らしくいるためなんです。

だから、先生が自分らしく仕事ができて、子どもたちと本気で関われるようになる。そんな先生が増えていったら、教育は勝手に変わると思っています。だから、教育を変えるみたいなことよりも、先生がもっと生き生きとして、自分らしく仕事ができる環境を作ることが大事だと思っています。

そのためにはやはり生徒の前とか、同僚の先生の前でもそうですが、基本的には素を出すということ。スキルや肩書きは、最終的にあまり関係ないと思っています。

教員同士の関わりの中でも、ありのままで接する古島さん

世間の情報を鵜呑みにするよりも、まずは自分の目で現場を見てほしい

ーーどんな先生も、自分らしく働けるようになったらいいですね。

そうですね。でも一方で多くの先生から、簡単には自分を変えられないという声を聞きます。本当にそうでしょうか?

結局壁を作っているのは、自分自身だと思うんです。今だったらオンラインで開催されるセミナーもあり、ウェビナーとか、オンラインで耳だけでもいいから参加する。そうやって情報をリアルに集めに行く時間を作るということからやってみる。そういう時間を、自分の中で10分でも20分でもまず作る。まとめて時間を作ろうと思うから無理が生じてきます。

小さなことを積み重ねていくことで、自分のやりたいことを先生をしながらでもやれるという感覚が持てるのではないかなと思います。たとえ小さな一歩だったとしても、踏み出してみるだけで、その先生の経験値が増えていき、価値も上がっていきます。

私の経験上、先生はいろいろなことを並行して進めるマルチタスクが得意な人が多いと感じています。マルチタスクが得意な方は世の中にそんなにたくさんいないので、私の経験からしても世の中に必要とされるスキルを持っているように感じています。だから私は先生が学校外の世界に一歩踏み出してみることで、先生の価値がもっと上がったり、社会に認められたりすると思います。

ーーこの記事の読者の方には、学校外での勤務経験を生かして先生になりたいと考えている方もいらっしゃいます。学校の中と外を両方経験した視点から、メッセージをいただけたらうれしいです。

少しでも気になるんだったら、やりたい気持ちを一番に大事にしてみてほしいです。

今は別の仕事をしている方でも、地域の教育関係のボランティア、学校のボランティアだったら、教員免許の有無に関わらず、教育に関わることができます。もし教員免許をお持ちでいらっしゃるなら、非常勤講師として働く選択肢もあります。月曜日から金曜日まで別の仕事をして、土曜日だけ非常勤講師をするという働き方もできるはずです。

世の中で聞かれているような学校・教育のイメージを鵜呑みにするのではなく、スモールスタートでもいいので、自分の目で実際の現場を確認すること。実際に関わる中では、しんどい状況も見ることがあるかもしれません。

でもそれと同時に、先生が全力で子どもと向き合う様子も目の当たりにすることになります。ぜひそちらも見ていただきたい。子どもたちの笑顔や全力で頑張る姿を見たら、この仕事をやめられなくなりますよ。

取材・文:北川 力さん | 写真:ご本人提供