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文体練習

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文舵、練習問題⑨〈問三:ほのめかし〉

文舵、練習問題⑨〈問三:ほのめかし〉

問三:ほのめかし
 この問題のどちらも、描写文が四〇〇〜一二〇〇文字が必要である。双方とも、声は潜入型作者か遠隔型作者のいずれかを用いること。視点人物はなし。
 ①直接触れずに人物描写――ある人物の描写を、その人物が住んだりよく訪れたりしている場所の描写を用いて行うこと。

 土曜深夜のオフィス。フロアの左を見れば真っ暗で、窓の外から差し込む微かな街灯の光が窓際に並ぶデスクを青白く照らしている。時

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文舵、練習問題⑨〈問二:赤の他人になりきる〉

文舵、練習問題⑨〈問二:赤の他人になりきる〉

問2:赤の他人になりきる
 四〇〇〜一二〇〇文字の語りで、少なくとも二名の人物と何かしらの活動や出来事が関わってくるシーンをひとつ執筆すること。
 視点人物はひとり、出来事の関係者となる人物で、使うのは一人称・三人称限定視点のどちらでも可。登場人物の思考と感覚をその人物自身の言葉で読者に伝えること。
 視点人物は(実在・架空問わず)、自分の好みでない人物、意見の異なる人物、嫌悪する人物、自分とまっ

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文舵、練習問題⑨〈方向性や癖をつけて語る〉問1

文舵、練習問題⑨〈方向性や癖をつけて語る〉問1

問1:A&B
 この課題の目的は、物語を綴りながらふたりの登場人物を会話文だけで提示することだ。
 一〜ニページ、会話文だけで執筆すること。
 脚本のように執筆し、登場人物名としてAとBを用いること。ト書きは不要。登場人物を描写する地の文も要らない。

「お久しぶりです」
「おー、久しぶり、何年ぶり?」
「いやー、けっこうですよね」
「もう十年くらい経ってるんじゃない」
「はあ」
「座って座って、

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文舵、練習問題⑧〈声の切り替え〉問2

文舵、練習問題⑧〈声の切り替え〉問2

問2:薄氷
 六〇〇〜二〇〇〇文字で、あえて読者に対する明確な目印なく、視点人物のPOVを数回切り替えながら、さきほどと同じ物語か同種の新しい物語を書くこと。

 揺らめく炎をぼーっと眺める。心が静まる。自分がどこで何をしているのかわからなくなってくる。何千年も何万年も前から人はこうやって炎を見つめてきたのだ、永遠に続く真理を極めんとする自分にはこの部が相応しいんだ、そう真吉は思い込もうとした。だ

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文舵、練習問題⑧〈声の切り替え〉問1

文舵、練習問題⑧〈声の切り替え〉問1

問1:三人称限定視点を素早く切り替えること。六〇〇~一二〇〇文字の短い語り。練習問題⑦で作った小品のひとつを用いてもよいし、同種の新しい情景を作り上げてもよい。同じ活動や出来事の関係者が数人必要。
 複数のさまざまな視点人物(語り手を含む)を用いて三人称限定で、進行中に切り替えながら物語を綴ること。
 切り替え時に目印をつけること。

「はい、大体全部読んでます。1冊か2冊、初期の方で読んでないの

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文舵、練習問題⑦〈追加問題〉

文舵、練習問題⑦〈追加問題〉

練習問題⑦〈追加問題〉
 問1について、三人称限定ではなく一人称で、別の物語を声にしてみよう。

練習問題⑦の続きです。三人称で書いた文を一人称で書き直す課題。元の文はこちら。

唐木田悟志の一人称
 首を小刻みに振り、チラチラと左後ろの方をうかがう。自分でも見過ぎだと思う。こんなに見ていたらそのうちバレる。でも気になってしょうがない。ついさっきだった。中吊り広告に見ていて、何気なく目線を下げた時

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文舵、練習問題⑦〈視点(POV)〉

文舵、練習問題⑦〈視点(POV)〉

練習問題⑦〈視点(POV)〉
 四〇〇〜七〇〇文字の短い語りになりそうな状況を思い描くこと。何でも好きなものでいいが、〈複数の人物が何かをしている〉ことが必要だ(複数というのは三人以上であり、四人以上だと便利である)。
 今回のPOV用練習問題では、会話文をほとんど(あるいはまったく)使わないようにすること。
 問1:ふたつの声
 ①単独のPOVでその短い物語を語ること。視点人物は出来事の関係者で

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文舵、練習問題⑥〈老女〉

文舵、練習問題⑥〈老女〉

 今回は全体で一ページほどの長さにすること。短めにして、やりすぎないように。というのも、同じ物語を二回書いてもらう予定だからだ。
 テーマはこちら。ひとりの老女がせわしなく何かをしている――食器洗い、庭仕事・畑仕事、数学の博士論文の校正など、何でも好きなものでいい――そのさなか、若いころにあった出来事を思い出している。
 ふたつの時間を超えて〈場面挿入〉すること。〈今〉は彼女のいるところ、彼女のや

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文舵、練習問題⑤〈簡潔性〉

文舵、練習問題⑤〈簡潔性〉

一段落から一ページ(四〇〇~七〇〇文字)で、形容詞も副詞も使わずに、何かを描写する語りの文章を書くこと。会話なし。

 顔を上に向け、息を吸い込む。空気が足りない。両足を踏ん張り後ろからの圧力を跳ね返しつつ、両手を使って前からの圧力にも抗っているから、吸ったそばから酸素が消費されていく気がする。ディジー・ラスカルのライブの途中からこの状態で、だから1時間以上になる。もちろん夢にまでみたリバティーン

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文舵、練習問題④〈重ねて重ねて重ねまくる〉問1:語句の反復使用

文舵、練習問題④〈重ねて重ねて重ねまくる〉問1:語句の反復使用

問1:語句の反復使用 
 一段落(三〇〇文字)の語りを執筆し、そのうちで名詞や動詞または形容詞を、少なくとも三回繰り返すこと。

 あれほど好きだったあの時のきみ、手を繋ぐだけで汗が出てきて、それを知られるのを恐れて僕がビクビクしていたあの時のきみ、滝沢たちと一緒に遊んでいる時も僕だけにわかる目配せーーあれを目にする度に、僕は自分が世界で一番の幸せものだと思ったものだーーをしてくれたあの時のきみ、

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文舵、練習問題③〈追加問題〉問1

文舵、練習問題③〈追加問題〉問1

問1:最初の課題で、執筆に作者自身の声やあらたまった声を用いたのなら、今後は同じ(または別の)題材について、口語らしい声や方言を試してみよう――登場人物が別の人物に語りかけるような調子で。

元の文章(文舵、練習問題③〈長短どちらも〉問1)を友達に語りかける文章に変え、そうすると色々内容を変えたくなったので、余計なものが結構足されています。

 でさ、そのとき俺は手を止めたんだ。だって、あるべきと

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文舵、練習問題③〈長短どちらも〉問2

文舵、練習問題③〈長短どちらも〉問2

問2:半~一ページの語りを、七〇〇文字に達するまで一文で執筆すること。

 高校のころまでは姉のことを語ろうとすると、どうしてもまず彼女が知的障がい者であること、そのために僕が受けた小学校でのいじめや父と母が歩んできた苦難の道のりを話すようなモードになりがちだったし、苦労が多かったのも事実にはちがいないのだけれど、いま思い返すと生き生きとした姉の姿、たとえば僕に殴りかかってくる時の必死の形相とか、

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文舵、練習問題③〈長短どちらも〉問1

文舵、練習問題③〈長短どちらも〉問1

問1:一段落(二〇〇~三〇〇文字)の語りを、十五字前後の文を並べて執筆すること。不完全な断片文は使用不可。各文には主語(主部)と述語(述部)が必須。

 本棚を調べる僕の手が止まった。二日前まであった場所にエロ本がない。最下段の右端、そこには『罪と罰』がある。途端に僕はヒヤリとする。これはメッセージかもしれない。罪を犯かせば、罰を受ける。風呂にいてもお前の行動はお見通しだ。兄の顔を思い浮かべ僕は身

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文舵、練習問題②〈ジョゼ・サラマーゴのつもりで〉

文舵、練習問題②〈ジョゼ・サラマーゴのつもりで〉

一段落~一ページ(三〇〇~七〇〇文字)で、句読点のない語りを執筆すること(段落などほかの区切りも使用禁止)。

 右からぶつかられそちらを向くと人はいなくて右前方に顔を向けると女の人が走っていたのだけれどその背中を見ればTシャツがびっしょりと濡れていたので右手にもったプラスティックのカップを見れば半分に減ったビールにため息をついて一気に飲み干して前を向こうとしたとき腰が浮き下を見れば角刈りの頭があ

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