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小説に学ぶシニアライフ 5「55歳からのハローライフ」 村上 龍

前回、第4弾小説に学ぶ「おもかげ」に続き、村上龍さんの「55歳からのハローライフ」のご紹介です。

55歳からのハローライフ 村上 龍

村上龍さんは、まだ在学中の1976年に第75回芥川賞を「限りなく透明に近いブルー」で受賞、その他多くの受賞歴をお持ちの小説家。カンブリア宮殿のホスト役として、ご存じの方も多いのではないでしょうか。

まだ高校生だった私には「限りなく透明に近いブルー」は衝撃的。
あまりにも違う世界、知らない世界に胸が高まり大人への期待と不安に包まれました。

村上さんの作品はオシャレな都会的においを感じ憧れもあって影響が大きかったです。福生には今でも時々出かけ、ジーンズにTシャツでベースサイドストリートを楽しみながら当時の感傷にひたって街歩きすることも。

あれから38年後の2014年に発売の「55歳からのハローライフ」、同じ村上龍作品でも、あの退廃的な若者の物語から時は流れて、今は還暦近いシニアの苦悩という物語を読んでいる自分。
40年近い時の流れをひしひしと感じます。

定年小説といえば、家族、お金、仕事、老いらくの恋が定番、この物語にも老後に向けてのペーソスが。
しかし、村上龍が描くリアリティーの世界は少々違いました。

ストレートな描写からはストーリーの裏側にひそんでいるもの、勇気がもらえる何か力強さを感じます。
人生やり直し的ストーリー、最後は夢と希望に包まれます。
還暦過ぎても人生まだまだ捨てたもんじゃない。そんな気持ちにさせてくれます。

50代後半で一旦立ち止まり今までの人生を振り返ってみる。
様々な人間関係が繰り広げられて今日に至っており、そこには信用・信頼という言葉が。そしてこれからの人生をどう生きるのか、人それぞれの物語が待っていることを感じずにはいられません。

「55歳からのハローライフ」は再出発を果たそうとする中高年5つの物語。

・結婚相談所
・空を飛ぶ夢をもう一度
・キャンピングカー
・ペットロス
・トラベルヘルパー


老いを意識しながらも、前に向かって進んでいく同年代の主人公たちが他人とは思えなくなってきます。大なり小なり、みんな似たような問題を抱えて生きているんです。チョッピリ安心感が。

いつもどおりシニアライフに参考となる心に残った場面を切り取って、過去の振り返り、これから先の人生について考えてみたいと思います。

結婚相談所・・・後悔と共に生きる人生が最も恐ろしい。

主人公の志津子は54歳で離婚し独り暮らしで自立。人生再起をめざし勇気を出して58歳で結婚相談所に登録。
しかし見合いすること14回、まともな人とはなかなか巡り合わない。

別れた夫からも連絡があったり、相談員さんに励まされたり、そしてパーティーでは思わぬハプニングの出会いが、目まぐるしく時が流れていきます。

これからどう生きるのか・・・ラストシーンは励まされました。

確かに、人生やり直せるのかもしれない。とくに、絶望や失意のあとでは、やり直せるはずだと思わないと生きていけないだろう。
だが、他に生き方を見つけるということで、単純に元に戻ればいいというわけではない。そして、人生はやり直しがきかないと思っている人のほうが、瞬間瞬間を大切に生きることができるような気がする。

p74

これは中米志津子が再婚活動をやって多くの体験やいろんな人と巡り合いによって気が付いた人生訓。

私も還暦過ぎてから振り返りが多くなった気がしています。
人生これで良かったのか?このまま時の流れに任せていいのか?なんて考えることもあります。

やりたいことがあれば、今からでもやり直しはきくんじゃないか。
定年退職したら新しい人生が待っているんじゃないかとも。

平凡な毎日じゃダメなのか?そんなことはありません。
住む家があって、家族がいて、少々難は出始めたけど健康な身体があって、お風呂に入れて、たまに美味しいものを贅沢に頂く、こんな日常が少しでも長く続けられるだけで十分幸せなのでは?

還暦過ぎて独立して精力的にお仕事されている方も多くいらっしゃいます。
自分の好きな事、好きなようにお仕事できるなんて楽しいだろうし、素敵だし、素晴らしい。

老後の人生は人それぞれ。確かに「瞬間瞬間を大切に生きる」、大切な事だと思う。さて、自分の生き方探さなくては。アールグレイを飲みながら。

空を飛ぶ夢をもう一度・・・生きてさえいれば、またいつか

主人公の因藤茂雄は勤めていた出版社の売上が激減。リストラされて自らの生活の基盤がこれほどに脆弱なものだったのかと気づく。

ホームレスになるかもしれない、そんな不安を抱きながら落ち着かない日々をおくっている因藤は、交通誘導員のアルバイト現場で中学の時同じクラスだった同級生福田に出会う。

それからしばらくして、ホームレスのたまり場になっている山谷の簡易旅館から身元引受依頼の電話が。
福田は金も仕事もない重い病気にかかっているホームレスだった。
そして物語は思わぬ展開に。

最後は胸が熱くなるエンディングだったが、他人事ではないという不安も。

彼らはまず仕事を失う。病気や事故などで健康を失う場合も多い。生活に困窮すると夫婦仲が悪くなり、やがて家族を失い、そして住居を失う。
因藤茂雄は、最後にノートに赤い文字で書き込んだ。
「仕事、家族、健康を徹底して守ること。住居の死守。借金は絶対にしない」

p85

心配性の因藤が、ホームレス関連本を読み漁りノートにまとめたポイント。
私が20代のころは・・・・続く

☆☆☆ 続きは、ブログ⇩⇩をご覧いただければ幸いです

主なコンテンツ

・結婚相談所・・後悔と共に生きる人生が最も恐ろしい。
・空を飛ぶ夢をもう一度・・生きてさえいれば、またいつか
・キャンピングカー・・俺にとっての「外」とはいったい
・ペットロス・・・生きようという姿を示すだけで
・トラベルヘルパー・・・このどうしようもない孤独感

・5つの物語と5つの飲み物

この物語には、それぞれこだわりの飲み物が「固有名詞」で登場し陰でストーリーを支えているので、場面がより鮮明に目の前に出てきて感情移入することが出来ます。中編5編という流れをストーリー性以外、「飲み物」を通じて読者に関連性を感じさせる。
新しい発見というか、読み方が楽しめました。

「アールグレイ」、紅茶じゃダメなんです。
「プーアール茶」、中国茶じゃダメなんです。
「狭山茶」、日本茶じゃダメなんです。

この細かなこだわりが昭和世代に響きます。

・紅茶(アールグレイ)
・ミネラルウォーター(パラディーゾ)
・自ら淹れるレギュラーコーヒー
・中国茶(プーアール茶)
・日本茶(狭山茶)



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